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流し目が女性の心をつかんだ経緯を考えました。杉良太郎さん「おもいでの神戸」②
杉良太郎さんという芸人に興味が尽きない。
著書「媚(こ)びない力」(NHK出版新書、2014年)を買って読んだ。読み応えがあった。
ユーチューブ上に、歌や舞台、テレビ番組(大部分が時代劇)の諸場面を紹介する動画が多数アップされており、詳しく眺めた。楽しかった。
歌い方が面白い。
こぶし、しゃくり、ビブラート、巻き舌、
声を鼻に抜けさせる技、ため……。
演歌系の歌唱テクニックが総動員されている。いわばテクニックのてんこ盛りなのだが、不思議にしつこさを通りぬけ、それが心地よい。
杉良太郎さんの声質は、どちらかというと特徴が薄い。まあなんというか、どこかで聞いたような…。
(10小節聞けば、誰が歌っているか分かる、例えば森進一さん、杉田二郎さん、徳永英明さん、尾崎紀世彦さん…さんなどど比べると声そのものの訴求力が足りない。人は人生で初めて触れたものに金を出しやすいからネ。
歌手デビューから10年ほど、キャンペーンを重ねてもパッとしなかったのはこのありふれた声質にもよる、と思う。
しかし。しかしだ。それでは終わらなかった。
◇
捨て身で根性を発揮。歌唱のテクニックを総動員して、客の心に向かった。
そこで芸人人生が好転した。(舞台や映画との相乗効果も大きいけどネ)
とくに舞台での歌唱に迫力がある。
ときに伴奏を離れ、拍節を無視するかのような流れをあえて作り出す。
(拍節の軽視には周囲からの批判があったようだが)
私は好きだ。
それらは、ワンマンショーに足を運んで来ているお客さんたちへの練達のサービスだと思う。
崩して歌う。そしてお客さんの反応を見る。悪ければ楽譜に戻る。良ければ、さらにアレンジを加える。
そんな繰り返しで、歌謡ステージを一層金の取れる内容に仕上げて行ったのではないか。
プロの芸人は「上手」とか「正統性」とかが評論・評価されても始まらない。
目の前のお客さん(杉良太郎さんの場合は多くが中高年の女性)の心身を、官能的に揺り動かし、ひたすら気持よくさせることが大事である。
一期一会のお色気作戦。
ショーが終わり、出口で次回公演のチケットを買ってもらえるかどうか。そこが勝負である。
杉良太郎さんは、さまざまな工夫を重ね、生き馬の目を抜くようにして、各劇場を満杯にしてきたのだろう。
歌や演劇での〝流し目〟もそのひとつ。
いいねえ。
(続く)