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米国での終末期における免疫チェックポイント阻害薬の使用状況

JAMA Oncol. 2024;10:342-351.

免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬は、従来の細胞障害性抗がん剤より副作用が比較的軽いことが多いため、私も高齢者の治療選択肢として優先的に挙げることがある。例えばNSCLCのNivo+Ipiや胃がんのNivoなどは、従来の化学療法はちょっと難しいが何か少しでも治療を、という患者・家族の希望に応えられるポテンシャルを秘めていると個人的には思う。

しかし標準治療がまともに入らなそうな対象に治療を行うことが本当に患者のbenefitに繋がっているかについては後からキチンと見直すことが大事。独りよがりの治療にならないよう注意したい。

さて、今回は死亡1か月前にICIが開始された症例がどのような背景を持っているについて調査を行った報告。公のデータベースを使用した背景調査なので効果等のデータは出てこないが、一般臨床でICIがどのような使われ方をされているかを学ぶには重要な報告であろう。


本研究では米国のNational clinical databaseを用い、終末期に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用された患者の状況を調査した。NSCLC、RCC、転移性melanomaを対象とした。死亡から1か月以内に治療が開始された (End of Life-initiated: EOL-I) 患者割合を調査し、患者背景や、施行された施設のステータス (academic vs non-academic, high volume vs low volume等)を評価した。

結果

242,371人が抽出された。患者平均年齢は67.9歳, 42.5%が70歳以上であった。56%が男性で、29.3%がICI治療を受けていた。

この内EOL-I-ICIを受けた患者はmelanoma患者(N=20,415)の3%、NSCLC患者(N=197,331)の3%、RCC患者(N=24,625)の2%であった。
EOL-I-ICIを受けた患者は非EOL-I-ICI患者より、non-academic施設で治療を受ける割合が高く、Charlson-Deyo Comorbidity Indexも高く、転移部位が複数である症例が多かった。(ただしRCCにおいてComorbidity indexは免疫療法を受けなかった患者で高かった)

ICI施行率は全てのがん種で年代経過で増加傾向にあり、high volume施設, academic施設において実施数が多かった。EOL-I-ICIも年代経過とともに増加傾向を示し、melanomaは0.8%→4.3%に、NSCLCは0.9%→3.2%に、RCCは0.5%→2.6%に増えた。しかし施設別に層別化するとacademic施設、high volume施設でEOL-I-ICIは実施割合が低かった。またEOL-I-ICI開始後1か月で亡くなる患者はacademic施設、high volume施設で少なかった(OR 0.69) EOL-I-ICIは3臓器以上の転移のある患者、Comorbidity indexが高い患者、高齢患者で施行されやすい傾向にあった。


EOL-I-ICI施行患者は、ICI開始後1か月以内に死亡した患者というだけで、いわゆる終末期に行ったケース以外にもAEや合併症で亡くなっただけ、というパターンも含まれることに注意が必要だが、結果から推測される患者像は臨床的にも理解しやすい。すなわち、かなり進行した状態で市中のクリニックに受診した高齢患者に対する治療選択肢としてICIが提示された、という光景だと想像される。

筆者らの考察にはacademic施設やhigh volume施設でEOL-I-ICIが少ない理由として、ICIの有害事象管理が良いためICI直後の死亡が少ないこと、また治療選択肢が乏しくなったら臨床試験に入れるという選択肢があるので、無理にEOL-I-ICIを施行しないことなどが記載されていた。これは確かに一つではあろう。しかしacademic施設やhigh volume施設には状態の悪い患者はあまり受診せず、結果的にEOL-I-ICIにならざるを得ない症例を市中病院が請け負っているという可能性も考えられる。

米国の診療事情や保険事情は日本と異なるため実際のところは分からないが、臨床医の感覚は日本と似通っているところがあるのかもしれない。ICIのポテンシャルへの期待や、irAEのマネジメントに慣れてきていることなどから、今後も少しずつ使用症例は増えていきそうな気がする。

費用対効果などを考慮すれば状態の悪い患者に対するEOL-I-ICIが良いとは断言できないが、これまでは初回からBSCと判断されていた方にとっては救いとなる選択肢には違いない。最後まで諦めずがんと闘ったという気持ちだけでも患者や家族は救われる部分はあるだろう。


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