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「UFOタブー」とは何か

アメリカのジャーナリストで、あの2017年12月のニューヨークタイムス記事2023年6月の「デブリーフ」記事を書いたレスリー・キーンの著書『UFOs 世界の軍・政府関係者たちの証言録』(原題:UFOs: Generals, Pilots and Government Officials Go On the Record、2010年。邦訳:二見書房、2022年)は、アメリカ政府のUFO問題に対する取り組みを変えたと言われる本で、「UFO/UAPはオカルト分野の話ではない」ことをジャーナリスティックな観点から捉えた名著である。

ロス・コーサート『UFO vs 調査報道ジャーナリスト』(作品社、2023年)と並んで、現在のUAP現象を巡る動きを押さえるうえでの必読文献と言えるだろう。

レスリー・キーンはこの中で、「あらゆる証拠や証言にもかかわらず、UFO現象を真摯に受け止めることが、なぜ強力に妨げられ続けているのか」という「UFOタブー」の本質に切り込んでいる。

2021年にはアメリカ国防総省がUFOの存在を公式に認め、昨年にはデイブ・グルーシュのような第一級の信頼すべき立場にある政府高官が「アメリカ政府はUFOの機体を回収し、エイリアンの遺体も保管している」という衝撃的な暴露を宣誓供述として行ったにもかかわらず、メインストリームメディアの反応は奇妙なほどに鈍い。

これは単にメディアだけの問題ではなく、それを受け止める一般人の意識に深くかかわっているように思う。

一つの説明は、過去70年以上にわたってアメリカ政府が行ってきた「秘密主義」に基づく隠蔽工作及びUFO問題を真剣に受け止めないようにするためのさまざまな活動によって、「UFOを真剣に受け止めるべきではない」という文化的情勢が確立されているからというものだ。

現代世界において「現実とは何か」を決定しているのは、政府、学術界、主要メディアの三つのグループからなるエリート文化の権威構造である、とアレクサンダー・ウェント(オハイオ州立大学政治学教授)は論じている。

この構造の中で、UFOは「事実」ではなく、真摯に受け止めるべきではなく、少なくとも他の奇妙な文化的信念と同じくらい真剣に受け止めるべきではないという共通見解が存在する。個々のメンバーがどう考えているかには関わりなく、公の場ではUFOのような話題について真剣に受け止めるべきではないと思われている。

UFOタブーの一つの兆候は、UFO現象に反応しなかったり、無関心であることである。現代科学は自然界のほとんどすべての現象を興味深い研究対象とみなしているが、UFOはその例外となっている。それは合理的な言説の埒外にあると考えられており、無視されるだけではなく、事実上禁止されている。現在のメディアの反応はまさにこの線に沿っている。

しかし、世界中で何千もの報告が、説明のつかない空中物体について述べている。その多くは民間や空軍のパイロット、航空管制官、宇宙飛行士、科学者などの専門家による証言である。一部のUFO報告については、科学的に分析された写真やビデオ画像、地表の痕跡、異常なレーダーなど物理的証拠によっても裏付けられている。そしてこれらについてアメリカ政府は「実在する説明不能なもの」としてUAP現象という名を与え、そのための法整備をするまでになった。

つまり実際には、UFOは信念の問題ではなく現実の問題であり、よく言われる決まり文句:「あなたはUFOを信じるか?」という問いはもはやナンセンスなのである。

アレクサンダー・ウェントは、「UFOタブーの起源は政治的なものである」と主張している。

すなわち、UFOについて論理的に話すことを妨げているのは、権威的な不安、つまりUFOの実在が現在の政府にとって何を意味するのかという、社会的無意識の脅威の表れであるという。

単純化すれば、脅威は三つある。

一つは、人間よりもはるかに優れた技術をもつ知的生物が実在し、それが地球を訪れているならば、現存の国家が国民を保護する能力が疑問視されるという脅威。

第二に、地球外生物の存在を承認すれば、現在のような領土国家を超越した世界政府の必要性に向けて大きな圧力がかけられるかもしれないという脅威。これは現存の主権国家のアイデンティティと基本的な構造を脅かすものである。

そして第三に、最も重要なことは、地球外知性の可能性は、現代の人間中心主義の本質に疑問を投げかける。これは、世界において人間だけが自らの集団的運命を統治し、決定する能力と権限を持っているという前提を突き崩し、人間よりも強力な存在と考えられる「超人(神々)による支配」という先史の神話時代に引き戻されることになる。

これら三つの脅威により、近代国家は政治的存続のためにこの問題を政治的に明確にしないという態度を取らざるを得ず、現在の権威構造は現状の規律を維持するために「UFOタブー」を作り出す必要があるのだという。

UFOは、その本質的な危険性のために、深い無意識の不安を生み出す。この点で、UFOタブーは精神分析における否認もしくは防衛機能に類似する働きを持つ(ユングはUFOを集合的無意識の所産と考えたが、UFOの実在を認める立場からはむしろフロイト的否認と考えるのが適切であろう)。統治者は現状維持のためにUFOの存在を抑圧し、無視し、そこから目を逸らす以外の選択肢を持たない。

上記のことは政治的な領域に限られず、科学の分野あるいはメディアにおいてもあてはまるだろうし、個人のレベルにおいても、UFOの概念全体に対する奇妙な不快感、つまりUFOが本質的に示す問題を自動的かつ本能的に忌避する傾向ははっきりとみられる。

次回は、このような「UFOタブー」の問題に対してどのように取り組むことが必要なのか、あるいはどのような態度が望ましいのかを検討する。


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