【IPSEC】光通信の街!?西オーストラリア州・パースは深宇宙への窓に
2023年10月23日から24日まで、オーストラリア西部の街、パースにてIndo-Pacific Space and Earth Conference 2023(IPSEC 2023)が開催されました。IPSECは、今年初めて開催されるカンファレンスイベントで、AIやロボット工学から遠隔操作に至るまで、地球上と宇宙空間の両方で応用可能なあらゆるテクノロジーについて掘り下げ議論することを目的としています。
パースはオーストラリア内でも、快晴の日が多いため、ロケットの射場や天文台などが集中する街です。一方で、地上の光通信ネットワークのハブでもあるため、光通信地上局のハブとしても期待される街です。また、ワープスペースのパートナー企業であるオーストラリアの地球観測衛星事業者「LatConnect 60」もオーストラリアに拠点をおくため、オーストラリアは今後のワープスペースの事業展開を考える上でも非常に重要な土地です。
このカンファレンスには、ワープスペースからはCSOの森が参加し、地球観測衛星市場に関連する課題や光通信衛星業界の動向についてプレゼンテーションを行い、大きな注目を集めました。この記事では、IPSECにて森が現地で見聞きしたトピックのうち、特に注目すべきものをご紹介します。
地上の技術と宇宙探査のクロスオーバー
森は今回のIPSECにて特に印象に残ったトピックとして、自動運転可能な宇宙探査ローバーを挙げています。オーストラリアはもとより、鉄鉱石やボーキサイト等の鉱物資源の採掘が活発であり、自律走行するトラックや無人列車、自律走行する掘削装置の開発の分野で世界の最先端の技術を有しています。
そうした技術シーズを持つオーストラリアの企業が、近年NASAが推し進めるアルテミス計画に関わって、宇宙機の自動運用についての研究に取り組んでいるようです。またそうした自動運転技術に加え、地球上の掘削現場で用いられる工夫を宇宙探査へ活用する試みについても語られました。具体的には、
と、森は語ります。
このように、Indo-Pacific 「Space and Earth」 Conferenceというカンファレンスの名の通り、地上の産業の現場で生み出された技術が宇宙開発とクロスオーバーする事例が数多く議論されていました。また、こうした自動走行車に光通信端末を搭載するというアイデアも挙がっており、衛星間通信だけにとどまらない、宇宙空間での光通信の潜在的な需要についても議論されました。
(*1【参考:The Sydney Morning Herald】No one behind the wheel: The new workforce driving Australia's mines)
西オーストラリア発、光通信ネットワークの全貌
自動運転可能な宇宙探査ローバーに加え、森が特に重要だと感じたトピックは、オーストラリア発の光通信ネットワークの構築に関するトピックです。西オーストラリア州の研究者らは、オーストラリア宇宙庁、西オーストラリア州政府、西オーストラリア大学から多額の助成金を受け、レーザーを使用して宇宙空間と地上を含めた光通信ネットワーク「TeraNet」の構築に関わる研究を進めています(*2)。このネットワークは西オーストラリア大学とパースの北383キロにある都市ミンゲニューに設置される 2 つの固定地上局と、パースから北に 132 kmにある街ニュー・ノーチャに配備された光通信端末を搭載される車両で構成されます。
TeraNetは地球を周回する衛星と地上の間でデータを転送するだけでなく、月を含む深宇宙での高速通信の探査も計画しており、NASA のアルテミス計画との連携も視野に入れた大規模なプロジェクトであり、2026 年に完成する予定であることが発表されました。
森は特に、このプロジェクトチームのパートナーの質に注目します。プロジェクトには、深宇宙地上局で有名なグーンヒリー・オーストラリアや、地上局システムの開発ノウハウを持つタレス・オーストラリアも関わっており、盤石の体制です。こうした地上局ネットワークとのコネクションも、ワープスペースが今後事業を拡大していくうえで非常に重要となりそうです。
(*2【参考:ICRAR】To the Moon and back: Australia-first communications network paves the way for high-speed data in space)
(執筆:中澤淳一郎)