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いい加減気になった異世界ファンタジーのガラス技術時代感を、制作のプロとしてはそろそろ考慮して欲しいと思う(疲れてきた)
なろう系を原作とするビジュアライズアニメもかなりの種類になりました。
原作はテキストだし、公開されている時点では仲間内での共有で問題ないのでしょうが、アニメ化となるとその範囲を超えてきます。
ビジュアライズにあたっては、プロデュースをする側が気を使わなければ、近年はネット配信などで作品を輸出する機会が増加しているため、無知を輸出することとなります。
時代考証という作業は、単に煩型を黙らせるために行うのではなく、舞台となる世界と現代との違和感を構築することで、「空想」を遊ぶ余地を作り出すという役割があります。
また現実との違いをビジュアルで明確に区分けする心理的な役割も果たしています。(現実とのギャップが小さすぎることによる思考の混乱)
しかし、最近のなろう系ビジュアライズ作品を見ると気になることばかり…
そもそもが借り物の世界と設定で物語を展開しているわけなので、基本はガバガバの展開になりがち。
せめて初期企画のときにプロとしてビジュアル設定を組み上げてほしいもの。大事なのは原作は関係ないこと(テキスト世界ですから)であり、むしろビジュアライズのときに問題が生じてしまってるのです。(プリプロ段階)
今回は弊社緑青が書いている記事の中から、ガラスについて取り上げます。
無職転生Ⅰはそのあたり、かなり気を使っている
まずはノンクレジットOPを見て欲しいです。(2024.10月時点では見られてますが、見られなくなった時のため何枚かスクショを貼っておきます)
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背景美術の設定がしっかりしていて、下町(港町)ではガラスが使われていません。この作品の時代モデルは中世欧州なので、庶民の世界ではガラスは使われないことをうまく設定に反映しています。
中世欧州のガラス製法について
当たり前のように「板ガラス」を背景に描いている作品が多いのですが、中世欧州での板ガラス製法と加工方法は現代と全く違います。
下記リンクの記事が短くてわかりやすいので、一読してから戻られることをオススメします。
そのうえで、無職転生を見てみると…
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中世のガラスがしっかり描かれています。そしてこの建物の主は裕福であり、それなりの立場でなければ設置できないことを表しています。
こうした細かな配慮は、見ている側はあまり気にしなくとも、ふとしたきっかけに同じような窓を見かけた時、初めて記憶が繋がり、興味に一気に目覚める可能性は否定できません。またすでにわかっている人から見れば、当たり前に見える(違和感なく見られる)絵面になっているとも言えます。
無職転生Ⅱは少し気を抜いてしまったのかも…
学園モノになってしまったがゆえに気が回らなかったのか、PV後半に出てくる部屋の窓と建物外観はやってしまった感が出てしまってました。
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中世欧州に学園という部分はファンタジーなので問題ないでしょう。違和感があるとすると、学園建物の窓です。
遠景では木製の鎧戸のようにも見えますが、室内からのショットでは板ガラスが使われています。
あんなに頑張ってクラウン法の窓ガラスを描いていたのに…
まぁそれでも、街並み全体は気を使っていることが伝わります。
参考記事を貼っておきますね。
また中世欧州の建築については、ネットでかなりの資料が出ていますので、ちょっと探せばいくつか比較できます。(建築方法の論文も多いです)
あとは物語の文明度に合わせて設定すれば良いだけなので、わざわざ外注で時代考証をする必要も無いでしょう。
反面、日本の中世(戦国時代)の資料は少なく、明治に至っても初期の頃は記録が薄いので、ネットに頼れない背景がありますから、専門知識を持った人が資料を選定しないと、なかなか設定時代感に即した背景美術が作れない結果になります。(なのでお仕事が成り立ってます)
板ガラスが作れる文明度とは?
透明度が高い板ガラスを製造するためには、かなり高度な技術と科学知識が必要です。
高温炉技術
ガラスを溶かすためには約1500℃の高温が必要です。この温度を安定して維持できる炉の技術。
原材料の調達と精製
ガラスの主成分であるケイ砂(石英)、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、炭酸カルシウム(石灰石)を適切に調達し、精製する技術と調達力(政治・資金力)が必要。
製造技術の進歩
溶融ガラスを均一な厚さに引き延ばす技術や、気泡を取り除く技術が必要。化学知識
ガラスの成分や製造過程に関する化学的知識が必要。
古代ローマや中世ヨーロッパでは、これらの技術が発展し、透明なガラス製品が作られていましたが、透明で丈夫な板ガラスが作れるようになるのはもっと近代に近づいてからです。
異世界ファンタジー系アニメでは、馬車を使った移動がよく取り上げられています。その馬車にはごく普通に大きな板ガラスの窓が配置されています。
そこがとても違和感で、馬車に使える板ガラスが製造できるという場合、エネルギー利用の発展も考えられ、蒸気機関や場合によっては電力の供給も考えられる世界です。
つまり自動車があっても不思議ではない世界であるため、富裕層も中世とは違った社会的な構造変化が出ていなくては不自然です。
せっかく剣と魔法のファンタジーなのに、近代常識をそこに取り入れてしまうことで、違和感とチープさがにじみ出てしまいます。
文明度が低い世界での無双が基本だと思うのですが、ビジュアルで文明度を上げてしまっては…です。
終わりに
2021年に世界観については話されていたようですが、2024年現在で活かされているとは考えられないです。
ガラスは関係ないですが、逃げ上手の若様は時代背景と現代常識が非常にうまくミックスされたまさにプロの作品でした。