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「リアル・ストーリー」閑話休題(パソフ博士による磁力計実験の記述)

ここで再び、実験者ハル・パソフ博士自身の回想による、インゴ・スワンの「磁力計実験」の描写を掲載する(「Mind Reach」(邦訳『マインド・リーチ : あなたにも超能力がある』ラッセル・ターグ, ハロルド・パソフ 著, 猪股修二 訳、集英社、1978)。

(以下パソフ博士の文章)

6月にやってくることになったスワンを迎える準備として、私はスタンフォード大学のさまざまな物理学者たちと、絶対零度近くの超低温で作動する実験装置について、精力的な話し合いを行った。このようなタイプの装置が、意識が物質に及ぼす現象を研究するためには最適だろうと思ったからだ。

いくつかの超伝導、超流動に関する実験装置が私の目的にかなったが、その中で実際に実験可能なのは一つだけだった。それは地磁気の百万分の一の磁場を測定できる、きわめて精密な超伝導磁力計であった。もともとこの計器は、物質の最も基本的な要素であると考えられるクォークを検出する装置の一部なのだが、私はその実験を担当しているアーサー・ハバード博士から、時々使わせてもらう許可を得ることができた。

6月6日、インゴがその日の計画を尋ねたので、私は注意深く言葉を選びながら、われわれは「クォーク検出装置」として知られた、よく遮蔽された装置があるスタンフォード大学のヴァリアン物理研究所へ行くのだ、と告げた。

クォークとは何か? 最近までは陽子のような核粒子が素粒子と考えられていたが、ある物理学者によってクォークと呼ばれるさらに小さな粒子から成り立っていると考えられるようになり、いくつかの研究機関が自然界における自由クォーク粒子の発見につとめているのだ。

私は、実験における環境の意外性を保つため、それ以上装置の詳細を説明しないように留意した。これは、未知の環境から情報を知り得るという彼の能力を測りたいからでもあった。同時に、それ以前のインスタント学習で読んだ本は、新鮮な予期せざる環境は、えてしてサイキック機能に良い影響を及ぼし、良好な超常現象をたびたび発生させる条件である、と教えていたからでもある。

われわれはヴァリアン物理研究所の地階に到着し、人間と磁力計の結合が可能かどうかを実験してみることにした。ハバード博士は全体のプロセスについては懐疑的であったが、われわれを歓迎し、喜んで実験に立ち会ってくれた。さらにスタンフォード大学線型加速器センターの物理学者マーチン・リー博士と関心を抱く同僚たちが加わった。

このビルの地下室の中に据えられた、小さな磁気検出装置に作用を及ぼすことを要求されているのだと知って、インゴは幾分ショックを受け、不安になったようだ。なにしろその装置ときたら、高伝導率金属、アルミニウム、銅で遮蔽されたうえ、いままで知られるうちで最もすぐれた遮蔽材料である超伝導物質によって遮蔽されているのだから。(図5)

後でインゴが打ち明けた話では、多分この時のショックが彼をして、意識の変化状態に導き、次に述べるような良い成果を上げることができたのだろう、ということだった。

さて、実験の前に、磁力計の内部に減衰磁場が加えられた。これはチャート・レコーダーの上に正弦波として記録される基底校正信号(キャリブリーダ)となっている。(図6)

システムは一時間以上も雑音なしで作動していて、周期的な振動(オツシレーション)はチャート・レコーダーによって安定したパターンとして記録されていた。

インゴはその装置を見せられ、もし彼が磁力計の内部に影響を及ぼすことができたら、それは出力波形の変化として表されることを告げられた。

彼自身の表現によると、その時、彼は「精神を磁力計の内部に集中」させた。

その瞬間から約5秒後、振動の周波数は30秒間にわたって2倍となり(図6)のAで示される記録を残した。

ハバード博士は仰天した。なぜなら、この装置を有名にしているのは、外部からの影響を絶対的に排除するという性能であり、ハバードの研究はこの装置がうまく作動するか否かにかかっていたのだ。

もっと素直な解釈は、磁場が期待されている周波数の二倍の周波数で減衰しているということだ。だが、サイコキネシス(PK)を他人の装置を使って行ったときはいつも聞かされる言葉を吐いてハバードは平常心を取り戻した。

「多分、装置が故障したんだろう」

おまけに、こうつけ加えたものだ。

「もしインゴが磁場の変化をすっかり止めてしまったら、もっとすごいだろうに」

(サイコキネシスの実験に立ち会った人間は、最初の実験でいかに奇蹟的なことを見たとしても、「これは非常に興味深い。しかし、私が本当にやってほしいのは・・・」と言うものだ)

「やってみよう」

インゴはそう言った。5秒しないうちに、グラフのBで示されるように約45秒間にわたって、彼は磁場の変化を止めてしまったのだ!

最後に「もう駄目だ」と言って努力をやめた。その時、出力波形は正常Cに戻った。

われわれは彼に、どのようにしてそれをやったのか聞いてみた。というのも、彼は装置の複雑な内部機構を操作するのはもちろん、磁場分布についても全く知らないはずだからだ。

彼の説明は、かえってわれわれを当惑させた。彼は、直接に装置内部の映像を見て、いろいろな部分を観察することが、これらの結果を生み出したのだと説明した。それを証明するために彼は自分の「見た」内部の図面をグラフの上にスケッチし、実際そこにあった金の合金板についても言及した。その存在は、それまでの話し合いの中では一言も触れていなかったのだ!

彼が説明しているうちに(図6)のD、Eに示されるように、さらに不規則な擾乱が発生した。

それが、装置が実際にノイズを発生しているのか、それとも単なる偶然の一致かを確かめるため、私はインゴに、装置のことを考えるのをやめさせ、話題を別のことに移した。すると、その期間中は正常なパターンが数分続いた。(図6の下の曲線部分)

しかし、再びわれわれが磁力計のことについて議論すると、出力波形は、Fのようにまた高い周波数パターンに戻ったのだ。

インゴは疲れたと言い、われわれは実験を中止して昼食にすることにした。

出がけに、私はハバード博士に、装置が誤作動したのかどうか確認するため、連続して装置を監視して、記録を取り続けてくれるように頼んでおいた。彼は承知し、その結果、装置は一時間以上にわたってノイズも不規則な動作も示すことなく動き続けた。(図7)

このグラフの上の二本の波形は、実験が終わった後も引き続き行われた記録で、三番目の波形はそれからしばらくたって得られたものである。

正直なところ、私はこのようにすぐれた遮蔽がほどこされた装置で、こんな良好な結果が得られるとは期待していなかったので、二重三重の記録装置を用意していなかった。

そのために、実験が終わった後で私は、その効果が検出器本体で起こったのか、電子回路で起こったのか、はたまた記録装置で発生したのかを客観的に判定する方法がないことに気づいたのである。

インゴの説明は、その効果は本当に起こったという状況証拠を提出している。しかし、事が終わった後では、その客観性を確認する方法はないのだ――

われわれは、次の日にもう一度装置を試してみようとしたが、磁力計は狂っていて、校正のための安定したバックグラウンド信号を得ることができなかった。そのせいで、インゴが試みても、明白な効果は上げられなかった。

これはいかなる意味でも、前日の結果に疑いを投げかけるものではない。というのも、前日の装置の混乱はインゴの活動に関連して起こったもので、それ以外の時点では安定していたのだから。

しかしながら、それはやっぱり落胆的なことであった。これらの結果の追試は、さらに徹底した実験のためにわれわれ自身の装置ができる一年後まで待たねばならなかったし、他の研究所で別の独立した追試を行うには二年もかかったのだから。

この時、私は物理的攪乱作用の原因をあくまでも突き止めたい欲求と、もう一方では、遮蔽された物体を「見る」という明白なインゴの能力によって与えられた興奮との間に引き裂かれていた。

物理的作用の方について言えば、たいていの量子力学の理論家なら知っている効果を実験室の条件下で検討する機会を与えるものである――すなわち、システムの観測はそのシステム自体に攪乱を与え、ある条件では意識が重要な役割を果たすということである。

インゴの示した第二の現象の方は研究しやすそうなものであったので、私はこの方向を選ぶことにした。

(以下略)

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