フランスの苦しみ

■フランスの現状
 フランスでは黄色ベスト運動が半年近く続いている。労働者による政府に対するデモであり、格差社会が生み出した対立構造。政府に対する抗議は権利として必要だが、生産性悪化で自らを苦しめることになる。

■フランス政府の対策
 フランスは所得税の減税とフランス国立行政学院の閉鎖を表明。所得税の減税は良いとしても、フランス国立行政学院の閉鎖は疑わしい。フランス国立行政学院を簡単に言えば大学の大学院。それも博士課程に該当する。

 行政に関わる人材に高等教育を与え博士にする様な機関。各国から留学生を受け入れているので、国際的な協力関係を構築する外交面での意味も有る。

 だからフランス国立行政学院を閉鎖することは、フランスの頭脳を退化させる様なもの。さらに外交面でも外国との協力関係を減少させるので、長期的にはフランスに不利益になる。

■真逆の世界
 知識人を捨て去り労働者のための世界にした国が存在した。ポル・ポトはカンボジアで原始共産主義を徹底した。ポル・ポトはカンボジアから高等教育・中等教育を排除。学者もいなければ学問も無い・さらに科学すら否定する徹底した世界。

 労働者のための世界のはずが、高等教育・中等教育を否定したことで人材が生まれない。存在するのは暴力と恐怖のみ。農業を優先しても労働者だけでは国が成り立たない証明となった。

 生産する人・運ぶ人・売る人・修理する人・考える人・管理する人などが存在するから国が成り立つ。人間の能力は各自で異なるので、皆平等の能力を持っていない。これを無視した対立関係は自らを苦しめる。

■原点
 共和制と民主制には原点がある。これらの原点を維持する時は機能するが、忘れると機能しないことになる。

共和制の原点:職能区分
「祈る人」・「戦う人」・「耕す人」の様な中世までの分業社会が前提。共和制はそれぞれの代表が集まり協議して国家を運営するシステム。

 職業区分が増加し複数の職業を兼任すると社会における義務が重複する。義務の重複は責任区分が曖昧になり、最終的には無責任に発展する。逆に義務の重複が行われると独裁者を生み出す要因になる。こうなると共和制が成り立たない。

民主制の原点:共同体区分
個人の利益よりも全体の利益を優先した多数決が民主主義。しかし「多数決が民主主義」と認識すれば民主制は腐敗する。何故なら個人の利益が全体の利益にすり替えられ、多数派が正しいと認識する。その典型が衆愚政治か煽動政治。

■フランスの場合
 今のフランスは共和制。黄色ベスト運動は権利だけ要求し義務を果たさない者たち。こうなると共和制は成り立たない。政治家は義務の重複で責任が曖昧。今の政治家は無責任が多いから政治が混乱しているのでは?

 だがフランスに義務の重複を積極的に行う者が出れば、これは独裁者の誕生になる。共和制は独裁者生み出す土壌を持っているから、一歩間違えればフランスは独裁国家になる。

■見えない終息
 フランスの黄色ベスト運動は終わりが見えない。政府への要求だけで妥協点が無いのだ。フランス政府が要求を飲めば、次から次へと要求するだろう。つまり欲望を満たすだけの政治運動になる。これでは終わりが無い。

 世界が黄色ベスト運動に冷淡になれば、フランス政府は強引な鎮圧を実行する可能性が高い。そうでもしなければフランスの混乱を終わらすことはできない。

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上岡 龍次(うえおか りゅうじ)
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