吹き抜ける風2(3回シリーズ)
2.授業中
「じゃあ、教科書開けて。いつものとこ。はい、じゃあ今村。ここ読んで。」
「はい。」と、今村は英文を読み始めた。その中の単語で、俺は気になる単語があった。
ふと、電子辞書で調べてみた。persuade。説得。説得か。説得を調べてみた。よく話聞かせて相手に納得させること。なるほど。先生の話など聞こえもせず、(いつものことだが)これからどうするかばかりを考えていた。とそこへ、
「じゃあ、高山。この英文を訳しなさい。」と先生。ゲッ、俺さされた。なんとか答えれたが、その時、大将の背中が見えた。で、気づいた。俺は進学じゃないと。陸上でもねえかとも思った。
その日、初めて部活を休んだ。みんなにビックリされたが。兄貴なんて、「ふざけるな!試合前だってのに何考えとる!!」と頭をどつかれた。すげぇ痛かったけど、そんなのどうでも良かった。急いで、チャリこいで、ラーメン屋へ向かった。看板には休憩中の文字。開くかな、と戸を開けてみると、大将が何やらしていた。よく見ると、包丁を研いでいた。休憩中なのに、休憩してねえ。ビックリした。と、大将が、こっちに気づき、
「おぅ」
と声をかけてくれた。
「どした?」と大将。何も言えなかった。
「こっち来てみるか。興味あるか?」
「はい、興味あります。」と俺。カウンターからじっと覗いてみた。
「まぁ今は仕込み中でな。見ての通り包丁を研いどる。」
包丁を研ぐ姿がすげえかっこよく見えた。
「ちょいと座らんか。俺も休むわ。」と大将。
二人で並んでカウンターで座った。
「おめぇ、これからどーすんだ?そろそろ考えた方がいいんでないか?」
「あの、ここ、俺好きなんで、いろいろ教えてもらいたいです。」
「おっそういうことか。んーそうだな。じゃあ、まずは説得だな。」
「説得ですか?」
「そうだ。親御さんにな。説得させる自信はあるか?」
「んー、それを今考えてるとこです。どうやったら説得出来ますか?」
「それは自分で考えろ。まっ要は気持ち、だけどな。」
「気持ち。」
「そう。ここだ」と、大将は自分の胸の辺りを手で2回触った。
「まぁ、考えといてやるから、説得出来たらもういっぺん来いな。」
気持ちか。チャリを漕ぎながらぼーっと考えていた。気持ち。やりたいという気持ち。陸上もやりたい、と思ってやってる。それでいいのか。と、気持ちがすとんとした気がした。
「ただいま」
「おかえり。今日は早いのね。えっそういえば試合前じゃなかったっけ?」と母さん。
「そう。だけど、ちょっとやりたい事が見つかった。」
「えっ?どした?急に。」
「うん、俺、よく行くラーメン屋があって、そこ好きで、さっき大将といろいろ話してきた。俺、あっこで働きたい。大将がすげえかっこよくて、俺もそうなりてえ。母さん、俺バイトする。」
「あっ、あんた、そんな事考えてたの?母さんビックリだわ。バイトぐらいはいいけど、部活どうするの?あんた、走んの好きじゃないの?」
「好きだけど、とりあえず、働きたい。部活は…試合までする。」
「あぁそう、で、進路は?まだ決めなくていいけど、そろそろ考えといた方が、塾とか。」
「それの事だけど、さっきも言ったけど、俺全然勉強興味ねえし、働きてえんだ。だから、ラーメン屋で働く。」
「えっ?あんた働くの?えっそういう事?学校は?行くでしょ?」
「まぁ、卒業はしたいから学校は行く。その先働く」
「あっそういう事。進学じゃなくて就職って事ね?」
「そそう、そんな感じ。」と俺。
「どうしてそんないきなり?」
「いや、大将が説得して来い、って言うもんだから。」
「あっそういう事!わかったわかった。じゃあお父さんにもそう伝えなさい。母さんはね、あなたはちょっと不器用なとこあるから、その方がいいと思ってたんよ。自分で見つけたのね、安心したわ、母さんは。」
「えっ?何バレバレって事?」と困惑してしまった。
「あんたってほんっとわっかりやすいからねぇ、単純だしね。まっいいんじゃない?あんたの好きにすれば?って感じですよ、母さんは。」と嬉しそうに洗濯物と片づけに行った。
え?こんなもんなのか。結構反対とかあるんじゃねえのかと。で、母さんが、
「あんた、反対されるとか思ったんでしょ。ドラマの見すぎで自分をよく見すぎ。でも、ちゃんと言えるようになったのね。成長成長。じゃあ今は勉強しなさいね。今出来る事を精一杯しなさい。それが一番大事なのよ。」と母さんは言った。
説得できたのだろうか。出来たんだよな。反対されなかったし。まあ大丈夫だろう。
「まっとりあえず今は勉強しなさい。お父さんには私から言っとくから。で、一度そのラーメン屋さんにご挨拶にでも行きましょう。私も食べてみたいしね。」と母さんは嬉しそうだった。
3.道 につづく