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【-28- 青臭い春|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(9)】

 降りる駅の近くにある桜の遅い開花で、まだ制服に味がない新生徒の入学式は余所よりは仄かに彩りよく始まった。

 私が入学した『自由立高等学校』はおだてにも偏差値は高くないが学費も高くない。また開校70年以上変わらない教育方針として積極的に徹底的に風紀に厳しく、理由はどうあれいつでも制服の学ランはまず第1までキッチリ閉めないといけない。何なら私が入学する5年前までは「髪型は坊主」と生徒手帳に記載されていたほどの校名に似合わぬ超硬派な男子校であった。

 ちなみに私の隣にいる出席番号1つ後ろは登校初日から第3ボタンまで開けてる大変分かりやすいタイプの不良で、もちろん先生たちとの衝突もあった。今後登場する予定ないのでネタバレすると、彼は高校2年後半から風紀委員長に就任し、まず誰よりも正しい生徒の模範として卒業するその日まで己の職務を全うした。

 これは他のクラスでもそうなのだが、私が配属された1年4組は男子校なので教室には野郎しかいない。では共学が良かったのかと聞かれると答えはノーである。今までの学生生活から基づくと一人を除く同世代の女子に対して気まずさと恐怖感を抱いていた。とてもではないが、どう接すれば良いのか分からない。分からないから気まずくなる。気まずくなるから怖くなる。別に誰でもいいから彼女が欲しいという考えもないので、今は誰も私の過去を知らないこの野郎だらけの教室で少しずつやり直すことに専念したい。

 ここで少し訂正を入れると教室にいる全員が男性なわけではない。たとえば女子校の担任が男性であるように、このクラスの担任は女性である。担任の名は絵布小鞠先生。担当教科は生物(今年は理科総合A)。絵布先生は国立の女子大学・大学院にて理学博士を取得した正真正銘の理系女子である。更にこれから入部する科学部の顧問でもあったので、何だかんだ付き合いが長い結果になった。ちなみに先生は及川光博の大ファンだったが彼の結婚報道でた時は私はもう卒業してたので現在どうしてるか知らない(※暴露)。

 話は変わるが個人的な朗報が4つある。

①いじめる不良がいなかった。

 クラスに怖い不良がいるかいないか、これは今後の学校生活において最大の賭けだと言っても過言ではない。先ほどの例でもそうだが、ウチのクラスにいた不良たちはビジュアルはイメージ通りなのだが、小中学時代に遭遇した奴らのような人として卑しい行動する人がいなかった。たぶんクラスのほとんどが地元民ではなく電車からの通学組なので1年生の内から休日わざわざ電車に乗ってまで仲間とつるむ要素がまだ足りなかったからだと思う。

 そのかわりクラス内では誰にでも声かける気前の良い兄ちゃんとして、人によって好き嫌いあれど自分には心地よかった。まあ、中には腰パンしている生徒もいたが次の体育でジャージに着替えるときに「俺マジ不良だからここまで下げたわ~!」とくるぶし辺りまで下げて教室を徘徊するレベルだ。

 他にも、その日テンション上がりすぎて駅のホームに降りて線路歩いてしまった生徒もいたが、それはさすがになので数日後に退学となった。その生徒とは別に友達でもない顔見知り程度だったから「(ああはなりたくねぇな…)」と授業前の担任の通達を横目に重々思った。

 幸いにも私の周りにそういう奴はいなかった。

 唐突だった、紹介しよう。

②友達が3人できた。

 まず1人目は「杉下」。

 彼とは通学の電車が一緒でなんと降りる駅も隣同士だった。その縁か色々と会話する機会も増えて部活ない日はよく一緒に帰っていた。

 次に2人目は「仲代」。

 彼とはポルノグラフィティのファン仲間としてポルノの魅力やお互い好きな音楽の話題で独りよがりだった音楽観に花が咲いた。

 最後3人目は「七山」。

 彼とはどちらかというと悪友の関係に近かった。いわゆる高校生特有の“悪ノリ”を共にするメンバーだ。というのも彼は私のいる科学部に入部し、大変ノリが良い先輩たちと一緒に楽しくフザケてた。たとえばフリスク一箱50粒の一気食いとか。当時バカだと思ったが今でもバカだと思う。ちなみにフリスク50粒を口の中に入れると、水道水を液体窒素でキンキンに凍らせた氷を口に入れたときの感覚が味わえる(どちらも体験した私が言うのだから間違いない)。

 この繋がりで書くことにする。

③部活動が大変楽しかった。

 中学時代ずっと帰宅部だったから人生で初めて「部活」というものを経験した。

 中学3年で遅咲きの科学の門を叩いた私を気前良く温かく受け入れてくれたことは、そういう対応マニュアルをまだ持っていなくても嬉しかった。

 また、その先輩たちも個性的だった。

◆軍事ヲタク(科学部部長)
◆自動車ヲタク(副部長)
◆学年主席(参謀長)
◆写真部部長(掛け持ち)
◆人情派相談役(唯一の2年生)

 そしてウチら生意気な下っ端一年兵。

 時たま顧問である担任の絵布先生と3年生の学年主任の柵木先生(担当教科は物理)の叱咤と激励と説教をくらいながらも窓が暗くなるまで誰かが笑っている。そんなユルい部活動だった。

 では、部活が始まるまではどうしていたか。

④下手くそながらも勉強を楽しんだ。

 名誉的にあまり言うべきではないが、ウチの学校は偏差値が低い。ゆえにどの教科も基礎の基礎からスタートになる。だが、それが今まで知識が乏しい自分には合っていた。

 黒板に書かれている何もかもが新鮮に感じて、ここがテストで重要だとかすっ飛ばして、ただただ面白く頭の中に入れていった。あえて補足すると好きと得意は必ずしも比例しない。1学期の中間・期末テストの順位はたしか良くも悪くもなく真ん中ぐらい。でも今までの事からしたら上々の成績。何より赤点がないのは想像以上に清々しい。

 いっそ、札束みたいに上に投げ飛ばそうか?

 いや、普通に考えて出来ない。[反語]

 以下、4点をまとめると、16歳の自分には刺激が多すぎて疲れた。信じられないくらいに良い意味で。何だか疲労をかみしめたら鼻もかみたくなった。

 そういや男子校生になって進化したことがある。

 机の中にボックス型のティッシュが置けるようになった。これは共学では不可能な手段だと思う。ついでに周りにティッシュ必要な奴がいたらボックスを貸してカミュニケーション!

 こういうのは持ちつ持たれつである。

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【あとがき】

 いくつになっても中2のような臭い文章書くのは楽しいものです。

 渡辺綿飴です。

 今回は当時の楽しさを思い出したせいで過去類を見ないぐらい特定の登場人物が増えました。

 いくらエッセイとはいえ、いいのか、こんな勝手に出して。

 エッセイ漫画の大御所:小山健先生いわく、ネタにする人から激怒されることを覚悟の上で描くのがエッセイのコツとのこと。その教えを受けたエッセイ漫画の新星:原田ちあき先生は色々な人にビビりながら漫画を描いているらしい。なので、そのコミックエッセイを読んだ自分も色々ビビりながら書いています。

 この感じ、何というか…。

 完全に売れっ子作家気取りです。

 何にもないのに…。

 何にもないのに…。

 何にもないのに…。

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