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【部員紹介】4年AS小野寺響平「想い」前編

アメリカンフットボールは知れば知るほどおもしろい、奥の深いスポーツ。関わる人も個性的で魅力に溢れています。今回はアメフトに対する熱量が“半端じゃない”部員の想いを、前後2回に分けて紹介します。

早稲田大学米式蹴球部4年小野寺響平です。本年度のAS(アナライジングスタッフ)主任を務めます。
アメフトは大切な存在です。今年学生最後の一年をどのように取り組んでいくかを、今までどういった事をしてきたのかとともにお伝えしたいと思います。

4年AS小野寺響平「想い」《前編》

プロローグ~もがき苦しんだ高校時代~

 2015年9月13日。この日、自分がそれまで生きてきた中で最も屈辱的な事件があった。当時、高校2年生だった私はQBとして先輩の最後の大会に臨んだ。肩が弱く、へたくそだった私は自分のミスが先輩を引退させてしまうのではないかという不安の身を胸に試合に臨んだ。試合の結果は3-0の勝利。劇的な勝利にチームが沸く中、0TD, 2INTというチームにマイナスしか与えていない自分はこのチームにいるべき理由を見つけ出すことができなかった。
 1週間後、自信を取り戻せないまま臨んだ2回戦で0TD, 3INTで先輩達を負けさせてしまった。もはや悔しいという気持ちがわいてこなかった。ただただ先輩に申し訳ないという気持ちで一杯だった。
 どうしたらチームに貢献できるか?これは高3を迎える私にとって一番考えた事であった。そして、この時に考え抜いた結論は「作戦と戦術理解度でチームの勝利に貢献する」。これが高3、そして大学生活を大きく変えることになる。

小野寺1

高校(早稲田実業)はQBを務めていた



1章~挑戦と喪失~

▽▲ランのトップに
 1年生時、関東リーグを2位で終えた。早稲田との直接対決に勝った日大が甲子園ボウルに出場し、そして下馬評を覆して学生王者になった年だ。4年生が引退して自分も学年が一つ上がる。そんな中で自分は高校時代から積み上げてきたものが一つ形になったのか、ランプレーの戦略面でトップに任命された。責任のある役割を与えられたことへの喜びと、使命感。この年から、私の日本一のランオフェンスを作るという挑戦が始まった。

▽▲上級生の仕事
 2年の春は初めての上級生の仕事に追われることとなった。そこで、どんな仕事に追われたのか上級生のASの仕事についてお話したいと思う。大きく分けて4つで、スカウティング(分析)、ゲームプラン作成、練習運営、そして試合中のアジャスト等だ。
1つ目のスカウティングは主に練習外の時間に行い、試合のビデオを見ながら対戦校の傾向を出したり、守り方のルールを解明することで「相手がどういう練習をしているのか」をゴールにしている。
2つ目のゲームプラン作成については、分析結果などを基に、自分たちはどういう作戦を準備すればいいのかという事で、自らの意見とコーディネーターや各ポジションのコーチの方々、そして実際にプレーをする選手の意見をまとめながら最善の戦略を準備する。
3つ目の練習運営については、主に“紙芝居”を書いて出すことがメインとなっている。“紙芝居”とは、受験勉強における問題集のようなものである。受験本番でどういう問題が出てくるかわからない。だから問題集でその学校に合わせた問題を解いて練習する。これと同じで、自分たちの作戦が試合で成功するために、練習で色んな相手の動き、作戦を紙に書いて、練習台の選手に見せて動いてもらう事で作戦の精度を上げていく。分析結果とゲームプランに合わせて簡単なものから難しいものも準備して、試合に近い練習を作る。
そして、4つ目の試合中のアジャストについては、試合の状況に応じてゲームプランを変更したり、弱点をオンタイムで見抜いていく事でゲームのモメンタムを支配するという事である。
少し長くなったが、ASの仕事内容を理解いただけたら嬉しい。アメフトは「戦略のスポーツ」、「準備のスポーツ」とよく形容されることがあるが、まさしくASはそれを体現していると言える。そして、これらの仕事をこなすことでいっぱいいっぱいだった。

小野寺2

2018年秋リーグ戦

▽▲自信
 この秋シーズンは自分が最も成長した時期であった。スカウティングが毎試合的中した。シーズンが始まったころは当時のOL主任秋山真太さんと共に分析して作戦を考えていたが、シーズンが深まるにつれて自分の意見に全幅の信頼を寄せてくれるようになった。また、当時のオフェンスリーダーで、アメフト選手の中で最も尊敬している元山伊織さんにも、「信頼してるから俺を走らせろ」と言ってくださった。秋季関東リーグは全勝で終え、オフェンスは全のスタッツにおいて1位だった。その中でも、伊織さんがリーディングラッシャー、つまり最もランプレーでゲインを獲得した選手に選ばれたことはオフェンスのラン担当のAS冥利に尽きるものであった。

▽▲第73回甲子園ボウル
 甲子園ボウル出場が決まった。相手は学生最強の関学。私も、オフェンスも皆燃えていた。なぜなら、勝つにはノーガードで打ち合うしか方法がなかったからだ。この1年間、2年生の自分を信頼してくれた4年生への感謝が非常に強かった。大好きであった先輩を勝たせること、特に自分を認め、育て、そして信頼してくれた伊織さんにMVPを取らせること。それが自分のできる最大の恩返しだと思っていた。

小野寺3


秋シーズンに張っていた伏線を回収しながら、緻密に計算されたゲームプランを準備して試合に臨むことになった。試合開始。ディフェンスが6プレーでTDを取られたものの、返しの早稲田のオープナーで完璧なドライブを展開。そして、伊織さんがアウトサイドゾーンでTDを奪う。試合前の予想―打ち合いで勝つ―は現実のものになると誰もが思った。しかし、そこから地獄が始まった。自分が考えた完璧であったはずの作戦は複雑で難しかったため、選手の良さをかえって消してしまっていた。なす術もなく止められ、そして失点して、後半から控え選手を出されて。そして、一度もリードを奪う事もなく試合に敗れた。家で数日後に試合を見返すまで、試合後半の出来事は覚えていなかった。

▽▲不完全燃焼
 試合後の感情はカオスだった。悔しさ、先輩がいなくなる寂しさ、そして何より、先輩たちの夢を奪ってしまった後悔。試合が始まる前の準備の段階から自分はミスをしていたのではないか。先輩方は思い切りプレーできなかったのではないか。最後の試合で不完全燃焼で終わらせてしまった。確かにこのシーズンは個人的には成長できた。しかし、大切なもの―自信とライスボウルまでの日々―を失った。最悪な結末で終えることとなった。


…後編へ続く






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