免疫チェックポイント阻害薬によるサイトカイン放出症候群についての症例報告
Thorac Cancer 2023;14:2310-2313
Medicine 2020;99:15
少し前のことだが、日本における肺がん9LAレジメン試験でサイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome: CRS)が多発し、治療関連死が多数認められ試験中止となったニュースが出回り、担当製薬企業が情報周知に回るという出来事があった。
何故起こったのかという議論は別として、私は今まで幸いにもCRSに出会ったことはない。ただ出会った時に早期診断・治療に結び付かないと恐らく患者は死ぬので、症例報告を読んでみることにした。
文献1. Thorac Cancer 2023;14:2310-2313
比較的軽傷だったCRSの報告。75歳NSCLC再発の女性PD-L1<1%でNivo+Ipiを行い治療は奏効していた。治療9か月目に発熱・疲労感・食欲不振を主訴に病院を受診。AST/ALT上昇, Crea上昇, 炎症反応(CRP, IL-6)上昇, PLT低下を認め、全身の皮疹と口腔粘膜疹を認めた。CRSの診断でステロイドパルスを施行して改善。以下臨床経過のfigureを示す。
文献2 Medicine 2020;99:15
こちらは重症例。70歳男性転移性腎細胞がんに対しNivo+Ipi療法を開始。治療翌日皮膚の紅斑が出現し全身に広がった。ステロイド軟膏で改善が乏しくPSL 30mg内服させ、2回目のNivo+Ipi投与。その2日後筋力低下を訴え、神経内科に紹介。血液検査でCK 17,386 U/Lと著明に上昇。神経学的検査では主だった異常はなくirAE 皮膚筋炎 G3と診断。ステロイドパルス施行したが数日後発熱、シバリングあり。炎症反応高値。sepsisを疑い抗菌薬投与。さらに翌日呼吸不全・腎障害・意識障害・乳酸アシドーシスが出現しICU搬入。心エコー・レントゲンは異常所見なし。PLT減少・D-dimer高値もありDICを疑ったが、複数の臨床症状が同時に起こったことからCRSと診断。MMF追加投与し2度目のステロイドパルスを施行。人工透析、血漿交換、IVIg等経て徐々にデータ改善。下痢症状も出現したがデータ上感染症は疑われずirAE腸炎と判断した。状態は落ち着いたが筋力低下は残存し93日目に療養病院へ転院。2ヵ月時点での腫瘍評価はSDであった。以下経過figure。
以上2論文を読んでみた。
発熱・多発臓器障害・血算異常が同時に起こることがCRSの徴候と言えそうだが、症候が完成するまでの経過は様々で、また典型的な所見も無いことから感染症や他のirAE等の鑑別が必要となる。文献1ではIL-6がbiomarkerとなりうる可能性について述べているが、恐らくCRSに特異的というわけではないだろう。文献2ではリスク因子として腫瘍量が多いことを考察している(白血病のCAR-T療法のCRSリスク因子として報告されている)が、文献1の症例はそれほど腫瘍量が多いわけではなく確定的な因子とも言い難い。以上から今のところは非常に注意して治療を行う、ということしか臨床的な対処法はなさそうだ。
ところで後出しじゃんけんにはなるが、文献2の症例では皮疹が良くならずPSL 30mgを開始した状況にも関わらずNivo+Ipiの2コース目を投与してしまう泌尿器科医が諸悪の根源という感想を密かに私は抱いた。過去に私の勤務していた病院でも全身を診られない医師が安易にICIを投与していたが、絶対irAEを見逃していると思う。これだけICIが浸透してきてマイナー科で投与が行われるのは仕方のないことだが、怪しい症例で治療確定の指示が飛んだ場合には経験豊富な化学療法室の看護師などがストップをかけ、腫瘍内科医にconsultationするなどのシステムを作らないとこのような例は減らないと思う。(それをやっている病院は実際にある)
閑話休題。
治療はステロイド・免疫抑制剤だが、本記事作成時点ではアクテムラ(tosilizumab)がCRSに保険適用となっているため、ステロイドパルスと併用するという戦略になるだろうか。症例報告では改善した報告が多いが、恐らくその何倍かは死亡の転機を辿り報告されなかった症例があるに違いない。Nivo+Ipiはcytotoxic agents投与が難しい高齢者などにも、治療の選択肢として提示することがあり、確かに何かしらのirAE (特に内分泌障害)は大体出ている印象がある。今後CRSが私の患者に起こらないことを祈りつつ……。
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