百億の日
電光板を見上げて、すぐに腕時計に目をやった。
七時十分。既に駅のホームには人の列が出来上がっていて、それを形取る人々は皆、険しい表情を顔に貼り付けている。
きっと私自身も彼らと同じような顔で、電車に乗っているのだろう。また一日が始まるというストレス。朝の会議。課題。理由はそれぞれだろうが、ここまでぎゅうぎゅうに詰め込まれれば、そんな表情にもなるだろう。
そうして目的地に着き、職場あるいは学校へと向かうのだ。
一つ目の駅に着いて、車両から十人ほどが降りて行く、ほんの少し肩の力が抜けるが、代わりと言わんばかりに、降りた数以上の学生や社会人が乗ってくるため、結局車内の状況は変わらない。
二つ目の駅では老人の集団が乗ってきて、三つ目の駅では学生が殆ど降りて行き、四つ目の駅ではキャリーケースを転がす外国人が現れた。
毎日見る顔もあれば、その日にしか見られない顔もある。
例えば、私がよく使う大きな駅では必ず修学旅行生の集団が見られるが、その制服や言葉遣いは異なる。同じように見えても、どこかが違っているのだ。
こうした日々の些細な違いを見つけることは、私の密かな楽しみだ。
その時の私には、毎日が『人間観察』と同じように、少しずつ必ず違う、もう二度と訪れないものだということに気付くことが出来なかった。
学生の私には。
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