異世界ファンタジーの「神」と教団と世界観の関係は、現実の組織体制と社会構造にリンクしている(読みたくなるストーリーの糧)
前回の時代考証について続編で、「ガラス」という工業製品と文明度について記述しました。波板ガラスって、もはや知らない世代がビジュアルを描いているのだろうなぁ…と思いつつ書きました。
今回も弊社緑青がnoteに書いた中から「紙」に関する話。「神」ともじった訳ではないですが、実際「紙」と「印刷」の発展は「神」と「宗教」から切り離せない存在です。
当然文明度の絡みもありますが、どちらかといえば文化との接点が大きい話です。
「紙」は何のために「在る」のか?
物語で気軽に扱われる「紙」。話中での役割は「情報伝達」の表現の他、「本」や「計算式などのメモ書き」として賢者キャラのメタファーとして使われる要素が目立ちます。
緑青も書いていますが、「紙」というものは、その製法のほか、原材料や水との関わりが大きく、木質系の場合は「火力(エネルギー)」との関わりが強くなってきます。さらには原料と製品を運搬するインフラの問題も絡んできます。
そのため、量産するためには大量のエネルギーと原材料、水が必要となるため、それらを賄える「環境」が必要になります。
紀元前から存在する紙なので、ガラスと違い科学知識の必要は絶対条件ではありませんが、原材料確保と水の存在は羊皮紙であっても変わりません。
木質紙の場合、そこに火力は欠かせないわけです。
つまり、国力がかなり大きくないと生産・流通させることは難しく、小ロット生産の場合、入手が困難になり高額になります。
しかし歴史上、「紙」の存在は不可欠であり、数々の記録が残っていることは間違いありません。
では異世界ファンタジーの時代(中世欧州)において、紙とはどういう存在であったか?
そこを紐解いてゆくと、気軽な紙の利用について描写が変わってくると思われます。なお、この話は洋の東西を問いません。
特徴的に描かれていたのは「薬屋のひとりごと」。
荷札が木片で描かれていたり、作中でも木片に書かれたメモが登場します。
また、本編中でも猫猫が「紙を使うのは贅沢だ」と語っています。
薬屋のひとりごとは、主に唐代(618年~907年)をモデルにして描かれており、楊貴妃時代の文明度を感じるように設計されています。
ただし文化度はもっと先の時代を反映しているのですが、現代から見たときにあまり遠くなりすぎない配慮がなされていることが特徴です。
話が逸れましたが、「紙が貴重である」ことを改めて実感すると同時に、それなりの国力が育っていないと、気軽には使えない世界観背景とつながっていることがポイントです。
神と宗教と国力
神と宗教は人々の信仰や価値観を形成し、その影響は国の政治や経済、軍事力にまで及びます。
現実世界においても神と宗教、そして国力は密接に関連しています。
例えば、中世欧州ではキリスト教が政治と深く結びつき、十字軍遠征などの宗教戦争が行われました。また、イスラム教の拡大も同様に、宗教が国力を強化し、広範な地域に影響を及ぼしました。
宗教が国家の政策に影響を与えることで、国力が強化される一方、宗教戦争や異端審問などの形で社会に緊張をもたらすこともあります。現代でも、宗教的な対立が国際紛争の一因となることがあり、例えばイスラエルとパレスチナの紛争は宗教的な背景を持っています。
紙と宗教と国力
紙は情報の記録と伝達を容易にし、宗教的な教義や経典を広める手段として重要な役割を果たしました。15世紀にグーテンベルクが印刷技術を発明したことにより、聖書が大量につくれるようになりました。
これにより宗教改革が進展し、キリスト教思想が広まり、国家の政策や社会構造に大きな影響を与えました。
さらに行政や軍事の文書管理にも不可欠であり、国家の統治能力を向上させました。紙を用いた記録や命令の伝達は、国家の効率的な運営と国力の強化に寄与していることは現代でも変わりません。
まとめ
紙の存在は「情報を時空や場所を超えて伝達する」ことに大きく貢献してきました。特に宗教的な教義や経典が紙を通じて広まり、国家の政策に深く影響を与えることはもはや歴史が証明しています。
また「文字を読むことができる」識字とも密接に絡んでくるため、段階的な「教育」システムの存在も背後には関係してきます。
つまり紙の描写一つとっても、文明度の表現としてかなり有効な表現手段となるわけです。
神の存在
現代日本に育ったX世代は、新興宗教という言葉に対してあまり良い印象を持たない人が多いと考えられます。その原因の一つは、統一教会がかつて「霊感商法」として高額なツボや印鑑を、不安や悩みの解決として霊的な理由をつけて販売していたことや、オウム真理教の国内テロ事件などを経験した世代だからです。
こうした背景から、「神の存在=宗教団体=反社会的」と短絡して記憶してしまうことは、いわゆる思考停止状態に陥る危険性があります。
論理思考(ロジカルシンキング)やデザイン思考が発達した現代ですから、神と教義と教団は分けて考える時代に突入しているともいえます。
こうして、しっかり整理できた状態で異世界ファンタジーの神々を設定することで、新しい世界観の上で物語を展開できるようになるでしょう。
神と教団を整理
「神」=「かつての人」が日本人の記憶している姿です。
天穂のサクナヒメでもそのことはしっかり語られています。
日本の八百万の神々というのは、かつて人だった…という前提なので、英語の「ゴッド」とは根本的に違います。
詳細は「ゴッドは神か上帝か(岩波現代文庫 学術 56)」にお任せして…
「神」という存在は国や地域によって異なり、これは歴史的に見ても、占領や征服を行ってきた欧州のキリスト教国が、自らの「神」の概念を他の文化に上塗りしようとした結果でもあります。
このような歴史的背景が、異なる文化間での宗教的概念の翻訳や理解に複雑さをもたらしています。
つまり、「神」とは、かつてその地域で勢力を増大させた集団が、その存在理由(レゾンデートル)の裏付けとして、思考の中心に置いたものであり、「教団」はその集団をまとめる、日本で言う官僚的な役割を担う組織だと考えるとわかりやすいでしょう。
「神」と「教団」は表面上一体化していますが、機能的な角度から見ると全く別のものと捉えられます。
神は思考の中心(原点)であり、信仰の対象でもあります。そのため、精神的な存在として人々の価値観の中心にあります。
商業的な角度から見ると、神が保証する価値=保証となるわけです。
すなわち、通貨価値の保証とは、発行する国の保証=神の保証となり、国力の差が通過価値を決めることになります。
狼と香辛料をそうした視点で見てみると、より深いものに感じるでしょう。
狼と香辛料は神と信仰と価値観をうまく取り入れた作品です。
教団の組織体制を考える
「教団」は、神の教えを広め、信者を組織的に管理する役割を担います。
信仰の実践を支え、儀式や教育を通じて信者の生活に影響を与えます。
つまり、教団は神の教えを具体的な形で実現し、信者のコミュニティを形成するための組織的な枠組みを提供します。
この枠組みをバックボーンに、支配層が国を成り立たせます。
異世界ファンタジーでどうしても薄くなりがちな「神」に関しては、「国」と「教団」の関係。そしてそれらをつなぐ「貨幣」と「信用」が絡んでくるので、ややこしくなりがちであり、話を面白くするポイントでもあります。
分解してみれば、現在の管理組織とさほど変わらないため、感覚的にリアルを反映して物語にしていると考えられます。
さらに教団は、社会の安定と秩序を維持するための役割も果たします。
教団が提供する教育や儀式は、信者の道徳観や倫理観を形成し、社会全体の価値観を統一する手助けをします。(文化と繋がります)
また教団は信者からの寄付や税収を通じて経済的な基盤を持ち、これが国家の財政にも影響を与えます。
こうした経済的な側面は、貨幣と信用のシステムと密接に関連しており、国家の経済力を支える一因となります。
(文化の構造については下記をどうぞ)
社会構造とのリンク
ここで注目するのは「貨幣の信用システム」です。
現代日本は「信用貨幣経済」を採用しており、貨幣の価値の裏付けはバランスシートに基づいています。
これは、銀行や金融機関が発行する信用が経済活動を支える仕組みであり、実際の物理的な金や銀に裏付けられているわけではありません。
そのため暗黙のうちに「数字」を信用するようになっており、その影響は「ポイント」といった信用の裏付けが薄いものにまで及んでいます。
それだけ「円(¥)」の信用が高い=国家の信用が高いと言い換えられますが、多くの人が日本の「神」の信用が国民に浸透しているからとは考えないでしょう。
その結果、物語に落とし込んだときに神と宗教の関係が希薄になっていると考えられます。
このように貨幣の信用システムは、現代の経済活動の基盤となっており、教団や国家の経済的な基盤とも密接に関連しています。
社会全体の構造を理解する上で、貨幣の信用システムの役割を考慮することは非常に重要です。
現実の問題の反映
物語では国家と教団の腐敗や権力闘争を、現実の政治ドラマや小説などを雛形にしているため、テンプレートのような展開になっています。
しかしここまで見てきたように、貨幣の信用と信仰、そして国家はすべてリンクしていますが、その接点一つ一つはとても小さなものです。
丁寧に分解して、一つ一つの接点を練っていくことで、新しい展開へつなぐ可能性は多々あります。
また原作者が社会経験がある場合、その経験が元になる可能性も高く、その場合現代の組織と昭和の組織、大正・明治と遡って比較してから考えてもバリエーションが豊かになるでしょう。
さらに物語の中で具体的なエピソードを通じて、国家と教団の関係を描くことで、深みを出すことができます。
また国家という塊で見るよりも、生活の細部まで「神」の存在は文化として入り込んでおり、呪いや結界といった考え方と、貨幣とを結びつけることで、現実で起こっている問題を反映するときでも有効です。
今回は「紙」から「神」へ、そして組織が国家に与える影響まで分解してみました。
作りて側へのサポートとしては、一度分解したものを再組み立てして、シンプルなものにしやすくすることもあるのではないかと考えています。
一つの見本は狼と香辛料かな。