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【#Real Voice 2024】 「もってる」 新4年・瀧澤暖

強運を持っていること。
特別な何かを持っていること。


2000年代にスポーツ選手などが使い始め広まったこの言葉。


自己肯定感が高い両親に育てられた私は、自分のことを、運の良い人間だと思い込み生きてきた。


小学生の頃、給食の残り物を争うジャンケンで負けることは無かったし、近所のデパートのくじ引きでは、1000分の1を引き当てたこともある。
小学生ながらに己の運の良さを自覚し、自分は特別な存在だと信じていた。


そんな幼少期を経て、今でも根拠の無い自信を纏い日々生活をしている。
だがその自信が、もってるという感覚が、幾度となくへし折られ、ネガティブなシーズンを過ごすことになる。


1月下旬。
冬の長期オフを終え、新チームの始動を迎える頃。
オフ中もトレーニングを続けていたおかげで、身体のキレを実感していた。
紅白戦ではゴールを重ね、自信を持ってプレーできていた。


そんな中迎えた静岡産業大学との練習試合。
ゴールを決めた後、試合の終盤の出来事だった。
自分のミスから相手DFにボールが渡り、必死にボールを取り返そうと、相手のクリアをスライディングで止めにいく。
いつもと変わらないただのスライディングのはずだったが、手の付き方が変だったのか、試合後パンパンに腫れた手を見て怪我を負っていることに気がついた。


念のため病院に行こうと勧められて病院に行き、レントゲンを撮影することになる。


大事になっている状況とは裏腹に
「自分もってるから、大丈夫でしょ」
と謎の自信に満ち溢れていた。


しかし

「これ、手術することになるね」
医師の一言に驚愕した。

根拠の無い自信が、簡単に打ち砕かれた。


手術が終わった日の夜。
激しい痛みに耐えながら、なんであの時スライディングしたんだろうと、答えのない問いに悩み続けた。


初めて眠れない夜を過ごした。

大切なものが手から滑り落ちた。

そんな感覚だった。


2ヶ月のリハビリ期間を経て徐々にコンディションを上げていき、途中出場ながら関東リーグに出場できるようになってきた。


ここから出場機会を伸ばして活躍していきたい。

そう意気込んでいる中、早慶戦の前日練習を迎える。
直前まで軽い怪我で離脱していたため、メンバー入りが難しいことは分かっていたが、新国立競技場が舞台ということもあり、気合いが入っていた。


そんな中

ボールが左胸に強打した。

身体の内側に強烈な痛みが走り、時間が経つにつれて呼吸が苦しくなる。
数日で良くなるだろうと、その時も謎の自信があった。

レントゲンを撮影後、医師と共にパソコンを見つめる。


片方の肺が写っていなかった。

重度の肺気胸。


肺に穴が開き肺のほとんどが萎んでいて、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
すぐに救急車で大学病院に運ばれ、肺に管を繋がれる。
せわしなく時間が過ぎ、手術を終え、無機質な天井を見つめていた。


コンディションが上がっていたのに。
総理大臣杯が迫っていたのに。


大切な時期に限って、調子がいいときに限って、ことごとくそのチャンスが目の前から消えていく。

「もってないな」

幼い頃から持ち続けていた謎の自信が、もっているという感覚が、完全に無くなっていた。


そして、人生をかけて目指してきたゴールを完全に見失ってしまった。


薄味の病院食と狭い病室に響くいびきに耐え、やっとの思いで退院した次の日、チームは総理大臣杯初戦を迎えていた。

インスタにスタメンが流れてくる。

大智(新4年・森田大智)がスタメンか。

自分の出場しない試合になど興味は全くないのだが、大智が出るなら観てみようかなと、YouTubeのライブ配信を見つめる。



そこには、これまでAサブとして一緒のチームで紅白戦を戦っていた大智が、スタメンとして、全国の舞台で、生き生きとプレーしている姿があった。


途中で観るのをやめた。

悔しかった。

だが、嬉しかった。
自分の中に、同期の活躍を悔しいと思う気持ちが残っていたことが嬉しかった。


悔しさが本心に気付かせてくれた。
ついてない出来事の連続が、私をポジティブにさせてくれた。


肺機能なんて、走って戻せばいい。
また肺に穴が空いたら、塞げばいい。

そう考えるようになり、夢に向かってまた走り出すことができた。


そして、大学最後のシーズンを迎える。

目の前で幾度となく魅せられた、大きすぎる9番の背中を目標に、泥臭いプレーで、ゴールという結果で、自分自身の価値を証明し、チームを勝利に導きたい。


大好きな同期ともう一度、日本一を成し遂げたい。






次のブログは、究極のセンスとユーモアを併せ持つ、我らが守護神、村田新直(國學院大學久我山高等学校)です。
大学ラストイヤーは、ピッチ上で抜群の身体能力を活かして、大活躍してくれることでしょう。
そんな新直の本心を、ブログを通して覗けることを楽しみにしています。


◇瀧澤暖(たきざわだん)◇
学年:新4年
学部:スポーツ科学部
前所属チーム:コンサドーレ札幌 U-18

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