恵比寿の紙より赤い色紙【#秋ピリカ応募】
「出雲の神より恵比寿の紙」
恋愛に興味はない。愛よりお金。
フルメイクで細身のスーツを着こなし、7センチのピンヒールで闊歩すれば、誰もが振り返る。気が強く論破するのが私の魅力。仕事が恋人。そもそも自分より能力の低い男に興味などない。
製薬会社のMRとして働く私は、この日、総合病院の小児科に来ていた。
医局を出て歩き出すと、ぐしゃりと何かを踏み潰した感触。足元を見ると赤い色紙の紙風船……と、それを拾おうとする5歳くらいの男児。
『良かった。危うく手を踏むところだった』
「ボク……大丈夫?」と声を掛け終わらないうちに、男児が泣き出した。周りの視線が一同に注がれる。その声を聞きつけた病院保育士らしき男性が慌てて出てきた。
「ルイ君どうしたの? あっ……潰れちゃったのか」
「ごめんなさい。私、下を見てなくて」
男児は泣き続けた。正直、『高々、紙風船ごときでそんなに泣くなよ』と思っていた。
「ルイ君……折り紙が苦手で毎日練習してて。今日漸く完成したところだったんです。……だからちょっと悲しくなったんだよなっ! さ、今日は怪獣の折り方教えちゃおっかなぁ!」
そう宥めると、男児の頭をぐしゃぐしゃっと撫で、私に一礼して、向かいの部屋に帰っていった。
『ひだまり』と書かれたその部屋からは「のり先生」と呼ばれるその男性と子ども達の太陽のような笑い声が漏れ聞こえていた。
のり先生は、背が低く穏やかで癒し系。収入も低そう。私が一番苦手とする人種……のはずだった。後味の悪さを残したまま去る。
借りを作るのが嫌いな私は、その日のうちに色紙を購入し、PCで折り方を検索して、紙風船と手裏剣を折った。不器用な私は何度も折り直した。
数日後、私はひだまりの前で佇んでいた。のり先生が出てくる。
「あの時の……。どうされました?」
「これ、お詫びに渡したくて」
折り紙を差し出す。
あの時の男児が出て来た。
「お姉ちゃん、へったくそだな。折り方教えてやろうか」
「なによ。いいわ。教えてもらおうじゃない」
柄にもなく子どもの誘いに乗ろうとすると、のり先生に止められた。
「あの、申し訳ないけど……部屋には入らないでください。ここは病院です。あなたのその靴も香水も相応しくない」
厳しい顔でそう言うと踵を返し、満面の笑みで子どもの元に戻った。
何も返せず立ち尽くす私は、これまでにない蠢く感情をどう処理していいかわからなかった。
拒絶されたことに怒りを覚えた?
……いや、悲しかったのだ。
やはり苦手な人種だ。
帰り道、なぜだか涙が溢れた。
数日後、私は再びひだまりのドアを叩いた。
薄化粧にスニーカー。香水なし。
「また来たんですか?」
「紙風船の折り方を教えて欲しいの」
少し困惑した顔で、それでも子どもに向ける10分の1程の笑顔が向けられた。心臓が跳ね上がる。
「今日は鎧を纏っていないようですね。どうぞ。子どもには優しくね」
私はひだまりのように笑った。
「恵比寿の紙より赤い色紙」
(1200字)
了
※参照
☆『秋ピリカグランプリ2024』に挑戦してみました♪
よろしくお願いします♪
■テーマ 「紙」
■タイトル 自由
■文字数800字~1200字(厳守)※noteのテキストでのカウントでお願いします。(ルビは文字数には含みません)
■募集期間10月4日(金)0時~10月9日(水)23時59分
■作品中に、「紙」の文字がはいっていること、かつ作品のテーマになっていること。
■物語であること(エッセイは不可)。
■文末に文字数を明記すること。
■物語のジャンルは問いません。
■ハッシュタグは、「#秋ピリカ応募」
■お1人様1作品のエントリーでお願いいたします。
■締切時刻経過後は、文章の修正はご遠慮ください。(明らかな誤字の訂正は除く)