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蔵訪問記 note003 【吹上焼酎】
【 蔵元さんの基礎情報 】
蔵元名:吹上焼酎 株式会社(ふきあげしょうちゅう)
代表者:前田 政大(まえだ まさひろ)
杜 氏:下別府 和広(しもべっぷ かずひろ)
住 所:〒897-1124 鹿児島県南さつま市加世田宮原1806番地 [地図]
TEL:0993-52-2765
公式HP:http://www.fukiage.co.jp/
SNS:Facebook
SNS:Instagram
代表銘柄:『小松帯刀』『かいこうず』
創 業:明治29年(1896年)。2024年現在128年目
※ 蔵元名は「吹上焼酎」であって「吹上酒造」ではありません。
【訪問日】
1回目:2024/06/10
【立地環境】
吹上焼酎さんは日本三大砂丘のひとつ吹上砂丘にほど近く、砂丘に続く万之瀬川(まのせがわ)の河口に最も近い蔵だと思われます。
シンボルともいえる3階建ての製造場の3階からは河口に架かる「サンセットブリッジ」がよく見え、海の近さが実感できます。
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平地にあるちょっとした低い山に囲まれているのですが、台風時はかなり強い海風を受け、何度となく修繕しているとのこと。
この3階部分には、なんと河内式自動製麹装置の1号機、2号機が現存しています!!
(講演で河内源一郎さんが紹介していたそうです)
【 小松帯刀 と 大関酒造 】
実は私の実家が吹上焼酎の近くにありまして、そんな私も知らなかったのですが、1975年に兵庫県の清酒メーカー「大関」の子会社になっていました。そのため、杜氏をはじめ役職者は概ね大関からの出向という形になっています。
特に大関色が強く出ている訳でもなく、地元に根ざした焼酎屋さんです。
製造時期には、芋を蒸すおいしそうな甘い香りがしていました。
大河ドラマ「篤姫」で一般の方にも知られることとなった「小松帯刀」は薩摩藩の家老で、幕末に薩長同盟や大政奉還の立役者として活躍し幻の宰相とも呼ばれているのですが、実は大関酒造のオーナーが小松帯刀の子孫であるということから、『小松帯刀』という銘柄の芋焼酎も造っています。
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【 下別府(しもべっぷ)杜氏について 】
吹上焼酎といえば、温和なニッコリ笑顔がトレードマークの下別府杜氏をSNSでお見かけする機会が多いかと思います。
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やはり大関酒造からの出向ということになっていますが、9年間大関酒造で働いたのち吹上焼酎へ出向し、10年間片平杜氏(黒瀬杜氏)の下で焼酎造りを学び、以後30年吹上焼酎の杜氏を努めています。つまり、黒瀬杜氏の技を継承し、40年ほどずっと吹上焼酎で焼酎を造られている方です。
温和ですが、製造期はピリッと張り詰めた雰囲気になるそうです。
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【 製造場について 】
最初の文章に「シンボルともいえる3階建ての製造場」と書きましたが、この仕組みを作ったのも吹上焼酎さんとのことです。
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3階部分に米蒸しドラムがあり、
1日目に洗米・米蒸し・一晩中麹の温度管理を行い
2日目に2階部分の三角棚へ麹を移動して(滑り台で落とすだけ)一日中麹の温度管理を行い、
3日目に1階部分の一次醪のタンクへ移動(滑り台で落とす)して水と酵母を加えて一次醪をつくる。
ほとんど動力を使わない、考え抜かれたシンプルで効率的な仕組み。
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床にある四角いところが2階に通じています
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3階のドラムから麹を落としこむと、ステンレスの筒から三角棚へと麹を移動できる
同じく床にある四角いところから1階の仕込みタンクへ落とし込んで麹を移動
落とし込み方式でも1t近い麹を掻き出すので結構な重労働なのですが、一人から二人で30分も掛からず可能かと思われます。もし落とし込みではなく手運びすると、5〜6人で40分ほど掛かるかと思われます。かなりの効率改善です。
1階から3階へ米を運ぶ方法は、現在は水中ポンプで一気に3階のドラムへ送り込んでいますが、昔は肩に担いで狭い螺旋階段を上っていたそうです。
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この施設を参考に、多くの蔵元さんが3階建ての製造場を作られています。
そして
3階にある麹を作る機械「河内式自動製麹機(かわちしき じどうせいきくき)」の第1号と2号が現在も3階にあります。
・お酒造りに必須の麹(糀)造りのことを「製麹(せいきく)」と呼びます。
・河内式とは、鹿児島のほとんどの蔵元で採用されている種麹のメーカー「河内源一郎商店」のことで、新しく麹を開発したり、麹を造る機械や蒸留器を開発したり、焼酎造りの相談を受け付けています。
・自動とは、昔の室(ムロ)での蓋(ふた)による麹造りは泊まり込みが必要で数時間おきの手入れが必要でしたが、送風とドラムの回転による温度制御で泊まり込みは必須ではなくなり、蔵人の負担が大きく改善されました。
1号機は備品は取り外されドラムだけになり、機能は停止しています。
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2号機は現役で稼働しています。
60年以上前の機械で吹上焼酎の年間製造量3,000石を造り出している!!
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河内式自動製麹機は、1日目にドラムの中で洗米・蒸し・麹菌の繁殖を。2日目は三角棚に移動して翌朝まで酵素とクエン酸を生成させるという方法を半自動で行えるようにした画期的な機械で、蔵人の労力がかなり軽減され、多くの焼酎メーカーに採用されました。
1961年より現在まで、現役で使い続けられているタフな救世主のような機械です。
【 製造について 】
◎ 製造量
3,000石くらい
近年は半分以上は麦焼酎の製造を行っています。
例年、お盆明けに製造開始します。
・3,000石の製造量とは年間 30万本の焼酎を造っているということです。
・家族経営だと1,000石未満。中堅で5,000石、20,000石を超えると大手なイメージ。大手は、例えば霧島酒造では一日に2,000石造れます。
◎ 仕込み配合
ひと仕込みあたり:芋焼酎の場合
米:740kg
芋:3,500kg
麹の原料米はすべて国産
◎ 仕込み日数
一次仕込み
ステンレスタンク
5日間醗酵
6日目に二次仕込みに使用
二次仕込み
ホーロータンク
8日目に蒸留
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古くからの製造場とは別に、2006年に竣工した甕仕込蔵が同じ敷地内にあり、一次仕込みから蒸留まで行える設備があります。
旧工場でできた麹を台車で運び甕に入れる工程となっており、甕仕込蔵では一次仕込みから始まります。
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◎ 酵母
・ほぼ、H5(鹿児島5号酵母)を使用。
・フルーティな香りの焼酎ができるとして、麦焼酎などはH5を使用。
・芋焼酎には以前はK2(鹿児島2号酵母)を使っていましたが、酸が高くなりやすいためH5(鹿児島5号酵母)を使うようになりました。
ヒガシ訳注)一昔前まで鹿児島の焼酎にはK2と言われる鹿児島2号酵母が概ね使われていましたが、K2はかなり酸を出す特性があります(揮発酸度10ml超え当たり前)。10mlもあると甘酸っぱい焼酎ができてしまいます。「酸=酸敗」のイメージを持つ方が多く、鑑評会でも欠点臭とされている点と、焼酎の可能性を広げる点から様々な酵母を使った銘柄が発売されるようになり、K2以外を使う蔵元さんも増えてきています。
【その他写真集】
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一次もろみのタンク、二次もろみのタンク、蒸留器など、一式揃ってます
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奥の四角い機械は芋蒸し器
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【主な銘柄紹介】
【 小松帯刀 】
(720ml),900ml / 1,800ml
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県外でも評価が高いため軽快なすっきりタイプかと思いきや、油を多く持ったしっかりとした味わいの芋焼酎らしい芋焼酎(黒麹)。
ロックでやわらかな芋の香りや甘さをお楽しみいただけます。
お湯割りもオススメ。
「小松帯刀(こまつたてわき)」は、大河ドラマ「篤姫」(2008年)、「西郷どん」(2018年)などで一般にも知られるようになったかと思います。
篤姫とは同じ歳でありご近所でもあり幼馴染。
明治維新に直結する薩長同盟や大政奉還のために奔走した薩摩藩の家老です。
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現吹上焼酎のオーナーが小松帯刀の子孫であるとのことから、この銘柄名で1995年より発売されています。