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開業に必要な3つの鏡

開業までのプロセスには多くの苦労が伴います。
意思決定の連続で選択疲れを起こすほどです。
その中には間違えたら一生を棒に振りかねない選択もあります。
意思決定での失敗を防ぐため「3つの鏡」を意識して難局を乗り越えていきました。

良い意思決定をするための要素とは何か、と問われれば、「貞観政要」という、古くから「皇帝学の教科書」と呼ばれる書で語られる「三鏡」があげられる。

第一の鏡は普通の鏡である。この鏡は、自分の顔や姿を見て、元気で明るく楽しく生きていることを日々チェックするためのものである。

第二の鏡は歴史の鏡である。大きな流れは、過去の歴史を見なければわからない。よい意思決定をするためには、歴史や教養を学ぶしかない。

第三の鏡は人間の鏡である。当時の中国には「諫官」という職務を司るものがいて、皇帝に対して諫言する役割を担っていた。太宗は諫官・魏徴の忠告をよく聞き入れ政治に反映させたという。つまり第三の鏡は、自分の横にいてくれるスタッフのことである。人間は「あなたは間違っている」と誤りを直言してくれる人を置かない限り、必ず間違うものだ。それを避けるためにも、太宗は人間の鏡の必要性を説いたのである。

出口治明(2014). ハーバード・ビジネスレビュー, 306, 41-44

体力勝負

 はっきり言うと、開業は大変です。私はかなり順調に事が運びましたが、それでも身に堪えます。人生でめったに経験することのない金額や、初めての手続きや業務の連続です。忙しさに翻弄され、疲れを超えてしまいます。
「なんか大丈夫な気がしてきたぞ!」って時が危険です。
 そんなときは、セルフチェックが大事です。怖い顔をしていないか、疲れた表情をしていないか、洗面台の鏡で客観視します。怖い顔をしていたら、そういう時に重要な決定はしない。ちょっとでも良いので、違うことをしてリセット。マラソンで言うと、走りながら太ももをペシペシたたく感じです。休むというより、気持ちをリセットする感じです。これだけでも全然違います。

タイパとコスパのいい読書

 そして自主勉です。開業は大変ですが、みんなが通った道です。しっかり舗装されています。豊富な前例があるので、数冊の参考書に目を通すだけでなんとかなります。
 むしろ重要なことは、開業ノウハウよりも幅広い分野の本を読むことです。読書で異分野の世界に触れて、視野を広げることが大切です。

 歯医者をやっていると、どうしても視野が狭くなります。
視野がどんどん狭くなっていき、考え方が凝り固まってしまいます。
誰かが勝手に決めた保険点数の増減に一喜一憂するようになり、個別指導におびえながら、レセプト請求をこねくり回す人生なんて、楽しいのでしょうか。

 私の尊敬する出口治明さんは「メシ・風呂・寝る」の人生から「人・本・旅」への変革を訴えられていました。
人と話して、たくさん本を読み、旅に出て刺激をもらう。
この中で読書がもっともコスパもタイパもいいです。
図書館に行けばタダで読み放題です!超高価で入手困難な「貞観政要」だってタダで読めちゃうんです。昔は門外不出の秘伝書であったものも、普通に入手して読める。凄い時代です。
偉くなったと勘違いしやすい医療従事者こそ、異分野の読書で世界を広げなければなりません。

第三の鏡

 開業時には巨額のお金が動きます。そのため、甘い言葉ばかり吹きかける人が寄ってきます。

先生の力になりたい
先生のためを思って
先生は素晴らしい!

こういうことを言う人たちには注意してください。マーケティングリサーチとかいう、もっともらしいデタラメな数字の羅列をもってきて、バラ色の開業医人生を夢見させる。あなたを踏み台にして儲けたいだけです。

「お前はバカか。それは間違っている」くらい言ってくれる人が大切です。

開業のときも、今のスタッフにも私の年下はいません。
院長が一番若いんです!
だから、みんなが臆することなく言ってくれました。
久しぶりに親父に怒られました。
ダメなことは忖度せずはっきりと言ってくれたおかげで、無事に開業できたのです。

開業時も、開業後もそうですが、お山の大将になったら終わりです。
特に歯医者は患者さんから「先生」と言われるため、ふんぞり返りやすい。
人は必ず間違える。そして間違いに気づかないものです。
その間違いを忠告してくれる人を大切にしなければならない。

間違いを指摘してくれる人は本当に貴重な存在です。
「あなたは間違っている」と面と向かって進言することは、なかなかできることではありません。
言われる側もそうですが、言う側だって気分が良いわけがない。
だから、ほとんどの人は言わない。言って人間関係をこじらせるくらいなら、曖昧にするでしょう。こんな時代ですから。

だから三鏡のなかで人の鏡が最も大切なのです。

開業はとても大変です。ですが今振り返っても、まったく後悔していません。独立したほうが自分らしく生きている感じがします。


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