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Fantastic Planet[1973/France]をサウンド面だけで観る

ストーリーを考察する暇も無く、音に完全にやられてしまった。
音だけにフォーカスしている日本語の記事を現在の私には見つけられなかったので、書く。

観ようと思ったきっかけはFlying Lotus「Black Balloons Reprise ft. Denzel Curry」で、サンプリング元が本作のサウンドトラックだと知ったことだった。Flying Lotusがこれを好きなら観ようかな〜くらいの気持ちで観たが、こんなにも食らうとは思っていなかった。

本サウンドトラックはフランスのサイケデリックジャンルの頂点と言われているが、ジャズピアニストAlain Goraguer(アラン・ゴラゲール)の功績だ。このとんでもなく素晴らしいサウンドに使われている楽器が気になった。

【使われている楽器】

フルート、サックス、マリンバ、VCS-3シンセサイザーワウワウペダルハモンドオルガン、テルミン、ハープシコード、クラヴィネット等

VCS-3シンセサイザーをソロ楽器として使ったという点で革新的だった。1919年に世界初の電子楽器テルミンがロシアで誕生し、映画「禁断の惑星」[1956]等で使われていたが、シンセサイザーはまだ、歌手の伴奏やオーケストラにスパイスを加えるために使われていただけだった。

VCS-3

60半ば~70年代にかけて台頭したプログレッシブロックの領域でよく使われたシンセ。Brain Enoの最初のシンセでもある。

ピュンピュンした音もベースの音もたまんない🔽

[1975]🔽

Brian Enoプロデュース[1977]🔽

私はロックに足を踏み入れようとしたことが全然無かったので、恥ずかしながら人生で初めてPink FloydやDavid Bowieをしっかり聴いたが、こんなに面白い音楽だったとはと衝撃を受けた。

また、アランはFantastic Planetの2年前に公開されたアメリカのアクション映画「Shaft」[1971]に影響を受けたと言う。この映画ではギターだけでなく様々な楽器にワウワウペダルを使っていたので、アランもFantastic Planetに多くのペダルやエフェクトを使った。

ワウワウペダル

60年代半ばにイギリスで作成された。ジャズトランペットのミュートのように、中域の周波数帯でギタリストのフレージングを変化させるために考案されたペダル。Frank Zappa, Jimi Hendrix, Miles Davis等が使用し、70年代はラジオをつければいつでもワウワウペダルを通した音が流れていたらしい。

[1970]🔽

[1975]🔽

本作のサウンドトラックで言うと「Ten Et Medor」を聴くとワウペダルの効果がわかりやすい。そしてジミヘンとFrank Zappaがただただかっこいい。しっかり聴くべきだ〜と思った。

ハモンドオルガン

1935年に発売開始された電子オルガンで、ジャズやロックの領域で使用された。Bob Marley「No Woman No Cry」のイントロでも使用され、今でもレゲエにおいて欠かせない楽器。

[1974]🔽

【効果音】

全体を通して、いちいち全ての効果音にぐっとくる。
めちゃくちゃフューチャリスティック!スペーシー!みたいなサウンドではなく、どこか温もりを感じる。それでいてどこか奇妙。
このサウンドはアドリブの演奏を録音したものだと言うのだから、ミュージシャンへの尊敬の念が募る。
中でも私が特に好きなのは、鉱石が光っているシーンの輝きの音。

鉱石の輝きに合わせて不規則に鳴らされる硬い音。これがミュージック・コンクレートなのだろう。

ミュージック・コンクレート

自然界から発せられる音を録音、加工し、再構成を経て創作される音楽で、電子音楽のジャンルのひとつ。「禁断の惑星」[1956]のサウンドも、この手法で作成された。1940年代後半、フランスでPierre SchaefferとPierre Henryがミュージック・コンクレートを生み出した。

ミュジック・コンクレートという名称は具体的(Concrète、Concrete)な音を使うからではない。伝統的で"抽象的な”音楽と対比させるためにつけられた名称だ。"抽象的な音楽"は抽象的な理念や構想から具体的な音楽作品へと向かうものであるのに対し、"具体的な音楽"は、具体的な音響から抽象的な理念や構想の表現へと向かうものだという考えだ。この"具体的な音楽"の生みの親Pierre Henryのアルバムが素晴らしかった。

【本作のサウンドトラックと通底する作品】

Pierre Henry, Michel Colombier 『Messe Pour Le Temps Present』 [1968]

ピコピコ異世界を感じるような電子音が、ジャズやフュージョンと融合していて、とても面白い。この音達はバレエのために作られたもので、このバレエ作品が興味深い。呼吸、身体、世界、我が闘争、夜、沈黙、待機という9つの全く異なる世界が絡み合う作品で、"待機"においては、回転する照明の中でダンサーが舞台上で動かず、観客に留まるか去るかの選択を迫るというものらしい。意味わかんない。観たい。

M2「Psyche Rock」がFatboy SlimがRemixしたことで有名だったようなのでWhoSampledの検索にかけてみたら、これまたFlying Lotusがサンプリングしていた。さすが彼は抜け目無い。好きだよ。

Flying Lotus主宰レーベル<Brainfeeder>のメンバーThe Gaslamp Killerも調理している🔽

ブラックミュージックと電子音の融合という点で共通している現代のアーティストで、私が惚れたのはSteve Spacekだ。

Steve Spacek 「Natural Sci-Fi」[2018]

少し毛色が異なるが、ジャズ、デトロイトハウス、ブロークンビーツ、Sci-Fiサウンド等を織り交ぜるスタイルで、そこに彼の美しいファルセットボイスが絡み合う。非常にセクシー。

シンセサイザーをいくつも使っているようなサウンドだが、iPhone, iPadを中心に作成している。まさに現代のSci-Fiアーティストだ。Floating Points主宰レーベル<Eglo>やKamaal Williams主宰レーベル<Black Focus>からリリースしている。彼は、J Dilla, Q Tip等と共演するUKフューチャーソウル屈指のバンド"Spacek"の中心人物で、他にも"Africa HiTech" "Beat Spacek"の名義で活動しているが、どれも良い。

【サンプリング】

冒頭でも触れたが、私が本作を観たきっかけはこれだった。

ちなみにFlying Lotusは元々映画を学んでいて、2017年に長編映画「KUSO」を監督し、今年夏にはSFアクションホラー映画「Ash」を公開予定。「KUSO」が最高にグロテスクで超現実でとても良かったので、めちゃくちゃ楽しみ。

他にもMadlib, J Dilla, Mac Miller, Big Pun等多くのアーティストがこのサントラアルバムからサンプリングしているが、個人的にはFlying Lotusが圧倒的にかっこいいと思う。

Madlibプロデュース🔽

蛇足

私はJ Dillaを聴いて、こいつやべええ!って心から本気で思ったことが無い。ブラックミュージック好きなのにJ Dillaに詳しくない。でも同様に感じている同世代(筆者2000年生)もそれなりにいるのではと思ったので、理由を考えてみたら、J Dillaの意匠を受け継いだビートを先に聴き慣れてしまっているからではないか、という結論に辿り着いた。逆にリアルタイムでJ Dillaに出逢っていたら、こいつやべえ!かっけえ!ってなっていたと思う。

【おまけ】

めっちゃブリューゲルじゃん!

ってなった個人的お気に入りクリーチャーを最後に。
(全体で見ると”めっちゃヒエロニムス・ボスじゃん!”だけど)

ピーテル・ブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食う」[1557]
左奥にいるやつ
Fantastic Planetのワンシーン

【参考サイト】


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