〜愛が見れる 番外編〜 『 龍さん 』
オカンは余命宣告をされて入院中だった
そんな時に
お父さんが病気で倒れた
お父さんも余命宣告をされて
オカンより先に
お父さんが亡くなった
その一週間後のこと
僕は付き添い用のベッドから起き上がり
目が覚めたオカンのベッドをリモコンでゆっくり起こした
朝9時頃
バタバタと駆け足の音
病室のドアが開く
オカンと親しかった龍さんだった
10年以上会っていなのに直ぐわかった
小さい頃、龍さんと初めて会った時
オバハンやのにタバコを吸っていることが凄いショッキングやったのを覚えている
喫煙者イコールお父さん、喫煙者イコールおっさん
そんな風に思っていた小さい頃の僕からしたら龍さんは完全に浮いた人に見えていた
僕に女性喫煙者がいることを教えてくれた人
青みのあるサングラスにリーゼントみたいな短髪でピンクの口紅
赤色のベンチコートに上下黄緑のジャージ
あの頃とあまり変わらない見た目
腰に付けている黒革のポーチを後ろに回し
『あんた大丈夫か』
いきなり足元の布団をめくり
オカンの足を見た
ベッドから少し離れてサングラスを外して険しい顔つきで
また足を見た
『あぁ すごい腫れて、これはアカンわ。』
僕の耳もとで
『血栓か。』
布団を戻して
『あんた旦那が先に死ぬとこ見れて良かったんちゃうの』
僕は内心なんやこのオバハンと思い病室から追い出そうと『お前なに言うとんねん』と声を出しかけた時
オカンは力の抜けた声で病室の天井を見ながら
『そんなことわざわざ言いに来たんか あんたに関係ないやろ』
龍さんはオカンの顔を見ながら
『関係ないことないがな 私はずっとあんたの味方やったやないの』
二人の会話を黙って下を向いて聞き続けた
『ほんで何しにきたん』
『お見舞いやないの』
『ほんならいらんこと言わんといて』
『あんたがなんでこんな思いせなアカンの』
『私がいちばん思ってるわ』
『そんなけ喋れたらまだ大丈夫やな』
『もうえぇから あんたもうすぐ仕事やろ早よ行きぃや』
『そんな冷たいこと言わんといてや』
『あんためんどくさいねん』
お互いケンカしているような口調やけど
日常でしている他愛もない話にも聞こえた
『ほな田口さん 行くわ』
『もう行って』
龍さんは病室を出た
僕は、一瞬だけ腹を立てたことは忘れていた
腹が減り病室から売店に向かう途中
エレベーターに乗ろうとしたら
帰ったと思っていた龍さんがエレベーターの横にある長椅子に下を向いて座っていた
エレベーターのボタンを押す前に気づき直ぐ近くにあった自動販売機で温かいほうじ茶と温かい緑茶を買い龍さんに話かけた
『龍さん、どっち飲みます』
『誠か。こっちもらうわ』
『どうぞ』
温かい緑茶を手に取り両手で覆うように飲まずに大事そうに持って
『ありがとう あの誠が、こんなことしてくれんのか 私にこんなことしてくれんのか やさしいな』
小さい頃の僕を思い出すよかのように微笑みながら言った
『お見舞いありがとう』
『あんた知らんやろうけどな、お母さん お父さんのこと憎んでたんやで』
龍さんは急に目に力を入れて僕に語り始めた
『お母さんな、お父さんに酷いことされててな、ずっと私に別れたいって言ってたんやで。それでな、お父さんが病気で倒れた時にお母さんと話たんや。アンタが憎かった人が死んでくれるなら良かったやん。アンタも今まで辛かった分、これで清々するやんて、ほんなら、お母さんな』
龍さんは両手で覆った温かい緑茶に力を加えて
『なにが良かったや、お父さん病気になったんや、なにが良かったや、て私ほんまに驚いてな、お父さんのことずっと憎んでたお母さんが私に怒ってきたんや、』
それを言ったあと龍さんの目の力が一気に抜けた
『私はお母さんがずっと辛かった分な、お父さんが苦しんだらえぇと言ったんよ、お母さんだけが最後の最後まで苦しむなんて許せんかったから、でもお母さんな、お父さんのこと庇ったんやで、自分も苦しいはずやのに、憎かったお父さんのこと庇ったんや』
龍さんは両手で覆っていた温かい緑茶を見ながら首を傾げてから吐息で笑った
『誠な、お母さんが倒れる前に喜んでたで。誠がお金くれたって。一万円でも嬉しそうに言うてたで。誠が仕送りしてくれたこと私に嬉しそうに自慢してたで。大きなったなぁ。ガンバりや』
『ありがとうございます』
『これ頂くわな 』
『はい、じゃあ、僕ちょっと売店行くので』
温かい緑茶を見て、また吐息で笑った
『あの誠が、しっかりしたな。またな』
龍さんから離れタイミングよくエレベーターが来たので乗った
扉が閉まる前に龍さんに頭を下げようとしたら
龍さんは涙をふいていた