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蔵訪問記 note 001 【宇都酒造】

【 蔵元さんの基礎情報 】

蔵元名:宇都酒造 株式会社(うと しゅぞう)
代表者:宇都尋智(うと ひろとも)
杜 氏:宇都尋智(2008年より杜氏)
住 所:〒897-1125 鹿児島県南さつま市加世田益山2431 [地図]
TEL:0993-53-2260
SNS:Instagram
代表銘柄:『天文館』『金峰』
創 業:明治36年(1903年)。2024年現在121年目


【立地環境】

宇都酒造さんは日本三大砂丘のひとつ吹上砂丘にほど近く、砂丘に続く万之瀬川(まのせがわ)と目の前に広がる水田地帯に囲まれた自然豊かな土地にあります。間に高い建物も無い平地のため、銘柄名にもなりおよそ6km離れている金峰山がはっきりと見えます。


【訪問日】

  一回目:2023/11/15
  二回目:2024/06/10

芋焼酎造りのオフシーズン期に伺ったため、ワクワクするような躍動的な写真がありません。


【 宇都尋智(うと ひろとも)さんについて 】

現在、蔵元兼杜氏を努めていらっしゃる宇都尋智さんは、東京農大を卒業後和歌山にある清酒蔵での経験を得て、実家の焼酎蔵を継ぐべく宇都酒造に入り、黒瀬杜氏である神渡勇治氏より技術を受け継ぎ、現在は杜氏として活躍されているオーナー杜氏です。

※ オーナー杜氏とは、蔵のオーナーが杜氏を兼務しているということ。一般的にはオーナーが社長(経営者)で杜氏は製造責任者として別々なことが多い。


宇都酒造の5代目。ですが、最近まで4代目だと思っていたとのことで、様々なところに「四代目」の記載があります。

中学生の時から「杜氏さんかっこいい。自分も造りたい」と考えていたそうです。

家で飲むときは常温水割りが多い。唎酒は25度ストレートが一般的ですが、少し水を加えた方が香りが広がり分かりやすくなるとのこと。

白石酒造の白石貴史さん、小正醸造の小正芳嗣さんとは同級生で、小泉武夫先生の同じゼミ出身ということで「小泉チルドレン」と言うそうです。

【 社員は3名 】

製造・瓶詰めを、杜氏を含め3名で動かしています。
芋焼酎製造時期は芋切りパート 15人が加わり4tの芋を処理するそうで、芋の処理にはかなり人手をかけています。そのまま家族に食べさせられるくらいをイメージして、徹底的にキレイに不要な箇所を削り取ります。

【 製造について 】

さつま芋の採れる秋に芋焼酎を造り、その後は麦焼酎を製造しています。できた麦焼酎はすべて大分の麦焼酎メーカーに卸しています。(これを「桶売り」といいます)(ですので、麦焼酎の銘柄はありません)
麦焼酎は減圧蒸留。芋焼酎は2024年現在すべて常圧蒸留とのことでした。

常圧・減圧兼用型の蒸留器

大海酒造さんのアップルランスを飲んで「おもしろい!」と感じたそうですので、芋焼酎の減圧に興味が出たかもしれません。

3台の蒸留器を保有していますが、比較的新しい1台を主に使用。
焼酎用として減圧蒸留機を取り入れた最初の蔵ではないかと考えているそうです。

芋焼酎造りで使う麹用のお米は一部の銘柄を省きタイ米を使用しています。タイ米は狙い通りの麹が造りやすく、出来上がった焼酎が熟成したときに甘さも出てくるため採用しています。

芋焼酎造りで使用する米の量は一回あたり 750kg。すると自動的に芋は3,750kg使うのが標準量ですが、かなり削るので多めに4t近く仕入れます。

米:芋 = 1:5 が黄金比率としてほぼ決まっていますので、 750kg x 5 = 3,750kg
米焼酎や麦焼酎は1:2が標準の比率です。
芋は含水率が高いため芋を使う比率が多くなります。


麦焼酎の一次もろみ
麹が作り出すクエン酸によって、開放タンクでも安全に醗酵できます。

二次仕込みに使用するタンクは以前は開放タンク(上部に蓋のない寸胴型)でしたが、清酒蔵で吟醸酒造りで使用されていたという密閉型(上部にマンホールがあり、蓋で閉められる)に変更したところ出来上がった焼酎がキレイになりすぎたため、一次仕込みのときに一瞬だけワザと高温にする操作を行っています。酵母以外の微生物による影響を受けることで味に複雑味が増し美味しくなる技です。

左が一次もろみ用の開放タンク
二次仕込みに使っている密閉型タンク


焼酎製造で最も重要と考えているのは「原料処理」。仕込みタンクにはできるだけ要らないものは入れたくないとの考えから、米も芋も原料処理に力を入れています。

【 杜氏のふるさと南さつま市 】

宇都酒造のある南さつま市は、焼酎の杜氏集団「阿多杜氏」「黒瀬杜氏」の故郷でもあります。尋智さんは引退した杜氏さんと毎年飲む機会をつくり、自分の造った焼酎の感想や、芋臭い焼酎って何?、芋臭い焼酎の造り方、錫を使うと熟成速度が変わる、醪温度は一瞬上げすぎても大丈夫など、教科書に載っていない活きた知識を得たり、造りの相談をする機会があるそうで、知らなかったことは検証したくなり、蒸留器の一部に銅や錫を入れたりと、色々と実験して良いものはそのまま採用し、機械的にも造り的にも独自の工夫をされています。


麦焼酎用の二次掛け用蒸しドラム
米750kgにしては大きく見える三角棚



【今回知り得た銘柄情報】

【 金峰 紅はるか 】
720ml / 1,800ml

ぶどうや梅にも似たフルーティな香りと蜂蜜のような上品な甘さが炭酸割りで大変好評な銘柄です。

ANA(全日本空輸)の国際線向けに始まった銘柄です。
各方面から味とデザインがミスマッチすぎる!と指摘されているそうです。
・瓶の形状は「首を短く」と指定があり選定された。
・国際線とのことで「和」をイメージしたラベルデザインを作成。
・酒質は今までの芋焼酎とは異なる「洋」っぽい味わい。

紅はるかの香りの素は皮にあると気づき、この銘柄に関しては特別やさしく丁寧に洗い、できるだけ皮がはがれないよう気をつけて仕込みます。

食用にされる芋のため単価がびっくりするほど高い。更には焼酎用の芋よりデンプン量が少なく焼酎にできる量も15%ほど落ちる。かなりコストがかかりますが、紅はるかで出来上がる焼酎の香りが自分の蔵にとても合っていると感じているそうです。

杜氏の尋智さんオススメの飲み方は、炭酸割りはもちろん冷蔵庫で8度くらいに冷やしたストレートや、7:3に濃い目に前割りして冷蔵庫で冷やしたもの。クラッシュアイスがイイとの意見も。




【 天文館 】
900ml/1,800ml

「天文館」はピュアな(淡麗な)造りを目指してつくられた銘柄です。

芋焼酎に慣れていない人にも飲んでもらえるようにとキレイな(淡麗な)酒質を目指し、先代の宇都建夫氏が社長就任と同時に立ち上げた銘柄です。第二次焼酎ブーム(減圧蒸留によりクセのない麦焼酎やチューハイが流行った頃)に、減圧蒸留をせず醪の温度管理や蒸留等造りの工夫により芋の香りを抑え、クセ少なくすっきりキレ良い「淡麗」に仕上げています。

天文館の飲食店を意識して造られ、女性に手にとってもらえるようにと軽快な酒質と共にモダンなラベルデザイン(旧ラベル)が採用されました。
居酒屋でワイワイと飲んでいる様を抽象的に水彩画風に描かれたイラストでした。 2018年にラベルも酒質もリニューアルされています。
現行のラベル

焼酎「天文館」は、鹿児島一の繁華街・歓楽街「天文館」の名を冠しています。

「天文館」の地域名は、薩摩藩の天体観測所があったことから名付けられたもので、天体観測により薩摩藩独自の「薩摩暦」を作っていたところです。

薩摩藩の天文学研究施設「明時館」(別名「天文館」)の跡地にある碑。当店から歩いて1分。



【 金峰 荒濾過 】
720ml/1,800ml

年に4回蔵出しされる銘柄。

貯蔵時に浮き上がる油を取る程度でほとんど濾過しないため味わいがたっぷりと含まれる銘柄です。

成分が多いため味わいが変化しやすいです。

変化しやすい原酒を、同じタンクから年4回(2月,4月,7月,11月)に分けて瓶詰め出荷されるため、熟成により毎回味わいに変化があるおもしろい企画の銘柄です。

例えば、2月出荷分の新酒感の残るものを購入し、瓶熟させて7月に飲むのと、7月出荷分をすぐ飲むのとでは、同じ銘柄を同じ日に飲んでも味わいが違う可能性が高いということです。(同じ日に蒸留したにもかかわらず)

2024年販売分(2023BY)の製品は「香り系ですか?」と言われてしまうくらいにいつもと香りが異なるそうです。(蔵元談)
原料芋の調達の関係で金峰紅はるかの蒸留後に(キレイに蒸留器を洗ってから)金峰荒濾過を蒸留しましたが、無いはずの黒糖飴のような香りも感じられ、紅はるかの香りが着いちゃったようです。

(本銘柄は、当店での取り扱いはございません)



当店取り扱いの宇都酒造様銘柄一覧はこちらからご覧いただけます。


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