衛星データの貢献と通信インフラへの期待。米国安全保障における地理空間情報利活用に特化したカンファレンス「GEOINT」で見えた衛星データ利用の変革
地理空間情報分野では、政府が積極的に民間企業のサービスを取り入れ始めたことで、パラダイムシフトが起きようとしています。予算が大きい政府や軍の案件受注は、ベンチャー企業を揺るがす転換点。関係機関のトップが集うカンファレンスには、宇宙関連企業のCXOや事業責任者がこぞって参加します。
ワープスペースのnoteでは、2月にロンドンで開催された、アメリカやイギリスの安全保障関係者が多く出席するカンファレンス「Defence Geospatial Intelligence 2022」(通称DGI)のレポートをお届けしました。DGIはGEOINTと並んで政府や安全保障関係者向けの地理空間情報分野の東西における2大カンファレンスの一つです。
今回のレポートは、2大カンファレンスのうちの残る一つである「GEOINT Symposium」(以下GEOINT)です。アメリカ・コロラド州で4月末に開催されました。過渡期を迎えている業界のトップは何を語ったのでしょうか。視察に行ったワープスペース・CSOの森が会場で語られた内容を振り返ります。
民間の技術で補う調達から、民間ベースの調達へ
今年のGEOINTの注目トピックは、衛星データで可視化されるウクライナ侵攻の被害についてでした。情報戦が激化するなか、企業が衛星画像という中立的なデータを公開し、それをマスメディアが報じたことで、ウクライナの各都市の惨状が広く知られるようになりました。
衛星データの貢献は、基調講演やパネルディスカッションでも大々的に言及されました。宇宙専門のメディアのなかには、こういった話を取り上げていたものもありましたが、やはり政府や軍機関のトップが語るとインパクトが違います。民間企業の衛星データの価値がこれまでにないほど発揮されたケースだと言えるでしょう。
実際に今回のGEOINTでは、光学衛星だけではなく、RF、SAR衛星やハイパースペクトル衛星とそれぞれの衛星に特化したパネルディスカッションが用意され、代表的な企業が登壇。政府や軍関係者が民間から衛星データを購入しようと関心を持っている様子がうかがえました。従来は政府の衛星では撮影できないものを民間から調達していたのが、アメリカでは民間ベースの調達へと変わり始めているのです。
宇宙産業の中心地アメリカへ
アメリカの国家偵察局(NRO)の局長を務めるDr. Chris Scolese氏は講演で、今後も民間企業から衛星データを調達していくこと、さらには本社がアメリカ国外にある場合でも米国内に支社がある調達企業の候補とする姿勢を示しました。これまでNROはアメリカの複数の衛星事業者と契約実績がありました。2022年1月には本社をヨーロッパに置く企業とも契約を締結しています。
ワープスペースは本格的なアメリカ市場への進出に向けて、現地拠点の開設を進めています。3月には戦略的サポートを提供するGXOと、連携協定を締結しました。そのため、アメリカ政府が民間調達の幅を広げていくこの流れは要注目です。
その中で、こぼれ話にはなりますが、GXOのメンバーであり、ワープスペースを担当していたVP of Government Affiarsを務めていたRichard DalBello氏がアメリカの海洋大気庁(NOAA)の宇宙商務局の局長に選任されたことがGEOINTのクロージングセッションで突如発表されました。これは私にとっても、大きなサプライズでした!
衛星インフラの実現に求められるスピード感
NASAが既存のデータ中継衛星(TDRS)の後継機を実証する企業6社を選定したと発表したことも、基調講演やパネルディスカッションの話題となっていました。日本においては、同時期にNTTとスカパーJSATが合弁会社を設立し、準リアルタイムに光通信を活用し大容量のデータ伝送を実現する事業に取り組むことを発表しています。このような動きからも、低遅延の通信ニーズが確実に高まってきていることがわかります。
今回の視察で嬉しかったのは、とある政府機関のトップの方と懇談会でお話した際に、ワープスペースの社名を知っていてくださっていたことです。注目していただいていることを実感しました。
GEOINTではこのように、大きな時流の変化に応じて、アメリカ政府がこれまでも進めてきた民間調達と、その結果としてもたらされる技術革新に対する要求が、急激に高まってきている様子がうかがえました。特に安全保障に関しては先行きの見通しが立ちづらくなってきていることから、何かが起きる前に、”予防策”を敷こうという姿勢が顕著に出ていました。
その中で民間企業に求められることは、いかに素早くかつ低コストで、政府機関が求めるものが提供できるかとなります。しかし、その大前提としては、サイバーセキュリティ性能を含めて、技術的に安全性と確度の高いプロダクトやサービスを提供する必要があります。
私たちが目指すのは、民間として世界初の衛星間光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」を構築し、宇宙空間と地上をシームレスに繋ぐこと。電波と比較して光はセキュリティレベルが高いことは、政府や軍関係者のニーズに応えられるポイントです。同様のサービスを構想している企業は複数社あるのですが、技術実証を成功させた企業はなく、決定打がついていません。世界に先駆けてマーケットインするべく、ワープスペースはスピードをもって事業に取り組んでいきます。