米ソ冷戦と米中冷戦

■包囲される中国
 欧米による反中国活動が続いている。欧米は政治・経済・軍事で連合し、中国の外堀を埋めながら包囲の輪を狭めている。中国共産党によるウイグル人への人権弾圧を批判し、中国共産党が悪の流れを形成している。

 これに対して中国共産党は、法律を用いた反撃を表明した。法律論には法律論で反撃することは、見た目は良いが、公に中国共産党が態度を改めないことを宣伝した。中国共産党による世界への徹底抗戦を示すだけになった。

中国全人代常務委、「反外国制裁法案」可決-米制裁に対抗
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■過去の冷戦の中身
 過去の米ソの冷戦は、1945年から1989年とされるが、ソ連が崩壊した1991年とする者も居る。どちらにしても、冷戦とは直接軍隊同士が戦闘しないで、間接的な対立で覇権を争う世界。ソ連とアメリカの冷戦は終わったが、今では中国とアメリカの冷戦が始まっている。

国家関係の状態区分
協力・友好・融和・不和・緊張・対立・戦争

 冷戦は「不和・緊張・対立」で覇権を争う。過去の米ソの冷戦は、「核戦力の均衡(balance of power)を背景にした覇権の現状維持と現状打破の戦い」だった。当時のソ連とアメリカはイデオロギーを看板に掲げ、世界を東西に分けた。

 アメリカは世界の強国・覇者として君臨し、現状維持派のトップだった。国際社会の平和とは、強国に都合が良いルール。つまり、アメリカン・スタンダード=グローバル・スタンダードなのだ。

 第二次世界大戦の戦勝国として、西側陣営ではイギリス・フランスなどが存在。だがイギリスは戦争で国力が低下して、戦勝国だが覇権拡大・維持も難しくなった。フランスは戦勝国とは名ばかりで、支配下の状態が長く、アメリカ・イギリスのお陰で戦勝国側になっただけ。

 ソ連の頂点に君臨するのはロシア。ロシアは隣接する国を飲み込み強大な軍事力を手にする。ソ連の本家であるロシアは第二次世界大戦後に勝利するが、国力としてはアメリカに劣っていた。つまり、ロシアは現状打破派の頂点に堕ちていた。

 冷戦の中身は、現状維持派のアメリカと現状打破派のロシアの対立。だが自国だけで戦うのは都合が悪い。何故なら自国が直接交戦すれば、疲弊するのは自国だけ。仮に戦争に勝っても、他の国に強国の座を奪われる。そこで一番良いのは、仲間を増やして対抗することだ。

 世界は国ごとに思想・宗教・民族が異なるので、陣営を一つの枠の中に入れる必要に迫られた。そこで目を付けたのがイデオロギー。イデオロギーならば、民族・国境を超えることが可能。これで世界を東西に分ける冷戦の基準になった。

 アメリカの自由主義とソ連の共産主義は、覇権抗争の手段でしかなかった。だから冷戦時代には、米ソ両陣営ともに「民族主義」を否定し弾圧した。何故なら、陣営内で民族主義が強くなると、陣営を崩壊させる原因。

 イデオロギーは国家・民族の境界を越えるが、政治における権威を主権者である個人の総和にすると、人間の数が増加するほど権威の価値が低下する。多数決の原理は権威を低下させる。だからイデオロギーに権威は無い。

 結論から言えば、多民族国家を統一することは難しい。「民族+地域」の利益代表が寄り集まって多数決政治を行なえば、それぞれが民族の利益を主張して誰もが欲求不満になる。不平不満が蓄積されると、組織としての団結力が薄れて、最終的には空中分解する。実際にユーゴスラビアが典型例だが、当時の米ソが、「民族主義」を否定し弾圧した理由である。

■米中冷戦の土台
 米ソ冷戦はソ連の弱体化と崩壊で終焉した。ソ連の恐怖政治が低下すると、連邦所属の国から民族主義が復活。さらにソ連自体の経済が崩壊し、独自路線で生き残る道を選ぶ。こうなれば、政治・経済で劣るロシアは足手まとい。ロシアから離れ、自国優先で生きるのは当然。ロシアはソ連を維持することが不可能に成り、最終的には1991年で崩壊した。

 米ソ冷戦が終わると、両陣営から弾圧された民族主義が対等。冷戦終結後から、世界各地で民族紛争が一気に噴出している。世界は民族主義を放置し、自国優先で覇権拡大を求めた。長年冷戦は無かったが、中国の経済発展により、新たな冷戦として米中冷戦が始まった。

 中国の経済発展の原因は、アメリカが世界に押し付けたアメリカン・スタンダード=グローバル・スタンダード。本来はアメリカに都合が良いルールのグローバル・スタンダードだったのだが、皮肉なことに押し付けた国を有利にしていた。

 グローバル・スタンダードが普及すると、安い人件費で作られる安い商品が求められた。同じ品質ならば、安い商品を選ぶのは自然な流れ。中国は安い人件費を武器に、2000年代には世界の工場になることに成功した。

 グローバル・スタンダードを押し付けられた国は、逆にアメリカを市場に変えた。しかもアメリカから利益を奪うことになる。この事例は200年前のローマ帝国でも発生している。ローマ帝国は優れた文明と技術で隣接国を圧倒。ローマ帝国は支配した国を属州に変えると、ローマ製商品を売るだけではなく、先進技術を属州に渡していた。

 属州はローマ帝国の技術を習得すると、逆にローマ帝国に同じ品質で安い商品を売るようになった。ローマ帝国には世界から商品が集まると豪語したが、ローマ人の技術者を無職にしていた。

 中国は安い人件費で世界の工場に成長したが、中身は人権弾圧による富の簒奪だった。初期段階は中国人の安い人件費で富を得ていたが、2013年以後はウイグル人を使った強制労働による富の簒奪に変わっていた。

 中国共産党は伝統的な生活で生きるウイグル人をテロリストと認定し、強制収容所で働かせていた。これなら人件費ゼロで生産可能。必要なのは最低限の食事だけだから、ウイグル人を使い捨てにした富の簒奪が中国経済を支えた。

 今の中国は複数の国が集まった連邦制。だが中国共産党は、併合した国を省として扱うが、自治権の無い独裁を選んでいる。中国の自治区とは名ばかりで、自治権の無い奴隷としての生活を送っている。中国共産党が行っている方式は、米ソ冷戦で採用された民族主義の弾圧。一つの中国にするために、民族主義は邪魔だったのだ。だから中国共産党は、ウイグル人・チベット人。モンゴル人から民族主義を奪っている。

■民族主義と人権を武器に
 米ソ冷戦時代のアメリカは、民族主義を弾圧していた。だが冷戦後は民族主義と人権を武器に中国共産党と対立を選んでいる。これは中国共産党が覇権拡大を選び、しかも現状打破派としてアメリカに挑んだことが原因。

 中国共産党は中国を虐めていると発言しても、中国共産党がアメリカを打倒して次の強国になろうとしたことが原因。つまり、中国共産党が強国になることを諦めたら終わる話。だからアメリカは、仲間を集めて連合軍を日本に集め、経済で中国を包囲している。

 今の中国共産党は、ウイグル人への強制労働による富の簒奪で批判されている。明らかに人権弾圧なので、世界は無視できない状態になったのだ。中国共産党が行っていることは、グローバル・スタンダードを悪い方向に導いた典型。

 グローバル・スタンダードは、世界から最も安い人件費を求め、同じ品質の商品を生産する。この段階で、生産する国の道徳・倫理に責任が有りアメリカには無い。生産する国の問題なのだが、中国共産党による人権弾圧は限界を超えていた。

 伝統的な生活をするだけでテロリスト認定し、強制労働による職業訓練を実行。これを隠れ蓑に、中国共産党は世界から富を得ていた。さすがの欧米も、中国共産党による人権弾圧を無視できなくなる。中国から富を奪われるだけではなく、国防にも中国共産党の支配が及んだから、欧米は中国共産党を敵視した。

 つまり、中国共産党が各国の国防に手を出さなければ、アメリカ主導の連合軍は生まれない。皮肉なことに、中国共産党自らアメリカ主導の連合軍を育成したと言える。だからアメリカには都合が良い話で、仮想敵国の中国が、率先して悪の国になってくれる。しかもアメリカを正義の国にしてくれる。

 今の中国共産党がしていることは、過去のアメリカが実行したこと。違いは、過去のアメリカの悪事を、中国共産党が凶悪に強化した。だからアメリカは困らない。過去のアメリカの悪事よりも強化されているなら、今のアメリカは正義を武器にできる。しかもウイグル人への人権弾圧を行う中国共産党を、正義を武器に潰せるのだ。そのためにアメリカは、連合軍を日本に集めている。今は米中冷戦だが、熱戦の序章なのだ。

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上岡 龍次(うえおか りゅうじ)
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