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【ぶんぶくちゃいな】「不明白播客」仇日の時代、中国人の我われは今なにを考えるべきか?(前編)
10月も終わりに入った。
みなさんは気づいておられただろうか? あの中国・深セン市で起きた、衝撃的な日本人小学生殺人事件から1カ月が経ったことを。
この間、筆者は「中国・日本人男児刺殺事件、『本当に申し訳ない』 多くの中国人が涙した“父親の手紙”の中身とは」という記事を発表したがご覧いただけただろうか。
事件からわずか1カ月なのに、あの衝撃的な事件がメディアで語られることはほぼなくなった。政府の意図が強く反映される中国だけではなく、日本のメディアでも同じである。前掲の記事で筆者が取り上げた「父親の手紙」と称される文書については、日本のマスメディアのほとんどが触れないままだ。
だが、その一方でメディア関係者の中から、「あの手紙は本物らしい」という声も複数きいた。マスメディアも手紙の存在に気づいていないわけでなく、「本物らしい」と理解しているにもかかわらず、やはり手紙の内容を報道しない。
その陰で日本在中大使館から報道自粛を求める要請があったとも耳にした。それについてツイッター(現X)でつぶやいたところ、匿名の方から「ご遺族からの要求らしい」というリプライももらった。だが、この手紙を前提に、「ご遺族からなのか、それとも父親の所属会社からなのか、それともそういうことにしているだけなのか」について尋ねても返事はない。
それをありえないと言い切るつもりはないが、あの父親の手紙の内容から見て、それは「直接の当事者ではない誰かがそういうことにした」レベルでしかないと考えている。こんなとき、「ご遺族」は何よりも勝るパワーワードだからだ。だが、「ご遺族」でもない人間がもし勝手に「ご遺族」を振り回しているとすれば、それはさらに罪深いといえるだろう。
つまり、我われは「火消し」の穴に入り込んでしまった。あとはマスメディアが報道したいことだけを報道するのを眺めさせられるだけである。だが、事件の深刻さはそうして他者に情報を選別されて知らされるだけにまかせているほど、呑気な話ではないはずなのだ。
なので、ニューヨーク・タイムズ記者の袁莉さんが主宰するポッドキャスト「不明白播客」から、ゲストの発言部分を前後編に分けて事件の影響を見つめる人たちの日中対話を翻訳してお届けする。このエピソードは9月24日、事件の6日後にライブ放送の形で流れたものである。ライブ放送の特徴を活かして、ゲストの発言部分以外に視聴者から届けられた質問にゲストが答えるパートも設けられたが、そのQ&Aパートについては、別途改めて時期を見て公開する予定である。
特に「いったい我われになにができるのか」という思いに駆られる、良識ある中国人(特に中国国内に暮らす人たち)になんらかの答えをもたらそうとして企画された回である。我われ日本人がその内容を知ることは、そんな「良識ある」人たちがどんなふうに考え、どんなロジックで事態をとらえ、そして何をしようとしているのか、さらに我われの日常からはよく見えない、わからない、想像もしていなかった彼らの焦燥感を理解できるはずだ。
今回は5人のゲストのうち、ブロガーの「破破的橋」さん、在東京のジャーナリスト「亜美」さんによるヘイトとそれが育まれた環境についてのお話を紹介する。
なお、いつものように日本人読者に分かりにくい用語には[]で筆者が説明を加えた。また、一部内容については同様に注釈をつけた。
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