見出し画像

~打率は”雑な”指標?? そこからOPSやwOBAといった指標を深堀り~ ①

今回は、タイトルにある通り打率という指標に存在する欠点を説明し、そこから第1話ではOPS(On-Base Percentの頭文字)での選手の評価や指標そのものについて出来るだけ分かり易く述べていきたいと思います。

今に始まったことではありませんが、MLBで中継を見ると打者の指標として打率・打点・ホームラン数に付随して必ずOPSが表示されています。記載されているのは偏にOPSが重要視されている指標であるからに尽きますが、その数字が何を表しているのかを理解することは意外と難しいと思います。そこで再度整理していきたいと思います。

OPSは打率や打点と言った主要な指標に比べて、

・打者の攻撃力を計るのに優れている指標である

・なおかつ算出方法が長打率+出塁率であるので、非常に簡単に導出できる

長所を持っています。

また、長打率(Slugging Percentage : SLG)も鍵となります。長打率の定義は”打者が1打席あたりに打撃によって期待できる塁打数の期待値”です。式に表すと、長打率=塁打÷打数となります。つまり、単打を等倍、二塁打を二倍...といったように、より大きい長打の影響力をしっかりと評価することが出来ます。この点においては、打率の欠点を補正していると言えるでしょう。

※期待値について追記します。期待値の定義は、”とる値×その確率の総和”となります。平たくいうと平均値です。

"An Economic Evaluation of the Moneyball Hypothesis" というマネーボールに記載している内容を遡及して分析している論文を先月読んでいたのですが、そこでは戦略の優位性や効率性に焦点が当てられていました。マネーボールを読まれた方ならご存じのように、アスレチックスは他球団に先駆ける形で”出塁率”に目を付けて、その優位性に気づいていなかった他球団を出し抜いたのですが、その論文になぜ出塁率にこだわっていたかについて簡明に記載されていたのでまとめたいと思います。

打率という指標は、先に長打率の項で述べた通り単打も長打も同じウエイトでカウントされることに明確な欠点があります。つまり、単打以上となるヒットから生み出された生産力の影響を考慮できていません。この論文の話は別でまた最適化の話として書きたいのでここではこれ以上触れませんが、理解を容易にするために、例として極論を用いさせていただきます。まずは、2021年9月20日現在の現代のAdam DunnことJoey Gallo(NYY)とAdam Frazier(SD)の成績の比較を行いたいと思います。

(表記は:打率/ 出塁率/ 長打率/ OPSの順です。FanGraphsの画面を表示できれば良いのですが、まだやり方が判然としていないので、興味のある方は最下部に添付したリンクからご覧になってください。)

Joey Gallo:  .204/ .357/ .475/ .832 (本塁打37本, 打席数461)

Adam Frazier:  .307/ .370/ .408/ .778 (本塁打4本, 打席数534)

このように、両者では打率が1割も違いますが、OPSの面ではGalloの方が良い数値となっています。これは打率だけの比較だけでは正しく測ることはできないです。なぜなら、Galloの長打の生産力は打率の面からでは単打と等倍として扱われるために実際の生産力よりも過小評価された値として計上されるからです。Galloは四球数、三振数、本塁打の数で上位に位置する稀有な存在で、Adam Frazierは四球数が少ないが、打率は高く、長打は少ないプレースタイルです。そのため、両極端と言える選手の比較になってしまいましたが、打率だけではなく出塁率、長打率、OPSも指標として重要である分かり易い例となっていれば幸いです。また、OPSはMVPレベルの選手になってくると10割を超すこともあります。このようにチマチマ分析しましたが、Galloの打席を見ることは本当に楽しいのでお勧めします。最近のデータ分析などどこ吹く風といった三振、四球、本塁打で大抵の打席を片付けるスタイルなのですから。

また、OPSの派生であるOPS+なる指標も存在します。この指標の長所は、OPSの弱点であるパークファクターを考慮している点にあると言えるでしょう。要はスタジアムによって、ホームランが出やすい球場や出にくい球場があるので、そこもしっかりと考慮した方がより良い指標になるよねというモチベーションであると理解しています。OPS+は、その選手のOPSをパークファクターを考慮したその年のリーグの平均OPSで割るので、時代や年代が違う選手の評価もしやすい長所を持っています。なぜなら、極端な打高投低やその逆というOPSでは表現のしようがない指標としての弱点に向き合うことが出来ているからです。またリーグ平均を"100"とした場合に、攻撃力が何%上下するかという数字にならすので、直感的に捉えやすいとも言えます。例えば、ある打者のある年のOPS+が120であれば、その打者はその年のリーグ平均OPSに比べて20%良いOPSだったと解釈できます。

ここまで見た通りOPSやOPS+は"打者の攻撃力"を計る上では、打点や打率等の"運"が絡む指標に比べて有用な指標です。加えて、チームの得点との相関性が高いことも魅力であると言えます。このように導出も簡単かつ選手の攻撃力を高精度で計れるので、試合などを見ていて瞬間で大まかに選手の打力を知りたい時は、全然OPSだけで事足ります。しかし、出塁率と長打率の合計だけでは当然のことですが走塁での貢献力は、反映されていません。そのため、"精度"を追求した指標としてはより優れたものがあるので第2話で紹介します。これはwOBA( Weighted On-Based Average)で計ることが出来ます。この指標は、OPSと評価したい対象がおおよそ変わらないのにも関わらず、話の視点が驚くほど変わる点、そしてOPSは完全な指標ではないことを明らかにできる点で面白いと"個人的には"感じていますので、②も是非お読み頂きたいです。

いつも通りですが、この記事に対してのコメント、そして疑問点、誤りなどありましたら忌憚なくお知らせください。それでは!

↓上から順に、

・ヘッダーの画像リンク

・"An Economic Evaluation of the Moneyball Hypothesis"の論文

・Adam Frazierの指標

・Joey Galloの指標

・OPS+の定義についてのMLB公式の見解

へのリンクとなっております。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?