見出し画像

インゴ・スワン「リアル・ストーリー」(余話)

インゴ・スワンが書いた「リアル・ストーリー」は前回の部分で終わっており、明らかに未完となっている。

1997年に書き始められたこの物語が突然中断され、インゴが亡くなった2013年1月31日までの間に再び書き継がれることがなかったのは、どういう理由によるものか定かではない。

「リアル・ストーリー」は1972 年 10 月 1 日、インゴが翌日SRIのパソフの研究所に向けて発つとルース・ハギー・ブロッドに告げるところで終わっている。

実際、インゴはスタンフォードに3度目の訪問を行った。「リアル・ストーリー」では実験を止めるとパソフに伝えるつもりだと書いているが、どんないきさつがあったかは不明だが、結局実験は続いた。

その時期にインゴは、「地理座標を使ったリモートビューイング(のちに〈SCANATE〉と呼ばれる)」という画期的な手法を提案し、これが後にCIAによるリモートビューイング・プロジェクトに発展していく大きなきっかけとなる。

この手法はインゴがSRIのカフェテリアで当時ARPANETの研究者でSRIに滞在していたジャック・ヴァレと議論した後に思いついたものだという。

Jacques Fabrice Vallée(1939- )

「目標地点の緯度と経度を与えるだけで他の情報は一切なしに、遠隔にある目標地点を透視する」という実験は、それまでの超能力や超心理学に関する既存のあらゆる概念を超えたものだった。

しかしこの手法が疑いなく機能していることをインゴが実証するに及び、パソフとラッセル・ターグはますますこの「座標リモートビューイング実験」にのめり込んでいく。このあたりの経緯は『マインド・リーチ : あなたにも超能力がある』の中でラッセル・ターグとハロルド・パソフ自身が詳しく述べている。

その後のパット・プライスヘラ・ハミッドなどの優秀なリモートビューアーの出現や、政府機関が本格的にESP実験に関与していき、陸軍における「スターゲート・プロジェクト」へと発展・変遷していく経緯については、ここでは割愛する。

興味のある方は、上掲『マインドリーチ』に加えて以下の2冊の本を読めば、インゴ・スワン以降のアメリカESP研究の歴史について必要な知識はほとんど得られるだろう。どちらも丹念な取材に基づいた第一級のドキュメンタリーであり、強く推薦する。

『ヒストリカル・スタディーズ アメリカ超能力研究の真実―国家機密プログラムの全貌』
アニー・ジェイコブセン著、太田出版、2018年
サイキック・スパイ: 米軍遠隔透視部隊極秘計画 (扶桑社ノンフィクション シ 14-1) 文庫 – 1998/1/1 ジム・シュナーベル著

シュナーベルの本は現在はやや入手が難しいが、古本なら手に入る。シュナーベルはESPに懐疑的ながら後にインゴ・スワンにリモートビューイングの手ほどきを受けている。

さて、話を戻すと、SRIでインゴ・スワンは、1973年にさらに度肝を抜くような実験を提案した。

リモートビューイングで地球外の惑星を遠隔透視するというのである。

当然この提案を受けたパソフとターグは難色を示したが、インゴの能力には疑いがなかったので、とにかくやってみようということになった。

次回は、後の有名な「月面リモートビューイング」にもつながるこの「木星探査RV実験」について、インゴ自身の言葉で紹介していく。

いいなと思ったら応援しよう!