ユースのためのアーバンデザインスクール「watage youth studio」はじまりました!
サマースクールとは?
watage youth studioサマースクール(2024/8/18~8/31)では、公募で選ばれた7名の多様な背景を持つ学生たちが、千代田区鍛冶町に新しくオープンしたコミュニティスペースwatageを拠点に、神田の「夜の広場」というテーマに取り組みました。
6日間にわたるプログラムの「まなぶ・つくる・やってみる・そだてる」という4つのフェーズを通して、地域の可能性や課題を発見し、そこから生まれたアイデアを実際に形にし、まちに提案することまでを行いました。
1日目、2日目は「まなぶ」。神田のまちと夜についての解像度を上げるための、対話と講義を中心にしたプログラムです。フィールドリサーチ、レクチャーやワークを行いました。
3日目、4日目は「つくる」。2チームに分かれ、実際に「夜の広場」のデザインを考え、形にしていくプログラムです。広場の模型やモックアップの制作を行いました。
約1週間の自主制作期間を挟んで、5日目は「やってみる」。チームごとに、制作物とそのコンセプトをまちに向けて発表しました。近隣地域の方々やナイトエコノミーの専門家もお招きし、アイデアについての講評を行いました。
最終日となる6日目は「そだてる」。発表を振り返り、今後継続していくためのデザインアップデートを行いました。
テーマは夜の広場
なぜ夜なのか?
神田ではかつて、毎月1と8がつく日に「一八縁日」という縁日が行われ、夜時間を家族や友人と楽しむ文化がありました。また、まちの文脈では、気候変動や温暖化の影響で年々暑くなっていく都市において、暑さを避け、陽が沈んだあとの時間をいかに楽しく豊かに使いこなしていくかということが注目されています。
なぜ広場なのか?
神田周辺にはそもそも広場が少ないのが現状です。しかし、watageの近くには廃校になった旧今川中学校という地域から愛される場所もあり、もっと活用していける可能性にも満ちています。
熱帯地域の国々では、日が沈んだ夜の時間帯に人々が外に出て、広場やたまり場でリラックスした時間を過ごす文化があります。例えば、ベトナムのホーチミンでは20時以降に若者や親子連れが路上に集まり、シートや椅子に座って食事を楽しんだり、ゆっくり過ごす風景が日常的に見られます。東京・神田の文脈で、どんな広場がこのまちに必要かを考えることは、将来のまちへの提案として重要なテーマとなっています。
夜の可能性を考える
あなたにとっての夜とは?
そんな問いからスタートしたディスカッションは、それぞれの人が思う夜のイメージや、夜をテーマにした本や映画、音楽、絵画、社会課題まで、さまざまな話に広がりました。夜の寛大さ、癒やし、冒険、ロマンスなど、様々な表情が見えてきました。
夜の忘れられない思い出は?という問いに対しては、電話しながら朝まで課題をしたこと、モンゴルで焚き火を囲んだこと、友達と深夜にサイクリングしたことなど、夜に対してそれぞれが抱くイメージや記憶が浮かび上がりました。
熱帯化する都市とナイトタイムデザイン
気候変動の影響で、熱帯化する都市。今年の東京の夏も記録的な猛暑となりました。数年前にバルセロナ市が発表した「climate shelter」の取り組みなど、世界各地の都市で、いかに暑さを凌いでいけるかがまちのデザインの焦点となっています。東京の都市でも、涼しさを求めて夜に活動することは、今後ますます増えていくことが予想されます。
灯りのデザインを通して夜の楽しさと安全性の向上を目指すコロンビアでの「City Lights Nighttime Design」など、世界で広がるさまざまなナイトタイムデザインの事例を参照しながら、夜の可能性を学びました。
世界の夜活用の事例
「夜の時間」をもっと楽しみ、活かすためには?国内外で行われているさまざまな実践を、ナイトタイムエコノミー推進協議会の伊藤佳菜さん、NEWSKOOL代表の鎌田頼人さんを講師に迎えて考えました。
たとえば、韓国・ソウルの「ナイトライブラリー」では、図書館が主体となって、夜間に本を楽しむ公共空間が提供されています。東京の「夜のパン屋さん」では、売れ残りのパンを夜間に販売し、社会復帰を目指す人々を支援する取り組みが行われています。夜はまだまだ、活用可能性に満ちているフィールドということを学びます。
異なる立場からみた夜
夜時間のイベントを企画する際には、地域住民の意見や安全面も考慮する必要があります。伊藤さん、鎌田さんとのワークショップでは、異なる立場から見た時、夜の活動に対してどのような反対意見が地域から出るのか?具体的に8つのペルソナになって考えました。
例えば、警察官、町会長、自宅療養中の住民などになりきって考えると、騒音や治安、交通の問題、イベント後のゴミ処理など、さまざまなイベントの課題が浮かび上がります。それらの反対意見をどうクリエイティブに解決できるか?をみんなで議論しました。
神田の夜を知る、夜のフィールドワーク
地域の散歩の達人によるローカルツアー
神田ならではの夜の魅力を探るため、地元の町会長であり散歩の達人でもある田熊清徳さんの案内で、神田の歴史的なスポットや隠れた名所を巡るフィールドツアーを行いました。江戸時代の地図を片手に、夜の神田を歩き、歴史とのつながりやその変遷を体感しました。神田を俯瞰できる橋、暗渠、高架下、神社、銭湯、民間公園、路上園芸、歴史的建物、秘密の2階空間、地下通路など、昼間とは異なる顔を見せる夜のまちを駆け巡り、参加者が面白い・良いと感じた場所を撮影、紹介しあいました。
セーフティマップ
夜時間について考えるとき、避けて通れないのが安全の問題です。昼間よりも危ない時間と思われがちな夜を楽しむには、誰もが安心して過ごせる環境が必要です。まちの中で「なんとなく怖い」と感じる場所が、なぜそう思われるのか?照明の不足、雑音の多さ、人の少なさなど、さまざまな要因が夜の街の印象を左右しています。逆に、人の気配が少しあるだけで、安心できる環境に変わることもあります。
心理的な要因や環境的な要因を見つめ直すと、性別による感じ方の差異もあることがわかりました。安心・安全と感じる場所と、不安・危険を感じる場所を実際に歩きながらリサーチし、撮影した写真を地図上にマッピングしました。
お散歩ゲーム(身体拡張)
夜の時間に何する?何したい?そんなアイディアをより自由に発想するために、お散歩ゲームを行いました。このゲームでは、参加者がwatageオリジナルのお散歩ゲームカードをランダムに引いて「どこで」「何をするか」を決定。例えば「古い建物の前で、3分間深呼吸して佇む」「外国っぽい場所で、座ってみる」など、普段ではやらない行動を通じて夜のまちを新たな視点で体験しました。
夜の神田に広場を立ち上げる
廃材ハンティング
watageの空間の90%は、新品ではなく廃材や今手に入る素材を使って構成しています。今回の模型とモックアップ制作もなるべく新しい物を買わないために、京浜島に廃材倉庫を構える、クリエイティブチーム「Re-think廃材」のFukugaki Keigoさんに協力いただき、みんなで使用する廃材をハンティングしました。
実制作
2チームに分かれ、それぞれがほしい「夜の広場」を実際に制作していきました。チームには、建築やデザインに詳しいメンターが2人ずつつき、制作をサポート。これまでのフィールドワークやレクチャーを踏まえ、神田のどこに置くと、どのような風景や体験が生まれるのか、自分たちはどんな広場を見たいのか、毎日のように話し合いながら、イメージを形にしていきました。
夜だからこそできること
まちの人へのプレゼン
発表会当日。ユースが考えた夜の広場の提案を行いました。オープニングアクトには、地元の神田祭のお囃子隊「鼓鍛冶」チームがお囃子の演奏をプレゼントしてくれました。また、ゲスト講評者として、ナイトタイムエコノミー推進協議会代表理事の齋藤貴弘さんや、地元の町会長も駆けつけ、意見を交わし合いました。
💡夜の広場の提案① 夜担ぎ「バッショイ」
最初のチームのアイデアは、夜に担ぐ神輿「バッショイ」。神田の象徴でもある神輿をモチーフに、その場にいる人が力を合わせて担ぎ、まちを練り歩くことで、日常とは違う特別で解放感のある体験を創り出します。
実物大のモックアップの「夜担ぎ」を通して、神田の様々なスポットでの多様な夜の過ごし方を実演し、バッショイを通して神田のサラリーマンや若者にエネルギーと解放感を味わってほしいと提案しました。
💡夜の広場の提案② 夜流/YONA - 今日もいい音やってます -
もう一つのチームは、神田に点在する遊休空間<都市のポケット>(駐車場や公園、鉄道高架下など)を活かし、偏愛を音楽で表現できる屋台プロジェクト「夜流 / YONA ~今日もいい音やってます~」をプレゼンしました。
暗がりや危険になりがちな場所に、好きな音楽を持ち込み流せる屋台を期間限定で設置することで、明るく自由な自己表現の舞台に変え、そこから新たな繋がりが生まれる風景を提案しました。
展示の実施と今後に向けて
ユースが制作した「夜の広場」の模型やモックアップ、また対話やフィールドリサーチ、講義を通じて夜時間の活用可能性について考えた記録を、8月30日から9月30日までwatageにて展示しました。期間中は、ふらりとwatageに足を運んだ近隣の方々や全国から学生が訪れ、展示にさまざまな感想を寄せてくれました。9月25日には「とりあえず、まあやってみよう企画」として、YONA(夜流)チームメンバーが実際に屋台を稼働、集まった人の好きな音楽を流してみる会をwatageで実施。その他にも、学生主体で別の地域でのイベントなどでも出展が決まっており、アイデアをサマースクールだけで終わらせず、実際にまちに関与していくための動きが始まっています。
まとめ・今後に向けて
約2週間かけて、神田のまちと「夜の広場」というテーマにユース7名が真剣に向かい合った今回のプログラム。短期間にチームでアイデアを形にしていくプロセスは、難しさや苦労も伴いました。また夜というフィールドの面白さ、可能性と同時に、夜ならではの課題も浮かび上がり、ユースたちやwatage運営チームにとって、これらの経験は今後のまちとの関わりに向けた貴重な学びとなりました。ユースが提案した2つのアイデアは、ここで終わりではなく、watageを通して今後も継続的に、一緒にまちに向けて提案していきたいと考えています。若者たちや地域の方々と一緒に、まちに新たな種をまいていく。その第一歩として、watageサマースクールは、若者と地域との新たなつながりを生み出すきっかけとなりました。
今後も、まちを育む「学び」と「実践」の場として、watageは様々なイベントやプログラムを実施していきます。