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【WSBW 2023】止まらないNew Spaceの進撃。MEOを巡る衛星通信事業にも新展開か

 本年も、人工衛星産業のコンサルティング会社Euroconsult(ユーロコンサル)が主催する、World Satellite Business Week(WSBW)がルーブル美術館付近のThe Westin Paris - Vendômeにて開催されました。WSBWは、人工衛星製造や衛星データ解析、小型宇宙輸送機を中心とした人工衛星関連ビジネスのトレンドなどについて各国の関連事業者のトップエグゼクティブが集結するカンファレンスです。今回は特にEuroconsultが40周年を迎える節目であり、世界各国から1500人を超える参加者が集まり、そして登壇したCXOレベルのスピーカーの数は230を超える程の、非常に大規模かつ情報価値の高いカンファレンスとなっています。このような、世界最先端の人工衛星産業のトレンドが議論される場に、ワープスペースからはCSOの森が参加及びパネルディスカッションに登壇しました。この記事では、WSBWにて発表された今後の人工衛星産業に大きなインパクトを与えうるトピックをお伝えします。

 全体のトレンドとして、現地参加した森が特に感じた点は、以下の二点です。

  1. 安全保障に関するトピックが多く、特に官庁の需要が増加している。

    1. 現在、民間企業間の資金調達は下火だが、一部の民間企業は、安全保障に関連する官庁の特需により資金の調達が出来ており、その傾向は以前よりも増して強くなった。米宇宙開発局(Space Development Agency:SDA)のように、官庁が民間を使いスピーディーに開発を進めている。(参考記事:【SmallSat Symposium 2023】

  2. Traditional SpaceとNew Spaceの協業により、通信衛星市場は転換期を迎えている。

    1. 通信衛星企業最大手のSES社が、Starlinkを擁するSpaceX社と協業。また大手通信会社のIntelsatと、Googleからのスピンオフ企業であり、光通信技術を開発するAalyria Technologiesとの協業が発表された。

 この記事では、ワープスペースに特に大きなインパクトを与えうるトピックである、「Traditional SpaceとNew Spaceの協業」について、詳細にお伝えします。

(以前の様子はこちらの過去記事をご覧ください。)

今回のWSBWにワープスペースはSilver Sponsorとして参加しています。
パネルディスカッションに登壇する森

SESとSpaceX ーStarlinkの快進撃ー

 SESとSpaceXの協業の背景には、SpaceXのStarlinkによるLEO(Low Earth Orbit:地球低軌道)での衛星通信事業の開拓があります。

 これまでの通信衛星は、地上に対して相対的に静止している軌道である、GSO(GeoStationary Orbit:静止軌道)上に位置していました。しかしGSOは地表から遠方のため、GSOを用いた衛星通信では、通信の遅延や速度が不足する上、特に衛星システム(アンテナやバッテリ)も大型化せざるを得ないため衛星の開発コストが高くなり、新規参入に対する壁が高い等の問題がありました。

 その状況は、SpaceXのロケット「ファルコン9」によって打開されます。ファルコン9は徹底した低コスト化が図られたロケットであり、同規模同時代のロケットと比較して遥かに安価に衛星をLEOやMEO、GSOに送る事が出来ます。これにより、商業衛星市場では新規参入する事業者が増え、小型の衛星をLEOやMEOに打ち上げる流れが生まれました。

 SESなどの大手通信衛星事業者は、MEOがLEOよりも遠方であるが故の利点、すなわちMEO衛星はLEO衛星よりもはるかに広い地表のエリアをカバーできる点(カバレッジの広さ)に目をつけていました。GSOだと遠すぎ、LEOだと近すぎる、という判断です。それによりSESは、「O3b(Other 3 Billion)」という衛星コンステレーション(群)プロジェクトにより、世界中にいるインターネットにつながっていない30億人をネットにつなげようという計画を発表しています。

 一方で、SpaceXはLEOに大量の通信衛星を配備するコンステレーションにより、LEOの弱点であるカバレッジの狭さをカバーする「Starlink」計画を実施しています(*1)。そしてこのStarlink衛星は毎週のように打ち上げられており(*2)、その総数は10月16日の時点で「5265機(プロトタイプを含む)」、最終的な衛星数は4万2000機(*3)となっています。SpaceXは数年内にさらに1万2000機を打ち上げる方針であり、まさに、通信衛星市場を席巻する勢いです。

 こうした背景を踏まえ、2023年9月13日、SESはSpaceXと協業することで、StarlinkのLEO衛星とSESのMEO衛星による共同サービス「SES Cruise mPOWERED + Starlink」を提供することを発表しました(*4)。これは、MEOとLEOの長所を組み合わせ、クルーズ客船とゲストに24時間365日、高速で安全な通信を提供することを目的としています。

「SES社という衛星通信最大手(Traditional Space)すら、SpaceX(New Space)と手を組む、というフェーズに到達するほど、「Starlink」の勢いは凄まじい」

と森は述べています。

クルーズ船に設置されたスターリンク衛星アンテナ。(c)Royal Caribbean Group

(*1【参考:宙畑】通信衛星コンステレーションビジネスとは~参入企業、市場規模、課題と展望~)
(*2【参考:sorae】検索結果「スターリンク衛星」)
(*3【参考:TECH+】スペースX、スターリンクの新型衛星「V2ミニ」を打ち上げ - その性能とは?)
(*4【参考:CNBC】SpaceX’s Starlink partners with European satellite giant SES for combined cruise market service)

IntelsatとAalyria Technologies ー MEO x 光通信の新プレイヤー ー

 衛星通信事業者の老舗であるIntelsatはWSBWにて、衛星通信を飛躍的に高速化するために、Googleからのスピンオフ企業であり、光通信技術を開発するAalyria Technologiesと合意したと発表しました(*5)。

 この協業では第一段階として、毎秒数百ギガビットの速度でデータを転送するための光通信による地上・宇宙ネットワークを2024年に確立することを計画しています。発表によると、Googleの親会社であるAlphabetで開発された光通信技術であるタイトビームと、Aalyriaのネットワークオーケストレーション(システムやソフトウェア、サービスなどの構築、運用管理を自動化する)技術であるスペースタイムにより、航空機、船舶、地上局をさまざまな軌道上の衛星と接続し「海底ケーブルの容量と能力を、宇宙で実現する」ことを目的としているようです。

 この計画においてワープスペースにとって特に重要な点は、利用する軌道です。IntelsatはこれまでGSO衛星を用いた衛星通信サービスを展開してきましたが、この計画では、MEOに衛星コンステレーションを配備します。IntelsatとAalyriaが具体的にMEOを用いてどのようなサービスを提供するかは不明です。しかし、MEOを用いた光通信サービスという点では、MEOに通信衛星を配備し、光通信を用いてLEO衛星と地上との通信を中継することで、LEO衛星の弱点であるカバレッジの狭さをカバーするワープスペースが提供予定のWarpHub InterSatと競合する可能性は十分にあります。

 確かに、もし競合する場合は非常に強力なライバルが登場したことになりますが、森は、

「MEOはLEOに比べてカバレッジが広く、地上局との通信がしやすいため、衛星データを低遅延で地上に送れることから、ワープスペースは早くからMEOに注目していた。通信衛星超大手のIntelsat、そしてGoogle傘下の天才集団Aalyria TechnologiesもMEOに注目し始めたということは、かえってワープスペースの方針の妥当性を示しているとも言える。」

と述べます。WSBWで新しい展開を見せた光通信市場。今後の動向に、目が離せません。

IntelsatとAalyriaによる、毎秒数百ギガビットの速度で双方向の地上・宇宙接続を可能にする衛星コンステレーションのイメージ図 (c)Aalyria

(*5【参考:SPACE NEWS】Intelsat and Aalyria aim for “subsea cables in space”)

(執筆:中澤淳一郎)

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