【おはなし】ぬしつり
ぬしつり
月曜日、よい天気。ぼくは森の向こうの池へゆく。
グラグラが言ってたんだ。あの池には「ぬし」がいる。
「ぬし」ってどんな魚だろう。大きいのかなぁ。
つりざお片手にぼくは歩く。空は水色。
バスケットの中には、お水とリンゴとお昼ごはん。
しばらくゆくと、ぐねぐね道にまつぼっくりがたくさん落ちていた。
ぼくは形のいいのを3つだけ拾って、ポケットに入れた。
また歩いていると、小さな小さな川にさしかかった。
いつもはひょいと飛びこえるけど、今日は一人だから、ちょっと怖い。
どうしようかなと思っていたら、川のそばの木のうろで、子ウサギの兄弟がお店屋さんごっこをしていた。
『大きくジャンプできるニンジン まつぼっくり1こ』
ぼくはウサギのすえっ子にまつぼっくりを一つ渡して、ニンジンを一本もらった。
いち、にの、さん!
……ふぅ。ちゃくちせいこう。
小川をこえたら、池はもうすぐ。
つり糸の先にリンゴを結んで、じゅんびよし。
ぼくの家の庭でとれたリンゴだよ。魚が食べたって、ほっぺたが落ちるんだから。
さぁ、「ぬし」をつるんだぞ!
グラグラが言ってた。
池にぬしがいるときは、川ぞこの石が青く光って、それはそれはキレイなんだって。池の中をのぞきこんでみたけれど、光る石なんてどこにもない。
なぁんだ、今日は「ぬし」いないや。
糸をたらして、池のほとりに腰かけたら、あとは待つだけ。
ぎゅるるるるるる……
あら、おなかの音。
お日様は空のてっぺん。お昼の時間だ。
お昼ごはんは、野菜とたまごのサンドイッチと、チョコレートのサンドイッチ。
どっちから食べようかな。
ぼくは少し悩んで、チョコレートのサンドイッチから食べることにした。
いただきます。
風はそよそよ、雲はぷかぷか。
木の葉はざわざわ、池はちゃぽんちゃぽん。
つれるかな。つれるといいな。
のんびり雲を数えていると、突然つりざおがぐいっと曲がって、水の中に向かって引っぱられた。見ると、川ぞこの石が空色に光ってる。
ぬしだ、ぬしがかかった!
ぼくは引っぱる。
ぬしも引っぱる。
ぼくが一歩さがると、ぬしも水の中で深くもぐる。
ぼくらの力はごかくだ。
ぐいぐい、ざざざ、行ったり来たり。
つりざお、折れませんように。
ぬしはどんな魚だろう。銀色なのかな。尾びれはひらひらしてるかな。
釣りあげたら分かるかな。
ぼくは力いっぱいさおを握った。がんばれ、ふんばれ、あと少し。
すると……
ふわんっ
と、釣り竿が軽くなって、ぼくはその場でしりもちをついた。
あーあ、ぬし、逃げちゃった。
がっかりして釣り竿をあげると、糸の先のリンゴはなくなっていて、
そのかわり何か結んであった。
それは、青く光る、すべすべの丸い石。
赤いリンゴが、青い石になった!
「ぬしー、ありがとう! またリンゴ持って来るねー!」
帰り道は暗かったけど、ぬしがくれた光る石のおかげで、まっすぐ帰ることができた。
この石、グラグラへのおみやげにしよう。
自己紹介しか投稿していないのもなんなので、さっそく一つもってきました。これは以前、とある絵本コンテストのストーリー部門に応募して
落選したおはなしです。
落選したからには伸びしろがあるということなので(ポジティブシンキング)、ストーリーはそのままところどころ表現を変えました。
物語としては「つれないんかーい」という感じですが、自然界の主たるもの、そう簡単に釣られちゃいけないし、釣ろうとしてもいけないと思うんですよね。
自分ではけっこう好きな雰囲気です。