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少女と犬

 狭い道だった。

 ペットのテリーの好奇心に任せて進むこと約五分。帰り道にしてはやけに冒険に溢れた暗く見知らぬ道を、私は目をキョロキョロさせながら進んでいた。


 なんとなく。そう、なんとなくだ。別にさしたる理由があったわけでもない。のだけれど、今日は散歩に時間をかけてもいいかな、と思ったのだ。

 犬のテリーには精一杯の愛情を注いでいるつもりだが、この子が本当に幸せなのかは正直わからないし、出来ているという自信もない。お母さんなら、きっと胸を張って言えただろうが、私がしているのは十分程度の散歩と、毎日ご飯をあげることくらい。


 なので、今回は私からテリーへのちょっとしたプレゼントをあげることにしたのだ。といっても、高級なおやつをあげるでもなく、ドッグランで走り回らせてあげるでもない。
 帰り道限定で、テリーの望むところへ進ませてあげようという、優しさだ。


 けれど、予想とは違って人気の無い場所に進んでいることに私が怯えていると、それに気付いたテリーは、明かりが多い方へと方向転換をしてくれた。
 私がこの子の気持ちを知ることが出来ないように、この子も私の気持ちを知ることは出来ない。はずだ。


 これもテリーがたまたま明るい道を選んだだけ。安心出来る広い道の方に美味しそうな匂いがしただけ。なんだと思う。

「ありがとう、テリー」

 頭を撫でてやると、テリーは私の手をはねのけてクンクン地面を嗅ぎ始める。
 また、何か気になる匂いを見つけたみたいだ。

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紺色わさび
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