京都SUSHI劇場
2018年11月19日。京都に一つの劇場がオープンしたことは知っているだろうか。
その名も「京都SUSHI劇場」
言わずと知れたプロデューサー、秋元康氏がプロデュースを手掛けたエンタメ劇場だ。場所は、京都は岡崎、平安神宮の隣に位置する商業施設「十二十二」(トニトニと読む)の2階にある。
演目は、いわゆるノンバーバルパフォーマンスの一つで、ダンスやアクロバットなどを中心に音響や照明をふんだんに使った、エンタメショーなのだ。
出演するキャストは、全国からオーディションで集めれた10代〜20代のパフォーマーたち。
そんな新しい「劇場」はロングラン公演を目的に作られたのだが、2019年2月22日をもって、「一旦」千秋楽を迎えることになった。
理由は公式フェイスブックや公式ツイッターなどをみるとわかると思うが、リニューアルのための休演だという。若き才能たちが全国から一同に集まり京都を盛り上げようと頑張ってきた中での突然の千秋楽。
キャストたちの失望はいかほどだろうかと想像に難くない。
そもそも、この京都SUSHI劇場の存在自体、知られていたのだろうか?
オープンの時、プレスリリースはあったし、京都市長や秋元氏の会見も行われた。しかしながら、集客は芳しくなく、劇場が入っているトニトニおよびその周辺のお店やその他施設はおろか、各種メディア、各種広告での存在が全く見られなかった。これは、メディアに強いと言われる秋元氏が関わっている事業としては、甚だ疑問が残る。
問題点はいくつかあろうが、大きくは2つ。一つは、チケット代の高さだ。訪日外国人など観光客を目当てに作られたこの劇場は、ひと公演2時間で8000円という高額チケット。さらに、チケット販売は、ローソンチケットとEMTGという聞きなれないネットチケットのみ。だからといって、ローソンチケットのプレイガイドでは広告を見たことがなかったし、値段にシビアな関西圏で8000円で勝負しようというのが、そもそも無理があったのではないだろうか。
やり方として、割引制度やどこかの施設や団体とのコラボ企画なども考えられたのであろうが、そうした動きも全く見えなかった。
そして、もう一つは、「東京資本」の限界と、観光客(訪日も含む)に対する商売への限界。
現地の劇場集客はちゃんとリサーチしていたのだろうか?あの場所でやることにチケット代金は適正だったのか。8000円という高額チケットを果たして観光客が買うだろうか?裕福な観光客ばかりではないのだ。そうした劇場マーケティングはできていたのだろうか?そうした疑念がどうしても浮かんできてしまうのだ。
そもそも劇場運営というものは、「地域に根ざした存在」であり、そこに住んでいる人たちとの信頼関係があってなりたつ「文化」なのだ。この劇場のコンセプトとして、京都から新しい文化を、新しいスターを育てたいだったのだが、本当にそうしたコンセプトのもと、動いていたのかが全く見えなかったように思う。
今までになかった「劇場」のタイプだからこそ、「どうだ!新しいだろう!だから見ろ!」というような押し付けがましい運営ではダメなのだ。今までにない劇場だからこそ、地元に対して、丁寧に運営しなければならないのである。
今、京都の観光産業は、頭打ちにきている。
観光客にむけて乱立するホテルその他施設は、長い目で見て、もともとが持っている京都の良いところをなくしているように思う。観光客に頼るまちづくりは、総じて早晩、破綻する。
京都は県民性として、新しいものが好きだ。しかし、同時に保守的でもある。
自分たちの生活や文化がしっかりと担保されてこそ、新しい文化を受け入れることを許す県民性なのだ。そうやって、京都は長い間、日本の、否、世界の観光地の一つとして成長してきたのだ。
そうしたことも踏まえて、改めて、この新しくできた「京都SUSHI劇場」の運営をしていってもらいたい。
ただ、誤解のないように言っておくが、私がこの劇場を否定はしていない。むしろ、最大限応援しているし、公演していた「寿司は別腹」という演目は、とても素晴らしい内容だった。そして、これからも公演してほしいと思える内容だったし、出演している若いキャストたちのためのにも、支えていきたいと思っている。
これからいつ、再開されるかわからないが、京都の新しい文化を担う一つとして、再スタートを切ってほしいものである。