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光無線通信は既に成熟した技術!?度重なるNASAのプロジェクト成功と商用化への展望とは【宇宙ビジネス最新動向解説:KaBSC & ICSSC】

 2024年9月24-27日に、衛星通信に関する国際合同カンファレンス29th Ka and Broadband Space Communications Conference (KaBSC)及びthe 41st International Communications Satellite Systems Conference (ICSSC)がシアトルで開催されました。ワープスペース・CSO兼米国CEOの森は、その中の20th BroadSky Workshopにて、弊社サービスである「WarpHub InterSat」に関する講演を行い、高い関心を集めました。本記事では、現地にて参加した森の見聞をお届けします。

光通信への高まる注目

今回、「Ka and Broadband Space Communications Conference (KaBSC)」と「41st International Communications Satellite Systems Conference (ICSSC)」の両方の会議で光通信に関するセッションが行われ、その注目度の高さがうかがえました。

特に、日本の情報通信研究機構(NICT)が主催する「BroadSky Workshop」では、光通信ベースの最新技術が紹介されました。ワープスペースのCSOである森は、同社が開発する「WarpHub InterSat」や光通信に必要なマルチプロトコルモデムに関する講演を行い、宇宙分野での光通信の新たな可能性を示しました。講演後の質疑応答では、光通信に対する基本的な質問が多く、新規参入分野としての関心が高まっている様子が伺えました。「この分野は今後、さらに注目が高まるでしょう」と森も語っています。

BroadSky Workshopにて登壇する森

光通信技術の成熟と商用化への展望

今回のカンファレンスでは、政府系の研究機関や宇宙機関の参加が目立ち、特にNASAによる光通信プロジェクトの進展が話題になりました。会場には、NASAが進める主要プロジェクトのリーダーたちが集結し、それぞれの成果や今後の展望が共有されました。代表的なプロジェクトには次のようなものがあります(*1,2,3):

  • ISSでの光通信実証実験・LCRD(Laser Communications Relay Demonstration)プロジェクト

  • サイキ探査機に搭載された光通信端末・DSOC(Deep Space Optical Communications)による深宇宙での光通信実証実験

  • オリオン宇宙船に搭載された、O2O  (Orion Artemis II Optical Communications System)による有人宇宙ミッションにおける光通信実証実験

  • Pathfinder Technology Demonstrator 3 (PTD-3)に搭載された光通信実証端末 TBIRD(TeraByte InfraRed Delivery )プロジェクト

(左上)中継衛星ILLUMA-Tを介し光通信を行うISS-LCRD、(右上)Psyche(サイキ)による 深宇宙光通信ネットワーク、(左下)月軌道を周回するオリオン宇宙船、(右下)LEOから地上へ光通信によりデータを転送するTBIRD

TBIRDは、2022年5月にNASAが打ち上げた光通信技術の実証ミッションで、6Uサイズの小型衛星のペイロードながらも圧倒的なデータ通信能力を示しました。このミッションでは、1秒あたり200ギガビットというNASA史上最高の光通信速度を達成し、わずかな時間でテラバイト級のデータを地上に送信することに成功しています。そして驚くべきことに、TBIRDの大きさはティッシュ箱ほどしかありません。

一方サイキに搭載されたDSOCは、金属に富む小惑星「プシケ」に向かう最初の2年間で地球との高帯域幅通信の試験を行います。近赤外レーザーを使い、Psycheは地球月間の約80倍の約3100万キロメートル(約0.2 AU)離れた宇宙から、267Mbpsでカリフォルニア州パロマー天文台のヘール望遠鏡へデータを送信しました。これは光通信技術として、これまでで最も遠い距離での実証です。DSOCは、今後約3.9億km(約2.AU) 以上の距離でのデータ送信を実践する予定です(*4)。

これらのプロジェクトは、少人数で全て成功に導かれており、民間では難しいとされる安定した開発プロセスが実現されました。森は、

NASAは少量生産で一つのプロジェクトに集中できるため、製造コストや複数製品の同時開発に悩む必要がないが、それにしても、これらのすべてのプロジェクトを成功させた意義は大きい。これまでの約3〜5年の成果により、NASAでは衛星間光通信技術は成熟技術(Mature Technology)であると見なされるようになった。

と述べています。そのため、新規研究開発のための予算は縮小される可能性がありますが、既存の宇宙ミッションへの応用が加速する見通しです。たとえば、他のミッションにおいて光通信モジュールがサブシステムとして利用される機会が増えると考えられます。

また、こうした技術の成熟に伴い、民間企業への技術移転やアウトソーシングの拡大も期待されています。これにより、光通信技術が新たなビジネスチャンスをもたらし、民間主導の商用サービスが加速するでしょう。特に大手通信企業がこの分野の応用に注力することで、光通信技術がさらに普及し、産業全体の発展に貢献することが予想されます。

今回のカンファレンスを通じて、光通信技術が宇宙通信の未来を切り開く重要な要素であることが再確認されました。NASAのプロジェクトが示すように、光通信は既に信頼性のある技術として確立されています。今後は、こうした技術の実用化と民間への移転が進むことで、宇宙産業と通信業界のさらなる発展が期待されます。

(*1【参考:NAキSA】 What’s Next: The Future of NASA’s Laser Communications)
(*2【参考:NASA JPL】Deep Space Optical Communications (DSOC))
(*3【参考:IEEE】NASA's optical communications program for 2017 and beyond)
(*4【参考:NASA JPL】5 Things to Know About NASA’s Deep Space Optical Communications)

(執筆:中澤淳一郎)


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