さーちゃんとパパ①
さーちゃんは小学3年生の女の子。髪は短い。いつもズボンとスニーカー。男の子だと間違われることが多い。でもさーちゃんはそれでいい。
男の子だったら良かった。
そう思っている。さーちゃんはゲームやサッカーが好き。お人形で遊んだり好きな男の子やカッコいい芸能人なんかの話には興味がない。だから女の子と遊ぶのはあまり好きじゃない。好きなのは恐竜や宇宙の話。さーちゃんは恐竜の化石を発掘する学者や宇宙飛行士になりたい。ゲームクリエイターもいいな。
コロナが流行して、どこにも遊びに行けない。街から人が消えた。まるで恐竜が絶滅したみたいに。
最近は外に行くと行っても、パパと散歩や公園に行くぐらい。飼っているマルチーズのマルを連れて、家の近くの公園に行く。公園には池があって、水辺に魚を狙った鳥が佇んでいた。
名前は知らない。長い足、小さな頭。
じっと見ていると、鳥って独特で不思議な生き物だとつくづく思う。空を飛ぶ動物で、しかも卵から生まれる恒温動物は鳥類ぐらいだ。他の哺乳類や爬虫類とはまったく異なっている。
「ねえパパ」
「なに?」
「教えてあげよっか?」
「うん」
「鳥ってもともと恐竜だったんだよ」
「ええ?」
「ホントだよ」
「知らなかった」
「パパはなにも知らないね」
「ごめんごめん」
「ずーっと恐竜は絶滅したって考えられていたけど、ホントは違うんだよ。巨大隕石が衝突した世界でも、恐竜は体毛を翼に変えて小型化して生き残った。鳥としてね。それで変化した地球環境にも適応できたんだって」
さーちゃんはスラスラと話した。
「うまく説明するなぁ」
「YouTubeで見たから」
「さすが今時の子やね」
パパは感心した。
「恐竜は絶滅したんじゃなく鳥になって今も生きている。そう思ったらワクワクするでしょ?」
「たしかに」
「ねえ、パパ」
「うん」
「でもね、進化できずに死んじゃった恐竜もいたんだよ、きっと」
「そうだなあ。そういう恐竜もいただろうね。犠牲になったやつが」
「だって巨大隕石で世界はめちゃくちゃになったんだよ」
水辺の鳥は飛び立っていた。魚が獲れなかったのかもしれない。
「パパ」
「なに?」
「みんないなくなるね」
「うん」
「ママもいなくなっちゃたし」
さーちゃんはうまく言えなかった。そういうことが言いたいわけではなかった。旅行に行ったり、外で遊んだり、そういうことができない。今までとは違う世界になる。身の回りが少しずつ変化していく。悪い方に。
「ワン!」
マルが吠えた。さーちゃんとパパの先を走っていたマルが尻尾を振る。
マルはこっちを向いて「ワン!」とまた吠えた。はやくもっと歩こう、遊んでと言っているようだ。定期的に散歩に出る相手がいて良かった。
「マルーっ!」
さーちゃんは呼ぶ。マルチーズのマル。うんちやおしっこをするときグルグル回るマルを見て、ママが面白いって笑ったから、そんな変な名前になった。
マルはこっちを向いて「はっはっは」と息荒く、一瞬「呼んだ?」という顔をして、すぐにプイッとそっぽを向いて走り出した。アホだから言うことなんか聞かない。さーちゃんが追いかけたら、マルは遊んでるつもりで猛ダッシュで逃げる。追いつかない。
マルはホントにアホだ。
でもそこが可愛いって、さーちゃんは笑った。
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