#4 「アメリカン・ベースボール革命」の書評
”#”を付けた記事としては大分久しぶりになってしまいました。今日はタイトルにある通りアメリカン・ベースボール革命の書評をしていきたいと思います。内容に踏み込む前に本全体の概観を記したいと思います。
本全体は謝辞も含めると約480ページあります。また、新書のサイズではないので、内容は興味深い物ばかりでしたが読了するのはハードな本だと思います。翻訳については癖が無いので、読みやすいと感じました。この本はマネーボールからの野球界の発展を描いている部分があるので、マネーボール(アストロボールも読むとより楽しめると思います。)を読んだ後にこの本を読むと楽しめると思います。
次に内容について記載していきます。この本はデータ分析やテクノロジーの進化によって起こった野球界の変化を中心にマクロ・ミクロ双方の視点から描いています。2022年現在、マネーボールが出版されてから10年足らずですが、その出版後に野球界に大きな変化が起きています。マクロの面で言えば、球団運営に携わる人々が野球界の出身者ではなく、アイビーリーグ卒や金融業界の出身者でデータ活用などに明るい人材が中心となる変化が起きています。ミクロの面で言えば、練習方法に経験則から導かれた直感ではなく、データを用いた練習などに選手が主体的に取り組むようになった変化などです。これらのより具体的な内容について本の中で書かれている感じです。
やはり組織的なデータ活用の取り組みの成功例として特にページが割かれていたのはアストロズについてです。アストロズは今年もア・リーグで王者になりワールドシリーズに進出するなど、ここ5年間のア・リーグの中では間違いなく一番成功している球団だと思います。アストロズはタンキングをした事実が現在残している結果の因果関係と扱われがちですが、育成・ドラフト・トレードでも同時に高い成果が得られたからこそ今のアストロズがあると再認識させてくれます。このアストロズの成功に重きを当てた本はアストロ・ボールという1冊の本として出版されているので、一読されることをお薦め致します。
ミクロの視点ではトレバー・バウアー、ジャスティン・ターナー、リッチ・ヒルなどのデータ活用をプレーの質向上に用いている選手に焦点が当たっています。特にバウアーに関しての記述が多い印象です。理由としては、かなり彼が影響力の大きいかつ発信的な人物として知られていること、そして練習方法が伝統的な方法とはかけ離れていることだと思います。彼はこの本でもかなり言及のあるシアトルにあるドライブラインという野球施設にかなりの初期段階から携わっています。今となっては、ドライブラインはキャリアの瀬戸際に立たされたメジャーリーガー、現役高校生、大学生、時にはNPBに所属するプロ野球選手なども足を運ぶ場となっていますが、その規模に成長するまでの経緯や科学的な練習を伝統主義者で溢れかえっていた当時のMLBに浸透させる難しさが克明に記載されていました。バウアーはそれとは関係なく、自身には卓越した身体的才能がないとの気付きを得てから、彼の父に勧められて科学的なアプローチによる練習法を採用している個人指導者に出逢い、そこから遠投であったりプルダウン(助走をつけて全力で投球を行う練習)などを学生時代から一早く練習に取り入れていたそうです。そして大学でも最優秀なアマチュアプレイヤーに与えられるゴールデン・スパイク賞を受賞する一方で、革命者に起こりがち(特に、彼は一部の人以外には奇妙な人に見える側面が際立っていることは事実でしょう。)な取り組みを否定されることやバカにされることは何度も経験しているようです。実際にかなりの変人であったようで、ゲームのハマりすぎで成績が悪化し退学の危機に瀕し、野球にも悪影響を与えたためゲーム断ちをしたというエピソードがあります。また、ちょっぴり思想が強いので衝突が起こりやすいのかなと邪推しました。
次はバウアーが猛研究を通じて理想のツーシーム、スライダーを習得した過程から書こうと思います。いつになるのやら。
それでは!
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