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圧倒的なハレ料理「南部伝承膳」
先日、来月から始まるえんぶりに合わせて2/1より期間限定で提供される「旬のあんこうと南部伝承膳」の試食会にお招きいただきました。
「南部伝承膳」は、古くから南部地方でハレの日に食されてきた御膳料理がアレンジしたもの。八戸市内の飲食店で組織される「八戸日本料理業芽生会」による企画だそうです。
会場は、割烹銀波さん。
エントランスや店内のしつらえから、おもてなしの心が細やかに感じられます。
(久しぶりにこういうお店に来たので緊張しました…)
さて、先付けにあたるのがこの「九盃盛り」。
津軽塗の御膳に、古くから南部地方でハレの日に食べられてきた郷土料理が9枚の酒盃に美しく盛られています。
あぁ、、もう、、目でおいしい…
これが、日本の料理に込められたおもてなし。
映え、という言葉では片付けてはいけない美しさです。
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苦手だった南部の郷土料理
鮫の生酢やあんこうの肝、にしんの菜花和えなど、かつては少し苦手だった料理が並びます。
八戸市は港町なので海の幸を味わえる料理が多いのですが、幼い頃は少し生臭さや舌触りが気になった記憶があります。
「赤はたもち」は特に苦手でした。
赤はたという海藻を蒸してすりつぶし冷やし固めたものですが、生臭さとネッチャネッチャした粘りがどうも馴染めなかったのです。
しかし、今回の九盃盛りに並ぶ料理は、一つひとつていねいに仕上げられていて、生臭さが全くなく、舌触りも滑らか。
それどころかどれも滋味深く、一口一口の美味しさが口の中に広がってお酒も進みます。
割烹銀波の店主によると、どの料理も時間をかけて、慎重かつていねいに作り上げているとのこと。
鮫の生酢がこんなにさわやかでおいしいなんて
なまこがこんなに柔らかいものだったなんて
赤はたもちがこんなに歯ざわりよく仕上がるなんて…
一枚ずつ皿が空くたび、「時間よ止まれ!」と心の中で祈っていました。
ずっと味わっていたい……。
(あぁ、いつも心に九盃盛りを)
止まらない銀波さんの本気
この九盃盛りだけでお酒もすすみかなり満足なのですが、そこからお造り、あんこう鍋、強肴としてローストビーフ、おそば、デザートと続きました。
さて、今回のメインの一つでもある、「どぶ汁風鮟鱇鍋」。
「どぶ汁」とは、あんこうの水分だけで作られた漁師鍋のことだそうです。
余分な水分を加えないため水分が多い野菜は一切使わず、あんこうの濃厚な旨味がぎゅっと染み込んで柔らかくなった切り干し大根が入っています。
濃厚でありながら、まったくしつこさを感じさせないこの鮟鱇鍋。
もし誰も見ていなかったら、最後の一滴まで飲み干していたことでしょう……。
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最後の食事は、南部芹そば。
おつゆのだしは、深みがありながらもやさしい味わい。
このおだしこそ、銀波さんの真髄と言えるでしょう。
お腹がいっぱいのはずなのに、芹のさわやかさのおかげでつるつると食べ進めてしまいました。いや、進まさった。
あぁ、体に染み渡る……
もし誰も見ていなかったら、最後の一滴まで飲み干していたことでしょう。
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興味深い八戸の食文化
試食会では料理長や他の参加者さん方から、八戸の食文化についても興味深いお話をたくさんお伺いすることができました。
2月の雪深い時期に、その年の豊作を願う郷土芸能、えんぶり。
いくら体を動かしていても氷点下の寒さでは体が温まりません。
そこでそれぞれの組の屯所では「干し菜汁」が作られ、体を温めるそうです。
(組ごとの干し菜汁、食べてみたい!)
また鮫の生酢は、えんぶりの時期にいただくごちそうだそう。
昔は「あ〜この鮫ぁくるみ味っこぁするじゃぁ」とよく言っていたそうです。
このお話をお伺いした後に鮫の生酢をいただきましたが、もちろんくるみの味はしません。
「くるみ味」というのは、「最高に美味しいもの」という意味の南部弁だそう。
ヤマセなど冷害の影響で米が十分に収穫できなかった南部地方では、くるみが貴重な栄養源であり、最高のごちそうだったそうです。
そのため、「美味しいもの=くるみ味」という表現が生まれたとのこと。
くるみに砂糖を加えて甘くしたくるみだれは、当時最高に贅沢なごちそうだったそうです。
(くるみだれのお餅、大好きです!)
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地元のお酒「八仙」なども楽しみながら、心もお腹も大満足の夜。
八戸の食が美味しいのはいわずもがななんですが、こうした料理を通じて八戸に住んでいることが誇らしく感じられる瞬間をいただけたことが、本当にありがたい時間でした。
「旬のあんこうと南部伝承膳」の詳細
今回は、割烹銀波さんの南部伝承膳をいただきましたが、南部伝承膳は8店舗11種類のコースがいただけるそうです。
期間は2/1〜28、二日前までの予約が必要です。
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えんぶりを見に八戸を訪れる方に楽しんでいただきたいのはもちろんなんですが、これは地元の人にもぜひ味わっていただきたい!と、強く思います。
今は御膳でお料理をいただく機会がなくなり、小さい頃に祖父母の家やなどでいただいた、うっすらとした記憶しかありません。
しかも幼かったゆえ、とても美味しいと思った記憶もない。
しかし大人になった今、地元の料理がこんなにも美味しいものだったのかと改めて実感。
御膳でおいしいお料理をいただくこの体験、八戸に帰ってきてよかったと心から思える、圧倒的ハレ料理でした。
割烹金剛さんでは、えんぶりと料理を一緒に楽しめるイベントもあるそうです。
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また今回はえんぶりに合わせてあんこうが取り上げられていますが、四季に合わせてさまざま企画していくそうです。
楽しみすぎます。
おもてなしを"される体験"が、自分を豊かにする
おいしいお酒や料理を味わうこと自体も素晴らしい経験ですが、若い方々にはぜひ、一流のお店でのサービスを体験していただきたいと思うのです。
目で楽しむ美しい盛り付け、洗練されたエントランスや店内のしつらえ、心のこもった接客、絶妙なタイミングでの配膳、仲居さんのさりげない心配り──。
大切な人との大切な時間を、一緒に尊重してもらえる、そんなおもてなしのひととき。
私は東京のメディア制作会社で働いていた頃、某ホテルチェーンの案件を担当しており、全国のホテルや施設を取材しました。
さらにおもてなしや接客について特集を組んだり勉強会を企画したりと、接客業に関して多くのことを学ばせていただきました。
高級レストランや料亭の作法に不安があったため、恥をかかないよう勉強して臨みましたが、それでも間違えてしまうことはありました。
しかし、一流のお店では、私が恥をかかないようさりげなくフォローしてくださるのです。
店側はお客さまが貴重な時間とお金を使ってくださることへの感謝を、サービスを受ける側は自分を大切に扱ってくださるお店への敬意を、それぞれ持つ。これら両者の思いが交わるとき、おもてなしが最大限に発揮され、互いの心が満たされるのだと思っています。
この「自分を大切にしていただける」という体験を、特に若い方々、なかでも商売に携わる方々にしていただきたい。
そして、その感覚を他者へのおもてなしに還元する基盤にしてほしいのです。
今回の会場となった割烹銀波さんや割烹金剛さんは、居酒屋のように気軽に行けるお店ではありません。
以前はこういったお店には上司や先輩に連れて行ってもらい、その経験を後輩に受け継ぐという文化がありました。
私もそうやって先輩方から、社会人としての力や人生経験を少しずつ増やしてもらえたんだと思っています。
近年では、仕事以外で職場の人と食事を共にすることが敬遠される風潮もありますが、他者の介入によって人生経験を積みあげることができる機会でもあるのです。
このような体験が再び循環し、広がっていくと良いなと思います。
私も憧れのお店で大切な誰かをもてなせる、または若い方々に経験を提供できる大人でありたいとも、思いを新たにしました。
憧れがあると、お仕事をがんばるモチベーションにもなります。
今回はこのような貴重な機会をいただけたことに感謝し、明日からのお仕事の活かしていきたいと思います。