漫才『アガサ・クリスティー』
ボケ:布袋
ツッコミ:真田
〇演芸場・ステージ
真田
「どもー! ポテトサラダです」
布袋
「よろしくお願いします。突然だけどさ、ひとつ聞いていい?」
真田
「おぉ、良いよ。何?」
布袋
「最近さ、漫才する機会減って暇なんだよ。そっちどぉ? 忙しい?」
真田
「俺らさ、コンビだからお前がなかったら俺もないよ」
布袋
「そっか…まあ落ち込まずに頑張れ(哀れな人を見る顔)」
真田
「だからぁ、お前も一緒なんだよ」
布袋
「参考にならないけど、僕は面白いと思うよ?」
真田
「殴るぞ。センターマイク外して殴るぞ」
布袋
「まあまあ。それで昔読んでた小説を今読み返してまして。特にミステリーが好きで、アガサ・クリスティーなんか全作読み終えました」
真田
「ミステリーなんて良い趣味ですねえ。自分も小説読むんですけど、クリスティーは2作しか知らないんですよ。何かオススメの作品教えて」
布袋
「そうだね……『ABC殺人事件』なんかミステリー初心者にいいよ」
真田
「そのタイトルよく聞くけど、内容知らないんだよね」
布袋
「これはね、イニシャルがAの町でAの人が殺されるところから事件が始まるんだ」
真田
「ふんふん」
布袋
「それで次はBの町でBの人が殺されるの」
真田
「ほー」
布袋
「そして今度はCの町でCの人が殺されるんだ」
真田
「まさにABCの順に殺されてる!」
布袋
「また殺人が起こるんだけど、今度は何だと思う?」
真田
「順番的にD?」
布袋
「ううん、Mなんだ」
真田
「え、予期せぬ展開」
布袋
「で、Aがまた殺されるんだ」
真田
「意味わかんない怖い怖い」
布袋
「続けてR……T……」
真田
「“ABC-MART”じゃねぇか」
布袋
「ABCマーダー」
真田
「マート! 靴屋しか情報ない」
布袋
「あとオススメなのが『オリエント急行の殺人』」
真田
「あっそれは読みましたよ。トリックも有名ですしね」
布袋
「全員ね」
真田
「そう全員ね」
布袋
「まさか全員死ぬなんて…」
真田
「それ違う作品っ!『そして誰もいなくなった』! この短時間で知ってる2作出ちゃったよ」
布袋
「列車に乗ってた全員が殺されますからね」
真田
「全員だったら誰が運転してんだよ」
布袋
「えっ……犯人?」
真田
「その時点で誰かいるじゃん」
布袋
「うっさいなあ…。運転室もいないでいいよ」
真田
「それだとアリバイ合わないんだよ! 設定ガバガバだな!!」
布袋
「じゃあストーリー重視で『ナイル殺人事件』」
真田
「それは知らないので楽しみですね。ナイルとあるようにナイル川を題材にした事件が起こるんですか?」
布袋
「そう、登場人物たちが乗っている船上で殺されるんだ。一体、誰が、ナイルパーチを殺したのか…!?」
真田
「えっと、うん、当てようか。ナイル川の漁師だよ。食用魚のナイルパーチを殺すのは漁師さんだよ。あと船上って漁船なの!?」
布袋
「いいや殺害船」
真田
「兄弟船みたいに言うな」
布袋
「そして最後に読んでもらいたいのが『アクロイド殺し』」
真田
「へー、それも知らないや。どんな内容なの?」
布袋
「まずね、人里離れた森の悪路の先にある井戸が舞台なんだけど…」
真田
「いや待てっ。読んだことないけど絶対違う! というか何でクリスティが日本語で書いてんだよ。あの人たしかイギリス人だろ」
布袋
「まあ聞いてくれ。ある日、女性が殺されて犯人がその井戸に捨てるんだ」
真田
「はあ、遺体遺棄ってやつですね」
布袋
「でも彼女は完全には死んでなくて、朦朧な意識で命を絶つの」
真田
「うわぁ…。最後の最後まで苦しい目にあって…可哀想に…」
布袋
「その憎む気持ちが彼女を怨霊に変えるんだ」
真田
「ん?」
布袋
「夜の森に彼女は井戸を登ってきて…」
真田
「それ貞子だよね? ミステリーどこいった」
布袋
「彼女は犯人を殺したい気持ちに満たされるの」
真田
「少なくとも彼女は犯人知ってるから探せますね」
布袋
「それで彼女は森を離れて、そこに偶然通った列車乗り込んだら犯人乗ってたから呪いで殺すんだ」
真田
「まったくミステリーじゃないけど良かった良かった」
布袋
「でも初めてだから力の加減が分かんなくて列車の全員殺しちゃって、慌てて成仏して話が終わるの」
真田
「『そして誰もいなくなった』!! もういいよ」
(おわり)