
さよなら新幹線のワゴン販売。スゴイカタイアイスの思い出
東海道新幹線のワゴン販売が終了した。自分はついに利用しないままだった。「子供時代は長縄跳びでつっかえるタイプだったので」といえばご納得頂けるのではないか。動くワゴンにタイミングよく声かけたり、待たせずに注文をサラッと伝えたり、そういうスマートな対応ができる気がまったくしない。
俗にいう「シンカンセンスゴイカタイアイス」をホットコーヒーで溶かす旅は憧れのままになってしまったが、このアイスにひとつ思い出がある。たいした話ではないが、ちょうどよい機会だし残しておく。
その日、飛行機に乗るため成田空港へ向かっていた。静岡の地元の駅から出発して、新幹線に乗り換えて品川まで行き、成田エクスプレスへ乗り換える行程。時期は3月になったばかりでまだ寒く、コートが手放せなかったが、その日はものすごく天気が良くて、わたしも含め多くの人が上着を脱いで新幹線を待っていた。
新幹線に乗り込んでから10分も経たないころ、車内販売のワゴンが車両に来た。私のすぐ後ろの席で、 同じ駅から乗ってきていたマダム(と呼びたいくらい素敵な雰囲気とお召し物のおばさまだった)が販売員を呼び止めた。
「アイスクリームをください」
あ〜たしかに、今日はアイスを食べてもいいなあ、と反射的に思った。マダムは販売員の方に聞いて、味の種類やおすすめを聞いている。久しぶりの遠出なの、あらいいですねと楽しげな会話を挟みながら、最終的に新発売らしいキャラメルナッツ味を頼んでいた。
販売員の方が「凍っていて硬いのでお気をつけください」と言うと「あら、品川までに間に合いますか?」と聞くマダム。品川までは30分近くある。販売員さんは「その頃までには大丈夫ですよ」和やかに答えた。
マダムとのやりとりに感じが良さがあらわれていたので、あの販売員さんなら声をかけられるかも……。でも、通り過ぎた位置にある自分のところにも戻ってきてもらってもいいものなのかな……。でも、キャラメルナッツ味のアイスなんて美味しいに決まってるから食べてみたいな……。などと頭によぎったが 、結局声をかけられずに終わった。
品川に近付く頃、新幹線は予定より数分遅れていた。成田エクスプレスへの乗り換えに急いだ方がよさそうだ。いそいそと身支度を整えていると、着く間際に乗務員の方が通りすぎる。先ほどのマダムが「あの!」と呼び止めたのが聞こえた。
「アイスがまだ硬いのよ!」
なんと。シンカンセンスゴイカタイアイス、30分では食べることもできないのか……。乗務員の方がワゴンの販売員さんを呼んできたところまでは見たけれど、駅停車即ダッシュをしたかったので早めに立ち上がって降車口に向かった。
マダム、ちょっと怒ってらっしゃったみたいだけれど(買ったもの食べられてないのだから、それはそう)、結局どうなったんだろう。そこに割り込んで「わたし、そのアイス買い取ります!今からまた2時間近く特急乗るんで!」とか言えたら丸く収まったかなあ。ワゴン販売を呼び止めることすらできないから、ファンタジーな妄想でしかないのだけれど、無事乗車できた成田エクスプレスの中でも思い返していた。
話はそれだけなのだけれど、なんとなく忘れられず、ときどき思い出す。ワゴン販売のアイス、硬い硬いとは聞いていたが、そんなに硬いのかと実感した出来事だった。マダム、そのときは悲しかっただろうけど、ワゴン販売自体が過去のものになった今、よき鉄板ネタになっていたらいいな…。