【ぶんぶくちゃいな】デズモンド・シャム「ぼくは共謀者−−中国の政治、ビジネス、そしてカネ」(前編)
新型コロナもすでに落ち着き、世界はまた経済の話題が大きく盛り返してきた。
中米の緊張関係は直接世界経済の緊張感を生んでいるし、ロシアによるウクライナ侵攻もまたエネルギー価格の高騰を引き起こし、経済に二次、三次的な影響をもたらしている。バイデン米大統領は広島G7サミットの後、国内の財政問題を解決するために他国の訪問をキャンセルし、きびすを返して帰国した。
毎日チェックしている中国のニュースでも、とにかく経済事情を直接示すニュースが占める割合が高まっている。政府の高官はやんわりと口を濁した表現でしか語らないため、社会は具体的な数字が盛り込まれた各種の発表を求め、それをもとに独自に行先を読み解こうとしているように見える。
その一方で汚職による下野、それも金融業界での汚職による失脚が毎日のように数件伝えられ続けている。このまま行くと、中国の主だった記入関係者は根こそぎ姿を消すのではないか、というほどの勢いである。
それは習近平の指示による、非子飼いに対する措置なのか、それともこれからやろうとしている「何か」を見据えた態勢づくりなのかはよくわからない。ただただ、あちこちで金融著名人たちが叩かれ続けているのを呆然と眺めている。
そうした、既存の、そしてこの20年間にやっとそれなりの規模をなすようになった金融業界叩きが続くことで、これから「ポストコロナ復活」を目指さなければならない中国経済全体にどんな影響をもたらすのか、と不安を感じる。だが、今のところ政府は工業や輸出、不動産などの「リアル経済」の成長には高い関心を払ってはいるものの、金融業界に対しては「整頓が先」という姿勢のようだ。その整頓後にいったいどんな未来を見ているのかはよくわからない。もちろん、「クリーン」とか「健全」とかいった形容詞はついているのだが……
まぁ、それは中国の常でもある。なにが「クリーン」なのか、なにが「正しい」のか、すべてが相対でしか存在しない国なので、「なるようになった」ものを目にするまでは、何が出来上がるのか分からないのだ。
まさに、それは中国でビジネスを展開していたデズモンド・シャム(沈棟)が直面していた問題でもあった。そして、ビジネスの利益を追いかけてその深みにはまり込んだ人間は、いつかシャッフルされていく運命にある……そんな彼の体験を綴った『レッド・ルーレット 私が陥った中国バブルの罠 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』はむちゃくちゃに面白い一冊である。
そのシャム氏に、「ニューヨーク・タイムズ」中国語版編集長の袁莉さんがインタビューしたポッドキャストが公開された。肉声のシャム氏は、その著書に書かれたような中国の政治とカネにもみくちゃにされる人生を送ったとは思えない落ち着いた物言いの人物だった。
袁さんは中国出身のジャーナリストで中国国内メディアで国内外の経験を積んだ後、米国の大学でジャーナリズムを専攻した。その後、「ウォールストリート・ジャーナル」や「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)の記者を務め、現在はNYT記者として記事を書きながら、同時にその中国語版の編集長を務めている。その傍らで昨年5月に中国の時事をテーマにしたインタビューVlog「不明白播客」(わからないVlog)を始め、ポッドキャストやYouTubeで配信している。
今回そこから、シャム氏のインタビューを日本語化して公開するご許可を袁莉さんから頂いた。今回は前編の半分を、後編は6月に配信する予定である。
なお、文中[]で示したのは筆者による補足である。
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