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カタクリの椅子:0133




 子どもの頃、父が作ってくれた椅子にカタクリを描いた。

 この椅子は手前の座面より左右の板が短い。足を開いて横に下ろす馬の鞍にまたがるように座れるよう設計してある。幼い僕が、足を前に下ろして座ることができなかったから、こうした作りになった。

 僕は、生まれた時の股関節の成長が遅く、生育性股関節形成不全という診断を受けた。

 この病気は、診断された時にひどく苦しむわけではないのだけど、股関節がうまく育たないと、脚の付け根の軟骨などがすり減ってひどく痛んだり、場合によっては歩けなくなる。

 無事に大腿骨を成長させる為、リーメンビューゲルという吊りバンドを装着しなくてはいけなくなった。
ギブスよりはある程度自由に動かせるが、歩いたり走ったりはできない。立ち歩きができるようになってから発覚した為、自由に歩けない状況が苦しかった。


 リーメンビューゲル自体は当時の治療として必要不可欠だったが、かなり悪目立ちする器具でもあった。知らない人が見てもただごとでない様子の子どもだというのがわかった。
 熱心に子どもの写真を残してくれる家だったが、この時期の写真は一枚も残ってない。

 この椅子だけ、ずっと残されていて、今年カタクリの花を描いてみた。

 カタクリは10年経たないと花が咲かない。
 もう記憶も朧げになっている。
 桃色の花がそよそよと風に揺れても、もはやなにも思い出さない。
 時折、子どもの僕がお馬さん座りで椅子に座ってるのをうっすら見るが、それも記憶でなくて、大人の僕が作った幻の追憶なのだろう。
 

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