インゴ・スワン「リアル・ストーリー」閑話休題(ハル・パソフから見たインゴ・スワン)
ここでいったん視点を移して、スタンフォード研究所にインゴ・スワンを迎えたハロルド・パソフ博士による回想を挿入したい。
これは『マインド・リーチ : あなたにも超能力がある』(ラッセル・ターグとの共著、猪股修二 訳、集英社、1978)の第2章に書かれているもので、国会図書館デジタルコレクションで読むことができる。
(以下ハル・パソフによる回想より)
私が職業的に超常現象へのかかわりを持つようになったのは、1972年からである。その年、私のためにレーザーの特許を扱ってくれたリサーチ・コーポレーション社に、私は量子生物学の基礎研究に関する計画案を提出した。
その提案の前書きの部分で、現在の物理学理論は生命過程(ライフ・プロセス)を説明し得るかどうか、という問題を提起した。さらにその中で、この問題を解明するのに光明を与えてくれるかもしれない研究分野(植物と下等生物の測定など)を示唆しておいた。
この計画案は広く配布され、コピーのうちの一通が、ニューヨークで嘘発見器を使って植物の電気的活動を測定していたクリーヴ・バックスターに送られた。
たまたま彼の研究室を訪れ、その計画案を目にとめたのが、ニューヨークに住んでいる芸術家、インゴ・スワンである。彼は1972年3月30日付の手紙を私に送ってきた。
その手紙の中でスワンは、ニューヨーク市立大学心理学科のガートルード・シュマイドラー博士と一緒にやったサイコキネシス研究における成功例について説明し、「私が関わったこのような実験こそ、生物と無生物の境界を明らかにする研究にふさわしいものだ」と、熱っぽい説得調で述べていた。
私の計画案は、その年、テキサス州サンアントニオにあるサイエンス・アンリミテッド・リサーチ財団によって採用され、資金を得ることができた。だが、その段階では、まだ特別に超心理学研究を目指していたわけではない。
にもかかわらず、私はインゴ・スワンを1週間SRIに招き、彼の能力が量子生物学の研究に役立つかどうか調べてみることにした。
(中略)
初めてインゴ・スワンという男に会ったのは、サンフランシスコ空港に出迎えた時だった。彼を見つけ出すための手がかりは、彼の顔つきと、しょっちゅう葉巻をくわえているということだけだったが、結局その後1年間というもの、その葉巻が私にくっついてどこにでもあるようになった。
それ以前に、サイキック能力者がどんな姿をしているという風に考えていたか、私には思い出せないが、会ってすぐに、インゴは私の先入観とは全然違っていることがわかった。
彼は大男で、すぐれたユーモアがあり、非常に考え深く、しかもよく話した。反発心を抱かせるような虚勢の代わりに、私は予想外の感受性を見出した。
われわれの会話はすぐに実験の詳細に立ち入り、「証明」のためには何が必要で何が必要でないのか、手を加えた誤ったデータや潜在意識下の暗示がサイキックの汚染を作り出さないように防備策をとるにはどうすればよいか、などを話し合った。私はすでに他の研究機関からの報告で、インゴが実験方法の落とし穴とかデータの誤った解釈を指摘して、明らかな成功を否定してしまう第一人者であることを知っていた。
(中略)
彼と一緒に研究した人々がよく知っているように、サイキック研究において彼が寄与したものは、被験者としての役割以上のものがある。彼は自分自身の主観的な体験についてはっきり語り、この現象を支配する法則を研究する共同研究者の役割をはたしてくれるのだ…(中略)
彼はわれわれが予期していなかった、高度な超常的機能をもたらしてくれたのみならず、迷路の中を走り回るネズミのような被験者のイメージとはかけ離れた、共同研究者、助力者の役割を果たしてくれたのだ。
彼は、われわれが行っている研究の、人間的側面の広さと深さに、計り知れない洞察をもたらして去って行ったのである。