【ぶんぶくちゃいな】中国ニュースの「賞味期限」、そして「歴史のゴミ時間」

先日、ある中国人ビジネスマンと会っておしゃべりしていた時に、ニュースの話になった。

彼とは10年ほど前に香港で知り合った。その後、香港をベースに中国各地を忙しそうに出張で飛び回るようになった彼が属する業界は、本来なら良くも悪くもアクティブなはずなのだが、このところあまり目をひくニュースが流れてこない。彼自身も当然、神経を尖らせてメディアを読んでいるが、やはり大したニュースが入ってこないと言った。

「手当たり次第にニュースサイトを読んでいてもあんまり意味がない。キーになるサイトを見てれば十分」と言いながら、よく読むメディア媒体をすり合わせた。そして、お互いにほぼ同じメディアに目を通していることを確認し、彼が言った。「なんか、どこかで(流れるべきニュースが)詰まっている感じがするよね」

そうなのだ。

このところ、中国のニュースチェックをしていても、あまり手応えのあるニュースにいきあたらなくなった。いや、例えばこれまでにも「ぶんぶくちゃいなノオト」で取り上げてきた、食用油混載事件や蘇州日本人親子襲撃事件、また「戦狼外交」ならぬ「戦馬」と呼ばれる愛国庶民……こうした事件は本来なら、最初の暴露や出来事を経て多くのメディアがそこに群がり、真相と背景を究明し、問題の是正や制度的解決につなげていくのが本来メディアと社会のあるべき関係だ。

しかし、正直なところ、今年に入ってからどんな話題の事件も1週間以上もった試しがない。前掲の事件でも、蘇州襲撃事件は事件で亡くなった胡友平さんがその「見義勇為」(正義の行動)を称えられて表彰されると同時に、ぱったりと関連報道がストップした。続いて起きた食用油輸送トラック混載事件も、広く業界では「常識化」しているという報道の後、ぱたりとその後の報道が途絶えている。愛国庶民の話題にいたっては、ちょろちょろとSNSなどで同様の行動動画がアップはされるものの、大きな社会問題として論じられることはほぼなくなった。

つまり、どれほど人々の注目を浴び、また大きな話題になった出来事も、尻切れトンボになってしまっている。日本人親子を襲い、胡友平さんを殺した「市外からやってきた、無職の」男は、何を思って彼らを狙ったのか? 食用油の輸送事情は改善されたのか? アニメ展に入場しようとした浴衣姿のコスプレイヤーはなぜ追い立てられたのか? ……なにもわからないままだ。

最も熱心に調査報道を続けているメディアですらこうした事件の続報が流れないのを見ると、こうした後続ニュースは明らかに、当局によって一斉にストップされていると考えていい。

つまり、少なくとも「やる気」のある記者が一人でもいる限り、当局が第一報が出ることを必ずしも防ぐことはできない。また、その報道が社会や制度に対する警鐘となることもある。但し、その出来事と体制や制度、あるいは当局の責任を追求していくことは許されず、業界関係者の意識引き締め程度で済ませなければならない。当局にとって、『社会不安」が広がり、人々が懐疑的になるのは絶対に防がなければならない。

そのための期間は約1週間だ。こうしたネガティブなニュースはほぼ1週間を過ぎると、極端にメディアで論じられる機会が減り、ニュースメディアもプッシュ通知しなくなり、庶民の視界から消えていく。それと同時に、食用油混載事件記事を書いた記者のようにSNSアカウントが抹消され、文字通り姿を消していくこともある。メディアもこうした当局の意向がわかっているから、改めて記者たちを後続報道に投入することはしない。

それが今の中国ニュース報道の現状だ。いまさらながら、かつて取り上げた事件を振り返ってみても、その事件がどうなったのかがわからないままにほって置かれている。

そして、今回ご紹介するこの事件も、業界に衝撃を与えたにもかかわらず、今や表面的にはほぼ無風状態となってしまっている。


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