イベントレポート CP+2024「学生vsプロ写真家のフォトバトル」
2月24日までパシフィコ横浜で開催されているCP+(シーピープラス)は、写真機材メーカーなどが一堂に揃い、全国の写真愛好家や関係者が集う展示会。出展する主催者やメーカーのブースではプロ写真家や開発者によるセミナーが開催されているが、その中で「学生vsプロ写真家のフォトバトル」と題されたイベントが(一社)日本学生写真部連盟(以下、FUPC)、(公社)日本写真家協会(以下、JPS)によって開催された。
筆者もJPS会員、つまり写真を生業にしていて、十数年会員資格を継続しているのだが、JPSがこうしたイベントを、しかもCP+で行えたことは大きい。昨年首脳部が大胆な若返りを果たしたJPSの大いなる意欲を感じさせるものだった。イベントの内容は「フォトバトル」の名の通り、プロと学生各々5人がテーマに沿った作品を出し、観客(会場に加えYouTubeライブでの視聴者)の投票で勝敗を決めるというもの。以下、それぞれの対戦についてレポートするが、主にテーマの表現についてを中心に進めたい。なお、イベントそのものはしばらくYouTubeで視聴できると思うので、本記事はそれとともに読んでいただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=lKVEuzN9JSM
一戦目 テーマ「ドラマチック」
1枚目は冬の街角で道行く二人の後ろ姿。テーマ表現として安直かもしれないが、左側の人物から灯りがはみ出しているのが実に効果的だ。そこまで計算してシャッターを切ったかはわからないが、静かな風景の中に流れる物語を想像させる力を感じた。
もう一枚は裸祭りで沢山の男たちがひしめき合っている一枚。迫力と勢いではこちらに軍配が上がるが「ドラマ」を感じさせるだけのストーリーには乏しい。
ジャッジは裸祭りの方が得票が多く、プロチームが勝利したが得票差はほんの数票。その結果が納得できる作品だった。
ところでこの対戦、1試合ごとにいちいち勝者を表彰するのだが、これは全体の流れを阻害している。サクサクと対戦を進める方が盛り上がりも演出しやすいのに、どうしてこんな進行にしたのか理解に苦しむ。
二戦目 テーマ「静寂」
1枚目は浅草・雷門を縦位置の画面一杯に捉えた作品。早朝だろうか、遠くに見える二人以外に人影はない。もう一枚は海の風景。手前の磯と暗目の空に挟まれた光る海が美しく、そこに一艘のヨットが浮かんでいる。どちらも制止した時間の中に“人影”“ヨット”という“動”が映り込むことでテーマを演出するが、静物とも捉えられる人影のないヨットのほうが想像をかき立てるし、構成する要素が奏でるコントラストが美しい。仲見世の写真ももう少し時間帯を選んだらもっと良かったと思う。ジャッジは海の写真で撮影者はプロチームだった。
三戦目 テーマ「愛しみ」
偶然にもどちらも動物写真。一方は浜辺に立つ二頭のペンギン。くちばしを交わす姿がキスをしているように見える。もう一方は二頭のイルカが泳ぐところを下から。捉えた一枚。大きさから観ると親子だろうか。どちらも素敵な物語を想像させて甲乙つけがたいが、分かり易くテーマを表現していたペンギンの写真が勝利。これもプロチームの作品。
しかしここで撮影者に撮影場所を聞いた司会者から飛び出した「金がかかっていますね」との評価はいかがなものか。ゲスな政治家の失言と同等レベルだ。キャリアも立場もある方なのだから、ふざけずに的確な評価を下すべきだったと痛切に感じたのだった。
四戦目 テーマ「哀愁」
1枚目、光が差し込む部屋の風景。窓の傍に時代を感じる黒革の椅子が置かれている。もう一枚は遠くに車道を眺める犬を捉えた作品。どちらもテーマに対して安直な表現ではないので判断は難しいともいえるが、テーマを充分に表現できていないともいえる。何かを待ちわびるような犬の様子より、忘れ去られたような部屋の風景の方がテーマには沿っていると感じたが、ジャッジもそちらに旗を揚げた。こちらは学生チームの作品。撮影者によるとフイルムで撮影したのだというが、肝心の司会者はその点についてスルー。むしろここに食らいついてほしいのだが。
五戦目 テーマ「輝き」
レンズを外したデジタルカメラ、センサーがカラフルに光っている所を撮った作品と、白米とイクラを盛った茶碗を横から捉えた作品。撮影のテクニックからどちらがプロかは一目瞭然。ジャッジも後者でプロチームの作品だったが、この対戦直前に学生チームが自分たちについて「新しい発想や視線」を求めているとの発言があった。スマートホンで撮影したという前者の、つまり学生チームの作品はまさにその言葉を裏付けていたと思う。こうした発想についてプロ側がもっと食らいつくべきだったが、それもスルーだったのは残念。
冒頭にも書いたがJPSが今回のようなイベントに出て行ったのは大きな前進だと思う。この企画を達成したJPS教育推進委員会には大きな感謝とともに敬意を示したい。同時に。例えばこうした展示会にブースを出すなど、さらに積極的に外部に出ていくことを考えていきたい。
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