
「魂」と「Ghost」の先から見えてくる未来
Discordの某プロジェクトで、ベビーメタルが海外で受け入れられているのはなぜ? という雑談話から、すこし突っ込んで、この先に来るものの解像度を上げてみようという試みです。
もともとメンバー内での雑談で留めるつもりでしたが、ひょっとしてこの考え方は役に立つ人がいるのでは? と思ったので。
(需要がどこにあるかわかりませんが…)
ベビーメタルとは?
恥ずかしながら僕はノーチェックでした。
社内でこの手の話題に詳しい仲間から教えてもらいました。
Perfumeの流れを組むユニットで、米国で新しいメタルのジャンルを開拓している真っ只中だと理解しました。
アイドル・メタルと捉えるとイメージしやすいかもしれません。
興味があれば公式YouTubeの動画でライブを見てください。(丸投げ)
はじめに。思想の定義について
もう何度もこの図を使っていますが、使いやすいのでここでも。
思想は信仰と深く結びついています。これは無宗教とか関係なく、生活の中での行動に深く直結しているものです。
例えば日本では玄関に上がり框があって、履物を脱いで生活しますが、そうでない国も多くあります。
上がり框の思想は、神道に由来するとも云われており、日本の信仰の一部とも捉えられます。つまり、知らず知らずのうちに「当たり前」と思える行動にも、古代からその土地に根付いた信仰は影響を与えています。
その結果、表層の町並みや景観が出来上がっているという考え方を図にしたものが以下の図です。
この先、「思想」という言葉を使いますが、それは人の深層で影響しているものだと捉えてもらうとありがたいです。
今回テーマにしている「魂」と「Ghost」については、深層である信仰と思想の最深部に位置するものと考えてください。

「アイドル」が日本でしか生まれない理由
ベビーメタルの話題から出てきた「アイドル」という存在。プロテスタントやカトリック、イスラム教が思想の土台にある国では、そもそも日本の「アイドル」という存在は生まれにくい社会であることが前提になります。
それぞれの信仰の教義に関するもので、日本では仏教や神道の思想が生活の根底にあるのと同様です。
アイドルは本人の人格とは別の人格キャラクターを作って、大衆とコミュニケーションを取ることで成立する存在です。つまり、別の魂を持った人格が本人と同時に存在している状態です。
近年ではVTuberが完全に本人とは分離した別の体(アバター)を持つ状態で存在しているので、よりイメージしやすいと思います。
VTuber学でも詳しく取り上げられているので、一度読まれることをオススメします。
さて、ここで言う魂と別の身体ですが、わかりやすい例えをした人がいて、ガンダム(MS)とアムロ(パイロット)の関係であると。最近だとエヴァとシンジ君のほうが親和性が高いかもしれませんが。
この考え方は、文楽や人形浄瑠璃がある日本独自の感覚で、「万物に霊が宿る」という思想が由来です。
そのため、「魂」の定義そのものが異なる諸外国では「キャラクター」という全く別の「魂」を持つものを認知することが難しく、その一例が人形には「魂」は宿らず、そこに入るものは「悪魔」や「悪霊」とされることが多いのです。(例:チャッキーやグレムリン)。
なお悪魔や悪霊は「非人」であり、日本では悪霊も元は「人」であるという感覚とは全く異なります。
だから、本人とは魂を分離した言動をするキャラクター「アイドル」は、諸外国において受け入れにくい存在です。
似て非なる存在はあれど、日本のように熱狂的なファンを持つ活動が根付くことは少なかった理由です。
そもそも熱狂的ファンとは信者活動と同様であり、アイドルとは偶像となるため、絶対神の思想から考えれば非常に危険な存在であることは想像に難しくないでしょう。
日本ほどキャラクターが渋滞している国は珍しい
ゆるキャラやイメージキャラ、コミックキャラやアニメキャラ、果てはアイドルという存在まで考えると、身の回りには大量のキャラクターコンテンツが渋滞している世界が日本です。
このキャラクター文化は、地域振興や企業のマーケティング戦略にも深く根付いており、各地で独自のキャラクターが生まれ、親しまれています。
例えば地域の特産品や観光地をPRするために作られた「ゆるキャラ」は、その土地の魅力を伝える役割を果たしています。
くまモンやふなっしーなどのゆるキャラは、地域の枠を超えて全国的な人気を博し、さらには海外でも注目を集めるようになりました。
また企業のイメージキャラクターも重要な役割を果たしています。
企業はキャラクターを通じてブランドイメージを強化し、消費者との距離を縮めることができます。
例えばサンリオのハローキティや、ソフトバンクの「お父さん犬」などがその代表例です。
さらにアニメやコミックのキャラクターは、日本のポップカルチャーの象徴として世界中で愛されています。
これらのキャラクターは、物語を通じて人々に感動や楽しさを提供し、ファンとの強い絆を築いています。
アイドルもまた、日本のキャラクター文化の一部として重要な存在です。
アイドルは音楽やパフォーマンスを通じてファンを魅了し、彼らの成長や活動を応援することで、ファンとの深い絆を築いています。特にAKB48や乃木坂46などのグループは、ファンとのインタラクションを重視し、握手会やライブイベントを通じて直接交流する機会を提供しています。
このように、日本のキャラクター文化は多様であり、地域振興、企業のマーケティング、エンターテイメントなど、さまざまな分野で重要な役割を果たしています。
これが、日本がキャラクター大国と呼ばれる所以で、当たり前に思える光景は、諸外国から見たら異質に映っており、その根底には日本の思想が根付いています。
諸外国で受け入れられた理由
ではなぜ今、ベビーメタルもそうですが、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどのアイドルが、特にプロテスタントやカトリック思想が根強い欧米で受け入れられたのか? その理由はアニメにあります。
70年代のアイドル創世記を経験し、「親衛隊」というファン活動が80年代にアニメの世界にも影響を与え、うる星やつらを代表するラブコメ作品で、今で言う「推し活」の原型が始まりました。
一方、同時期に米国ではパンクロックやヒッピー、アメリカン・ニューシネマが流行し、70年代後半から80年代にはミュージックビデオやスター・ウォーズなど特殊映像技術が中心となって広まりました。
日米で別路線を走っていたエンターテイメント文化ですが、1988年に米国で公開された「AKIRA」がハリウッドの特殊映像技術ブーム(SF系)とぶつかり、日本のアニメが話題になり、90年代にはドラゴンボールやセーラームーン、NARUTOなどがその当時、10代だった人たちに大ヒットしました。
一方2000年代に入り、日本ではAKB48(2005年)がアイドルの新しい姿のフェーズにシフトし、同時期に「電車男」をきっかけとして、「オタク」が社会に浸透し始めました。
それから数年間でガラケーからiPhoneを皮切りにスマートフォンが一般的になり、2007年にYouTube、2008年にはツイッターが登場し、リアルタイムで得られる世界の情報の壁が一気に薄くなる現象が発生しました。
また2000年代後半から2010年代にかけて、アニメコンベンションやマンガフェスティバルが世界各地で開催されるようになり、日本のオタク文化が現地のファンに直接触れる機会が増えました。
こうして1990年代から2000年代に、日本のエンターテイメントやアニメ・オタク文化に触れて育った人たちは、20年近く経過した現在大人になり、子育てをしている世代です。
アイドルが欧米で受け入れられた背景には、こうした幼少期に経験したアニメや日本のエンターテイメント表現が現代にアレンジされ、子どもと一緒に体験する機会がネットを通じて身近になったことも大きな要因です。
Anime Is Eating The World
2024年9月にこの記事を見つけたときは震えました。
この先Z世代は外せないキーワードでしたし、アニメは彼らと大きな接点を持っていることがわかっていながら、外の目線からアニメは可能性が大きいと分析された記事は少なかったためです。
補足を加えた記事を日本語でANITABIさんが書いてくれています。
ここから魂とGhostの先の話(ビジネスに繋がる)
魂とGhostは違うのか? から入ります。
まず大前提として、Ghostとは攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELLで欧米にも一部で認知された概念です。一般的には「影・幻影」や「亡霊・悪霊」といった認知です。
元ネタになる〝The Ghost in the Machine〟 (Arthur Koestler/1967)の科学哲学本でも「幽霊」と翻訳されている通り、魂とは別の概念です。
わざわざここで〝Ghost〟を持ち出したのには、記事前半で書いているよう、日本と欧米では思想の違い(信仰の違い)があるため、〝魂〟という概念がそのままでは認知・理解されにくいものであるからです。
また魂の概念は東洋でもいくつもに分岐しており、認知のズレが生じます。ここを深堀りしても違う方向に行ってしまうので、魂に関してはこのくらい知っておけば十分と判断します。
西洋と東洋の思想が融合した新しい『Ghost』の概念
攻殻機動隊の原作者、士郎正宗氏は上記の融合をうまく作中で果たし、アニメ映画となったことで、Ghostが亡霊や悪霊という概念から「魂と精神が融合した概念」へと変貌しました。
この発明は、「精巧な人形にもGhostが宿る」という言葉の意味を大きく変化させ、AI(人工知能)もアバター(仮想体)を得ることでGhostが宿る概念へと発展させます。
現在ゲーム内のNPC(Non Player Character)にAIを組み込む開発が行われていますが、それはこの概念が大きく影響していると考えられます。
この発明の大きさがビジネスにも直結していることがわかる一例です。
またアニメ作品では、〝オーバーロード〟がNPC自らの意思で物語を展開する代表作といえます。
アニメの世界が目指す場所
攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL、Matrixやアバターにも通じるGhostの概念は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(1977)から来ています。
1960年〜1970年頃は、バーチャルリアリティ(VR)の概念が生まれた時代で、ヘッドマウントディスプレイの考え方はこの頃のものです。
同時にこの頃欧米ではオカルトブームが起こっており、エクソシストやローズマリーの赤ちゃんなど、悪霊・亡霊やUFOや超能力など、精神面への興味が大きくなった頃でもあります。
クトゥルフ神話もこのころオカルトに対して大きな影響を与えています。
欧米から遅れること10年、1970年〜1980年前半にかけて日本でもオカルトブームが起こり、それ以前から発展してきたSFブームと重なったことで、異星人とのコンタクトを描く〝超時空要塞マクロス〟や同じく異星人ラブコメの〝うる星やつら〟などを生み出します。
オカルト色が強いアニメとしてはゲゲゲの鬼太郎や悪魔くん、ときめきトゥナイト、幻魔大戦などがアニメ化されました。
その流れから〝AKIRA〟で日本と欧米でそれぞれ発展してきた概念が合流。
ハリウッド映画業界と日本のアニメ業界双方に大きな影響を与え、現在に至っています。
この流れから、現在アニメで『異世界もの』が定番化していることが掴めるキーワードがいくつかでています。
転生
バーチャルリアリティ
魔法とファンタジー世界
この中で〝転生〟に関してはGhostの概念と深く関わります。
主人公は「死」という状況を経て異世界へ転生しますが、死後の世界観に前世を持ち込む考え方は日本独自です。Ghostが自分自身のアイデンティティとする場合、体(アバター)は変化しても自分自身は変わらないとする思想に基づいている状況は、かつての欧米では受け入れがたいものです。
これを学習からではなく、アニメやゲームから感じ取ってしまったことは大変な脅威のため、共産主義や社会主義の国では、日本のアニメやゲームを規制している大きな理由です。
Z世代とのギャップというのは、日本でなく諸外国では大変大きな、埋まることがないギャップである理由がここにあります。
さて、アニメが目指す場所はどこか? という問いですが、Z世代よりも後に続く世代が望む場所こそ目的地です。
そして少なくとも日本ですら、Z世代とのギャップは隣り合うY世代とも埋まらないくらい深いものが存在しています。
彼らは生まれた頃からスマホ(ネット)・アニメ・ゲームが常に隣にあり、このGhostの思想に自然と染まっています。
実態ではない部分に価値を置いている人たちに、実態のものを売るとはどういうことかを真剣に考える時期が来ていると言えます。
余談ですが、異世界転生が少し飽きられ始め、次を模索している業界が見つけた一つの方向がマジルミエに垣間見えています。
今までの流れから考えると、マジルミエは異世界転生ものから方向が変わるきっかけの作品になりそうな気がしています。
(Z世代が目指す場所とも合致しているかと)
実態がなくても感じられる価値
―魂とGhostの先―
Ghostに価値を置く世代にとって、実態があるモノへの価値よりも、自身の存在を実感できるコトへの価値が上回っています。
キーワードにも上げたバーチャルリアリティは、転生と合わせて未来を示唆するもので、メタ社が提案したメタバースが一つの回答でした。
しかしその後を見れば、メタ社の提案は受け入れられませんでした。
大きな理由は、オープンワールドのオンラインゲームがすでに普及している点と、その世界観に慣れたユーザーが新しい世界観でのバーチャルでの日常を望んでいたからです。そこに現在最も近いサービスはVRChatです。
オープンワールドゲームの代表作といえば「原神」↓
VRChatのワールド紹介↓
比較すると、類似点を感じられると思います。
VRChatはヘッドマウントディスプレイを使ったアクセスのため、アバターとGhostの親和性が高く、長く居続けることで転生していることと同義になります。
このVRChatはまさにGhostの先、World(世界観)の創造と転生という概念にアップデートされます。
すでにVRChat内で使えるデジタルデータは、アバターも含めて非常に多く売買されています。
それも企業ではなく、個人での売買(実際は頒布という形を取っている)で成立しています。
こうした流れから、Web3.0の暗号通貨システムが注目されたことも関連しています。
環境が整い切る前に投機目的での利用が先行したために本来の用途がぼやけてしまいましたが、本来はこうしたオープンワールドでデータの売買に使われることを想定されたものです。
現在はこれらのキーワードは一旦収束していますが、先に書いている通り、会話型AIとNPCの概念が欧米でも受け入れられた現代、世界の創造(クリエイト)という、本来神の所業である領域にも、日本以外の人たちでも感覚で入ってこられる時代が見えてきています。
技術的にはVRだけでなく、ARとして広まる可能性が高く、その方向に技術開発が行われていることは現実ですから、あとは時間の問題です。
実物信仰からバーチャル信仰へと変化してきた世の中。
現代は仮想的に拡張される情報と体験が「コト消費」へとつながる間の時代です。
流れに任せているだけでは、今何が起こっているか、なぜそれが受け入れられたのかが見えにくくなると思います。
ビジネスは根底からしっかり考えることが重要な時代に入ったと言えます。