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ホモ・サピエンスの勝利


関連年表

約7万年前:木製のが発明される
約6万年前:ホモ・サピエンスがアフリカの外へと進出。以後、後期旧石器時代に入る
約4万7000年前:ホモ・サピエンスがオーストラリアに進出(後のアボリジニ
約4万5000年前:ヨーロッパにクロマニョン人が出現
約4万年前:南レヴァントで細石器の使用が始まる
約4万年前:日本列島にホモ・サピエンスが進出
約3万7000年前:フランスのショーヴェ洞窟に洞穴絵画が残される
約3万5000年前:中国に新人の周口店上洞人が出現
約3万年前:ソロモン諸島までの地域に、ホモ・サピエンスが進出
約3万年前:ネアンデルタール人が消滅
約2万6500年前:メキシコのチキウイテ洞窟に人類の痕跡か
約1万8500年前:スペインのアルタミラで洞穴絵画が描かれる
約1万5500年前:フランスのラスコーに洞穴絵画が残される


◆約7万年前:木製の槍が発明される

 ホモ・サピエンスが誕生してからも、地球上にはホモ・サピエンス以外の多くの人類が存在していた。ジャワ原人に代表されるホモ・エレクトゥスや旧人である。しかし、地球環境は次第に過酷さを増していった。

 この頃、地球では寒冷化が進み、アフリカでは極端な乾燥化と温暖な気候が繰り返された。約7万5000年前にはスマトラのトバ山が大爆発、結果的に寒冷化が更に進む事態となった。こうした気候変動は環境に十分に適応できない「古い」人類を滅ぼしていった。ジャワ原人は絶滅し、ネアンデルタール人以外の旧人も消滅した。こうして、地球上で覇権を握る人類として、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの2者が残された。

 まず最初に抜きん出たのはネアンデルタール人の方であった。およそ20万年前に、規格性のある剝片をつくる円盤技法(ルヴァロア技法)を習得したネアンデルタール人は中期旧石器時代の扉を開く。狩猟道具も発展させた彼らは主にヨーロッパで覇権を握った。

 一方のホモ・サピエンスも負けじと技術を発展させた。彼らが使用した石器製作技法が石刃技法である。この技法はルヴァロア技法よりも多くの剝片を生み出せた。

 こうした2種の人類が互いにしのぎを削っている中、生み出された新たな道具がである。当初の槍はもちろん金属製などではなく、木製であった。やがて石製の槍も生まれ、その先端に尖頭器をつけるなど殺傷力が高められていく。無論、こうした槍が人に向かって使われた証拠はない。しかし、ネアンデルタール人の遺体には槍で突かれた穴をもつものが見つかっており、ひょっとすると槍は対人殺傷用にも用いられたかもしれない。

上図:ルヴァロア技法で作られた尖頭器、槍先

出典:Wikipedia


◆約6万年前:ホモ・サピエンスがアフリカの外へと進出

 約6万年前、ホモ・サピエンスがアフリカの外へと本格的に進出を開始した。以前にもホモ・サピエンスはアフリカを飛び出したことはあったが、今回の進出でアフリカを出ていった人々が現生人類の祖先である。彼らは進出した地域で、石刃や骨角器などを大量に製作した。後の時代には細石器という極小の石器を開発し、槍・鎌の刃として用いている(後には矢にも用いた)。

上図:ホモ・サピエンスの進出

出典:『人類の起源』

上図:細石刃。細石器とは、細石刃を用いる石器を指す

出典:Wikipedia

 一方、この頃の人々はすでに領土意識や文化圏を形成していたという説もあり、それが確かならば争いも起こっていたであろう。


◆約4万5000年前:ヨーロッパにクロマニョン人が出現

 ホモ・サピエンスは世界各地に広がり、オーストラリアや日本列島にまで到達した。その頃のヨーロッパではクロマニョン人と後に呼ばれる人類が独自の文化を創出する(約4万5000年前)。その代表例が洞穴絵画で、彼らの文化的な能力の高さをうかがわせるものである。

上図:著名な洞穴絵画の一つである、ラスコーの洞穴絵画(約1万5500年前)

出典:Wikipedia

 一方、クロマニョン人の特徴は高度な文化だけではない。新たな武器として、彼らは槍投げ器を開発した。この道具は槍の根元をひっかけ、槍を遠くに飛ばす棒のことで、飛距離は腕だけで投げる場合に比べて2~3倍となった。彼らは狩猟に関しても確かな技術を持っていたようである。

 しかし前述したように、この時代に領土意識を人々が持っていたとするならば、先住のネアンデルタール人とは諍いがあったかもしれない。ネアンデルタール人はホモ・サピエンスの技術を真似た形跡があるが、果たしてこの2種の関わりが平和的なものだけであったかは分からない。


◆約3万年前:ネアンデルタール人が消滅

 ホモ・サピエンス以外の種が次々と絶滅していくなか、ネアンデルタール人はかなり長い期間にわたってヨーロッパなどを中心に繁栄し続けた。しかし、そのネアンデルタール人にも絶滅の時がやってきた。およそ3万年前のことである。

 絶滅の原因は例によって定かでない。ホモ・サピエンスの遺伝子の方が生殖面では優秀であったとも、気候変動や疫病が原因とする説もある。一方で、ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を直接的に駆逐していった結果、彼らは消滅に追い込まれたとする説もある。

 無論、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが種の違いから常に互いを攻撃し合っていたわけではない。前述の通り、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスの技術を真似していたようであるし、現代の人類にもネアンデルタール人の遺伝子が残っていることから、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが色々な点で交流していたことは間違いないだろう。ただ、それも両者の関係を平和的と断定するには足らないのである。

 もし両者の間で戦争があったとするならば、ホモ・サピエンスは地域集団同士で結束してネアンデルタール人にあたったかもしれない。ホモ・サピエンスの集団で協力する力はかなり強力なものであったろう。しかし、両者とも罠を仕掛けたり、動物の群れを追い込むなどの狩猟技術は持っていたのだから、その戦いが熾烈を極めたであろうことは想像に難くない。

 まだ、ホモ・サピエンス以外の種は地球上に存在していたであろうが、もはやホモ・サピエンスにかなう種は存在しなかった。火という力で他の動物を圧倒した人類だが、ホモ・サピエンスはいまや「人類」というカテゴリーの中でも間違いなく、頂点に到達したのである。

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