街隅(まちかど)いつか日はまたいずれ

 雅授かる目をもとひるぎ。庭に差したる日の光が網膜揺らして朝顔が咲く。数字の彩り二、三本の手長き雫飴のけささぎについこの間が、まるで嘘のように、でも嘘だったらよかったのにと悔しさを混じらせながら地に住まう鯉の声に耳を澄ませられる喜びが一息の時だけ極楽を感じさせてくれた。

 無情無双に無関心感心しないな地獄繋がれしきつく縛られた鎖が天から伸びて、その巻きつきがこちらに来ないよう思うも瞬時に思い直して、暮れ方の朝雫の存在たる今のいななきに目を閉じて昼顔の姿を想像しフッと笑い、笑い慣れていないその素顔は特段めずらしくも何もないのだが、苛立つ住まいにまいまいかたつむりのマイペースさが骨身に染みてそして、盛大に雨が降り始めた。

 鯉の声がきこえなくなった。雨が一斉に張り上げてさざめに泣く。鳴く鶯の居所を雨が抱えてまで、その場に留まりとうない。

 塔台にて書き付けの日記が無風なのに、パサリと1ページ未来へと進む。チラホラと宙に舞うホコリが躊躇なく紙上に降りていっては叫ぶ声を持たぬ日記はひたすら主(い)き待つ。何気にのんきで忘れっぽくて勝手気儘な主(あるじ)だから、次はいつ来るだろうと待つ日記も日記で変わっている奴だけれど、誰も見ることなしに書かれる紙面に咲く笑顔の先には、いつも複雑そうに笑う主の静かな吐息の色合いにいつも騙されるというか仕方ないよなといつまでも、その姿を、見つめていたくなる。

 傷みかけた紙をなぞる筆のささやきを記憶の中から呼び起こしては夢から醒め、誰もいない塔台たる現実に引き戻されるたびに無風の風が吹く。痺れる雨脚に思う存分力を込める。でも、痺れているのがやっとでいつまでもいつまでも過去が満つるこの空間に、他力本願なのか、それとも自らの意志がそうさせているのか分からないが、真っ白のページに今日も燦々と光が降り注いで待つのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?