忘れ物したよって話

1ヶ月ほど前のことだったであろうか。いつものように、僕は朝電車に乗った。部活の朝練をするため、時間は比較的早い方だ。同学の他の生徒はほぼ見ない。片手で数える程度だ。

いつものように、空いている席に座り、いつものように単語帳を眺める。
いつものように乗り換えを済ませ、いつものように学校へ。

いつもとは違って、午前授業だったことを思い出した。
ああ、今日は何と気が楽なことだ。

いつものように、部室について、リュックを下ろす。


いつもと違う。手に持っているはずのランチバックがない。
LAKOLEで買った、ベートーヴェンの絵が描いてあるやつ。
(このシリーズ可愛くてオススメです。是非。)

僕の脳内をベートーヴェンが駆け巡る。
合わせて聴こえてくるのは、優美な第九などではなく、焦りを思わせるような熊蜂の飛行。

朝練を終えて、急ぎ駅に電話した。
駅員さんは、僕から淡々と忘れ物の特徴を聞き出す。
僕は答えた。

「中に食料が入っていて、表にベートーヴェンの絵が描いてあります。」

「分かりました。電車がまだ終点の駅に到着しておりませんので、時間を改めて再度ご連絡頂けますか?」

僕の携帯番号を伝えてやりとりは終了。時を待つ。


午後。昼食を失う不足の事態に見舞われていたことを改めて実感しながら、購買でパンを2個購入。時々自販機にお金を入れることよりも無駄金を使った気分。

パンを食す前に電話をかける。

「あの、午前に忘れ物の件でお電話させていただいたもりと申しますが、、、」

「ああ、ベートーヴェン、、、」
電話越しのお兄さんは言った。

やりとりを終え、最寄り駅での受け取りとなった。

ふと気づく。僕はベートーヴェンになったのか。

機会音楽から芸術作品としての創作物へ音楽を進化させた、革命児とも呼べる彼に。
チャイコフスキー、プロコフィエフにまで影響を与えた楽聖に。


偉人になった、そんな一夏。


馬鹿か。普段と何ら変わりない。いつも通りの一夏。

でも、ちょっっとだけ非日常的だった日。

(上手く落とせなかった...)

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