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Q.一目惚れって経験ありますか?

A.対人において一目惚れはありませんが、経験はあります。

忘れもしない高校2年生の夏休みのとき。

その経験について以前記事に書いたので、一部だけ再掲載します。

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【-32- つまり人生には出会いと別れがあってだな、|いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない(13)】

 突然だが、生まれて初めて一目惚れを経験した。

 その素朴な姿形から漂う品性まで私の奥底に抱える感性すべてを飽きなく心地よく刺激してくれた。少しでも隣にいられたら、その影が私の影になれたら、あわよくば正式に人生のパートナーになれたら、一瞬にして一分一秒毎にそう思って仕方なかった。

 まさに一目惚れである。

 といっても、人間の考えるこのベクトルの先が必ずしも同じ人間だとは限らない。

 私の先は人間でも動物でも絵画でもない。夏休みのオープンキャンパスで訪れた大学である(そもそも簡単に惚れるほど人間好きじゃない)。

 このとき私が訪れたのは国公立の大学『東京工業大学』である。

 中学時代のラジオ工作から機械工学の勉強そして研究を夢見る私には、そこは某ネズミの遊園地よりも夢の遊園地だった。実は数日前にT大学の日本一有名な赤門もくぐったが、直感で私にはここの方が肌が合うことが分かった。

 東京工業大学は東京都内にある全国最高峰の理系単科型大学で、研究規模も世界どころか成層圏すら越える。

 私も成層圏を越えたかった。面接試験はないものの、志望動機がこれでは「さすがに…」なので架空の尻尾を振りながら学校説明会を丁寧に噛みしめて聴いた。

 そうだ、ここに骨を埋めよう。そしてキャンパスの広場に咲く桜の花びらの養分になろう。梶井基次郎に迷惑かけるほどの変態になりかけた(すみません嘘です今思いついて書きました)。

 その日に貰った大学案内は狭い机の本棚を少し誇らしくしてくれた。抽象的よりも具体的な目標があると今やってる勉強の意味も納得しやすい。この勉強は受験のためにするのではなく、もっとその先にある研究に繋がっていて、受験なんてその通過点にすぎない。元はと言えば受験勉強が嫌いだった。学校および今の教育制度は生徒に勉強させるが、その理由が模範的な大人になるための教養とかではなく、ただただノルマとなる受験を事なかれにパスされるように勉強させる。そして生徒側も、その根本的な異様さに疑いを感じない。

「とりあえず大学にいく」

 三平方の定理を発見したときのピタゴラスの情熱と感動が分からないのか。君が外国語を覚える理由はなんだ。その国の文化に触れたくないのか。ただ単純に不思議だった。

 もちろん試験を行う意味は分かっているし、「とりあえず」が付く理由も分かっている。

 でも、それは高卒と大卒の格差を露骨にさせた会社が、若手を育てない・生活の面倒をみない社会が、こういう差を生んでいると当時から思っていた。科学者にしろデザイナーにしろ漫画家にしろアスリートにしろ役者にしろアニメーターにしろ幾度も世界に羽ばたけるチャンスを折っては潰してきた日本は、やはりガラパゴス国家だった。

 昔から「出る杭は打たれる」があるように昔から日本には飛び級を認めない傾向がある。そういう思想がゆとり教育を生んだ。特技や才能があるのは恥ずかしいことではない。それにさっきの言葉には続きがある。

「出る杭は打たれるが出すぎた杭は打たれない」

 まだ中2についた寝癖を直さないまま夢を持った未成年は「打たれるかコノヤロ」と曖昧だった数学基礎を固めるため、まずは小2算数のドリルを解いていた。基礎は大事だよね、うん。

 それに、

人が想像できることは、人が必ず実現できる。

ジュール・ヴェルヌ(1828年~1905年)

 あの大学の研究室で作業している姿を鮮明に想像できる自分は実現できる。想像している今の自分は、きっと強い。

「お前…マジでやめとけ」

 夏休み登校日の二者面談で早くも打たれた。

 たしかに夏休み前の進路希望調査で『理系』とだけチェック入れといて具体的な大学名を書かなかった私が悪かった。でも会ってしまった以上はロマンティックが止まらないの、担任よ。

「どこか予備校には行ってんの? 夏期講習は?」

 このとき私は目の前で明らかに嫌な顔をした。

 先ほどダラダラと書いた価値観から察する通り私は同じ勉強でも受験勉強が大嫌いだった。ならば自ずと予備校への嫌悪感は凄まじかった。ああいう所があるから、この社会は歪んでいるのだ。害悪と闘う私は絶対行かないと決めていた。

 あまりのドヤ顔にドン引きした担任は「高2の間だけだぞ」と猶予期間を言い渡して私の面談が終わった。

「見返してやるぞぉ~♪」

 今から見ても脳内ハッピーだった。そしてハッピーだった私は路熱も落ちつく処暑(23日)辺りから基礎より重要な夏休みの課題摘みに追われていた。改めて課題の楽しなさを痛感した。命令された仕事ほどつまらないものはない…。

 結局は血と汗と涙(と半分ヤケ)で何とか2学期初日に納品できた。

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なお、その後の私は壊滅的な学力不足により不合格どころか一度も受験することなく、6浪目にして東京工業大学よりも遥かに低い偏差値31の地方総合大学(当時の倍率1.1)すら不合格通知が来て、次回の学費どころか来月の家賃すら払えないほど資金不足になって、そのまま自主中途しました。

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渡邉綿飴
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