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切除可能NSCLCに対してはNACと手術先行、どちらが良いか(論説)

J Thorac Oncol.2024;19:858-861.
J Thorac Oncol.2024;19:862-865.

NSCLC術前治療の潮流が来ているが、全ての患者に対しNACを行うべきと考える医師は少ないだろう。講演会などを視聴すると、比較的早期(N0など)は手術先行で、N2など進行期にはNACを行うという方針が散見される。
今回上記論文にNAC推進派、慎重派各々からの論説が掲載されていたので参考のために読んでみた。


J Thorac Oncol.2024;19:858-861.
Neoadjuvant Chemoimmunotherapy Complicates Subsequent Surgical Resection and Adjuvant Immunotherapy Is Preferable From the Surgical Standpoint

まずはNAC慎重派の意見。

① NACに伴って手術中止例がでる

下記表のごとく、NACの試験では手術中止例が2割前後認められている。その理由はPDが最多だが、AEも数%いることに注意が必要。CM-816ではIB~II期の12%, IIIA期の17%で手術中止になっており決して少なくない割合。

各NAC試験における手術中止例の割合等の一覧
手術中止例の理由。
Other:  患者拒否, 医師判断, 同意撤回, 医学的に手術不適応/切除不能, 患者の死亡 など

② NACにより手術の遅れがでる

CM-816においては約15%の患者で手術が遅延し、遅延期間中央値は2週間で各群3例(10%〜12%)が6週間以上遅れていた。AEGEAN試験では58例 (14.5%)で手術遅延を認めた。これが予後等に悪影響を及ぼす可能性が否定できない。

③ NAC後の外科手技に与える影響

残念ながらNACの第三相試験で手術に与える技術的影響を評価したものは無かった。しかし既報においてICI+chemoによるNACを行うと炎症を惹起し葉間裂や肺門・縦隔の癒着・線維化に関与する可能性が指摘されており、NACでICIを使用する場合は慎重な患者選択が必要であると主張する報告もある。
また後ろ向き報告(J Thorac Dis. 2021; 13:5604-5616)ではNACにICIを用いた場合、開胸移行割合増加、LN郭清困難、合併症増加などの可能性が報告されている。

J Thorac Dis. 2021; 13:5604-5616より。
NI: NAC ICI使用, S: 手術先行, NC NAC 化学療法のみ

NACを含めた周術期ICIがIII期NSCLC患者に対する標準治療であることは明らかであるが、手術の遅れや病勢進行の懸念もあるため、特にリンパ節転移陰性患者やN2転移のない患者に対して、術後治療が良いのか術前治療が良いのかは議論があるところ。II期~IIIA期でも周術期ICIにより予後が改善する可能性が報告されているが、どのような患者に最も有効かについては更なる研究が必要。


J Thorac Oncol.2024;19:862-865.
The Surgical Resection Difficulty From Neoadjuvant Chemoimmunotherapy Is Minimal and Neoadjuvant Therapy Should Be the Standard

続いてNAC推進派の意見。

CM-816においてPDによる手術中止はNivo+chemo群ではIB期からII期で5%、III期で8%であり、同様の傾向がAEGEAN, KN-671でも認められている。NAC ICI中の病勢進行率は許容範囲内にあり従来の導入療法と同程度である。ただしIBからIIのような早期のStageについてはNACの有益性は限定的であり、AEやPDによる手術不能リスクも慎重に考慮する必要がある。

またNAC ICIの手術手技への影響について癒着や線維化の程度を客観的に定量化できる評価指標は不足している。胸部外科医がNAC ICIに慣れ、適応することで手術への影響は管理可能と考えられる。

NSCLCの試験において「切除可能」という基準には統一された定義がなく、実際に登録された患者群について曖昧さが生じている。現在StageIIIにおける切除可能性を定義するイニシアチブが完了し、具体的な外科的詳細に関するより包括的な報告の提案が公表されている。今後の臨床試験のプロトコールでは,切除可能な病変のサブステージを明確に定義すべきである。

従来切除不能とされてきたmultistation N2の患者であっても、NACアプローチの有益性が関連する手術リスクを上回ることが示唆されている。


微妙に議論が嚙み合ってないところもあるが、両者とも結論的には同じことを言っているように感じた。問題点は明らかな適応症例がはっきりしていないことであり、担当医は各種リスクも考慮の上でNACを検討すべし、ということである。特に早期StageについてはIII期と比べ有益性が劣る可能性があるため慎重に考慮せよ、ということだ。

近年cN2においても肺葉切除での手術が見込める症例はCRTの他にNACという選択肢もあるよう。局所再発した場合もCRTが残っているというメリットもある。内科医としては手術手技についてはさっぱりだが、多少なりとも患者の選択肢が増える事は良いことなので、呼吸器外科医に教えてもらいつつ勉強していこうと思う。

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