曜日を守ってゴミ捨てを  (古賀コン応募作・一時間で書く・テーマ「完璧な日曜日」)

 『日曜日にゴミ出しをする人がいます。ルールを守ってください』
エレベーターホール横の掲示板に貼紙されても、相変わらずその何階何号室の不届者が出したか知れない不透明な白いビニール袋は、日曜日になるといつの間にか決まってマンションのゴミ集積場所に置かれているのだった。業を煮やした管理人は我々自治会役員を集めて審議に諮り、その結果みんなでゴミ袋を開けてみることに決まった。今週の袋は小さい。結び目を解いてみると、中に入っていたのは新品らしきLED電球が二つ。
「ちょうど二階と五階の常夜灯が切れかかっています」と管理人が言うので、どうせ捨てられていたのだし、と試しに取替えてみたらきちんと点灯した。
 翌週の袋からは頑丈そうで大きなネットとビスが出てきた。折しもその時最上階の住人が「ベランダに飛んでくる鳩対策をしてほしい」と管理人に言いに来たので、居合わせた役員のうち建設業者の村上さんが赴いて取付けてみたところ、そのベランダの鳩被害は無くなった。次の週の袋は縦長に大きく平たいもので、中からその建具が出てきた時に目を輝かせたのは三階役員の中川さんだ。
「すごい偶然、ちょうどウチの玄関網戸が傷んでしまってて、何なら捨てられてないかしらって思ってたのよ」
それはまさにサイズも規格も完璧な網戸だった。
 塗料、備蓄品、AED装置、謎のからくりはさて置き住人達がてんでに希望するたび、日曜日のゴミ捨て場に該当品が出現する。二重サッシ、浴室乾燥機、薄型テレビ、旅行券、牛肉。要望品がもはや公共物ですらなくなっても、毎週何らかの適合品が捨てられ続けた。

 普段は立入禁止の屋上に謎の鳥居が建っているのが発見されたのは、殆ど全戸の住人達が口々に欲しいものをゴミ捨て場の前で唱え、管理人に訴え、それぞれに何やかんやを手に入れてはもっともっとと熱狂していた頃だった。
 謎の鳥居の額束には『日曜神社』と記されている。鳥居の前には賽銭箱が置いてあり、その上に一通の銀行通帳が載っていて、開いてみるとそこには全戸住人の修繕積立金およそ十年分に相当する負債額の記載があった。
「何でしょうこれは」
住人達の間で囁きが広がると同時に、我々は皆マンションから出られないことに気づく。エントランスから踏み出した途端、何故か鳥居の前に立っているのだ。誰も外に出ていけない。屋上から見渡す風景は晴れているのに、鳥居の向こうを覗き見た時に限っては霧が深くかかっているようで視界が悪い。勇敢にもその内へ踏み込んだ一階役員の矢野さんは夕刻五時を過ぎてからフラフラとこちら側へと戻ってきた。曰く、霧の向こうには工場の生産ラインのような大きな無人の部屋があり、終日何か機器のパーツの組み立て作業をしていたのだという。誰かが通帳をめくって「借金が減っている」と呟いた。そこには七千八百円分の支払済の記帳が新たに追加されていた。
 受け取ったものを返すまで、私達住民はこれから力を合わせて働かなくてはならないのかもしれない。
〈了〉

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