上京してからの1ヶ月

季節は移り変わって秋に。
家を出る時に「半袖だと少し寒いかな」と思えることに幸せを感じる。

金木犀の匂いを感じられない秋は初めてだ。
バスの排気ガスが舞うばかりで、この街に趣なんてあったものじゃない。

金木犀のない秋なんて、認められない。

＊　＊　＊

歌舞伎町でバイトを始めた。
新宿駅は何度行っても上手に出れない。猫の看板から出たいのに。

大阪から履いてきていた靴が潰れてしまって、最寄駅のセカンドストリートでVANSの靴を買った。

少し大きい靴のサイズは、背伸びしている僕なのかもしれない。

＊　＊　＊

アイドルの笑顔が映る煌びやかな看板は、この街を嘲笑うかのようだ。

日付が変わる直前だというのに、新宿駅には人が溢れていて、福男の開催場所なのかと錯覚してしまう。

喧騒を極める列車の中で、伊坂幸太郎を開いた。

＊　＊　＊

一ヶ月ぶりに、金木犀のある街に帰る。
新幹線で帰れるようになりたいと思いながら、バスタ新宿へと歩を進めた。

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