舞台『シーボルト父子伝 〜蒼い目のサムライ〜』@築地本願寺ブディストホール
幕末から明治初期にかけて、日本に諸外国の知識をもたらした外国人の1人、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(通称 大シーボルト)。世に言う“シーボルト事件”で知られるがその後に国外追放を解かれ、長男アレキサンデルを連れて再来日。さらに次男のハインリッヒも来日して、近代日本の礎になる仕事をいくつも遺した。
そんなシーボルト父子の活躍を舞台化したこの作品。早いものでもう3度目の再演となるが、今回は主演でもある鳳恵弥が脚本に手を入れ、総合演出の木村ひさしのもとで演出も手がけたのだが、結果としてこれまでの2作とはだいぶ雰囲気が違うものに仕上がった。
例えば長崎での大シーボルトの話や、その娘で日本初の女医となったイネのシーンが加えられ、大シーボルトのスパイ説についても触れられている。またハインリッヒと妻ハナとの出会いもこれまでとは違う。こうした変化のおかげで、盛りだくさんになった印象はあるものの、物語に躍動感を与えることには成功していると思う。
出演は鳳のほか大シーボルトに辰巳琢郎、兄のアレキサンデルを石垣佑磨、ハインリッヒの妻、ハナを元AKBの市川美織といった面々。さらに挿入歌を提供している爆風スランプのパッパラー河合が役者として登場。またペナルティのヒデ、三瓶といったお笑い勢がまじめな役で登場するのも面白い。
そんな出演者の多彩さ以上に興味深いのが、それぞれのキャラをそのまま活かしているところだ。大森貝塚の発見を巡ってハインリヒと揉めたモースを演じる三瓶は、台詞こそ脚本通りだがキャクターとしては三瓶のまんま。ナウマン教授役のパッパラー河合に至ってはギターを弾きながら登場してしまう。笑える部分だけでなく、石垣が魅せる迫力あるアクションシーンや、市川の天然で可愛い所作もそういった部分だろう。
そうなると、こうした“キャラのはみ出し”について是非を問われるだろうが、これが案外うまくはまっているのが面白い。確かにドキュメンタリーではないので、忠実に寄せる必要は無いわけで、ならば素材の良さをそのまま活かすのもひとつの手法だろう。
来年は大シーボルトの初来日から200年を迎える。彼らの手助けがなければ先進国の知識は入ってこなかったわけだが、シーボルト父子の功績はさらに日本人に自国の文化や伝統の価値を認識させたところにあるだろう。サブタイトルにある通り、彼らは日本を愛して、日本を誇ることを説いた“蒼い目のサムライ”だった。それを再認識するために是非観ておきたい。14日まで、築地本願寺ブディストホール